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2024年読了本ベスト10

忙しくて気付けば2年中断してしまっていた、読了本ベスト10。残っているほうが後年の自分も楽しいなあと過去のものを読み返してみて改めて実感したので、自分のためにも毎年書いていきたいなあと思います。

10.私の生活改善運動/安達茉莉子

日常において、とても些細なことだけれど、気にかかっていること。タオルやシーツ、ゴミ箱、セーター、靴、本棚……。これでいいやで選んできたもの、でも本当は好きじゃないもの。それらが実は、「私」をないがしろにしてきた。淀んだ水路の小石を拾うように、幸せに生活していくための具体的な行動をとっていく。やがて、澄んだ水が田に満ちていく。
――ひとりよがりの贅沢ではない。それは、ひとの日常、ひとの営みが軽視される日々にあらがう、意地なのだ。それが“私”の「生活改善運動」である。
手づくりのZINEとしては異例のシリーズ累計五千部を記録した大人気エッセイ『私の生活改善運動 THIS IS MY LIFE』を、5万字の書下ろしとともに再構成。

「これでいい」じゃなくて、「これがいい」を選んで暮らしていくことの大切さを考えさせてくれる良書。
わたしたちは大事なものだけに囲まれて暮らすことができる、という当たり前だけれど忘れてしまいがちなことを改めて噛み締めさせてもらいました。特にこの一年、引っ越しをして新しい自分の生活を作り上げていくタイミングだったのでちょうどしみじみと沁みました。
エッセイの形でまとめてくれているので自己啓発本を読んだような気にならないところも嬉しい。良エッセイとして素直に楽しむことができました。

9.表徴の帝国/ロラン・バルト

「これはエクリチュールについての本である。日本を使って、わたしが関心を抱くエクリチュールの問題について書いた。日本はわたしに詩的素材を与えてくれたので、それを用いて、表徴についてのわたしの思想を展開したのである」。天ぷら、庭、歌舞伎の女形からパチンコ、学生運動にいたるまで…遠いガラバーニュの国“日本”のさまざまに感嘆しつつも、それらの常識を“零度”に解体、象徴、関係、認識のためのテキストとして読み解き、表現体(エクリチュール)と表徴(シーニュ)についての独自の哲学をあざやかに展開させる。

今年は思想書や哲学書を結構読みました。中でも食わず嫌いで苦手意識を持っていたフランス哲学&構造主義を読みたいなという気持ちがあり、なるべく意識的に取り込むようにしていた中で、この「表徴の帝国」は思わぬ拾い物だったなあという印象です。
ロラン・バルト攻略の正攻法では無いのだと思いますが、扱う主題が見えにくくて手触りが心許ない構造主義のテーマを具体的な日本の事物に落とし込んでくれていることで捉えやすく、個人的にはここから入ってよかったなと思いました。
次はTLで結構評判がいい気がする「テクストの快楽」も読んでみたいです。

8.読んでいない本について堂々と語る方法/ピエール・バイヤール

本は読んでいなくてもコメントできる。いや、むしろ読んでいないほうがいいくらいだ――大胆不敵なテーゼをひっさげて、フランス文壇の鬼才が放つ世界的ベストセラー。
ヴァレリー、エーコ、漱石など、古今東西の名作から読書をめぐるシーンをとりあげ、知識人たちがいかに鮮やかに「読んだふり」をやってのけたかを例証。テクストの細部にひきずられて自分を見失うことなく、その書物の位置づけを大づかみに捉える力こそ、「教養」の正体なのだ。そのコツさえ押さえれば、とっさのコメントも、レポートや小論文も、もう怖くない!すべての読書家必携の快著。

ちょっと前のベストセラーだけど、今年読んでよかった本です。実際の「読んでいない本について語る」というテクニック部分より、読んでいない本もその位置付けさえわかれば適切に語ることができる、という「共有図書館」の理論部分が面白かったです。
作者自身が本文中で引用している本に符合を付け「全く読んでいない本」「人から聞いたことがある本」などと、実際に語っている本の理解度までメタ的に教えてくれる構造もユーモラス。
最近はそこまででもなかったのですが、ここ数年のあいだに本を読めば読むほど読んでいない本が増えていくことをしんどいなあと漠然と感じている時期もあって、この本が「世の中にある本を全部読まなくていいんだ」と必要性の面からひとつ肯定してくれたことが気持ちとして救いになりました。良いタイミングで出会えた本だなと思います。

7.愛し合う二人に代わって/マイリー・メロイ

原題はごくあっさりと「The Proxy Marrige(代理人結婚)。
(中略)
あまりぱっとしない外見の、インテリジェントな男の子と、美人で派手っぽい(ところのある)女の子。高校時代に仲良くなり、気は合うんだけど、それより先にはなかなか進めない。彼は内気すぎるし、彼女は自分の夢にしっかり目がいっている。よくあるパターンだ。そのパターンに「ナイン・イレブン」からイラク戦争に至るアメリカの世相が重ねられている。(後略)

あらすじが無かったので、村上春樹の解説より引用

この短編はずっと好きな作品で、この作品のためだけに「恋しくて」の単行本を所有し続けているくらいなのだけれど、今年久しぶりに読んでやっぱりすごく好きだなあ、今年読んだものの中でこれより好きな作品は10本思いつかないなぁ、と思ったので変則的ですが今年の10作品に選出しました。
話は非常にシンプルな筋立てですが、代理人結婚というちょっと変わった小道具にイラン戦争が世相とリアリティの彩りを添えて、作品に引き込むための緩急がうまく仕込まれているなという印象を受ける作品。
村上春樹の訳すアメリカ文学が大好きなのですが、特にこういう冴えないけれど情熱を秘めた内気な青年と、奔放なモダンガールの取り合わせが好きなのだなあと、色々好きな作品について思いめぐらす中でつくづく思いました。

6.方舟/夕木春央

9人のうち、死んでもいいのは、ーー死ぬべきなのは誰か?

大学時代の友達と従兄と一緒に山奥の地下建築を訪れた柊一は、偶然出会った三人家族とともに地下建築の中で夜を越すことになった。
翌日の明け方、地震が発生し、扉が岩でふさがれた。さらに地盤に異変が起き、水が流入しはじめた。いずれ地下建築は水没する。
そんな矢先に殺人が起こった。
だれか一人を犠牲にすれば脱出できる。生贄には、その犯人がなるべきだ。ーー犯人以外の全員が、そう思った。

タイムリミットまでおよそ1週間。それまでに、僕らは殺人犯を見つけなければならない。

とにかくインパクトのすごかった作品。
すごいすごいという前評判の上で読んだのに、それでも騙されちゃったところに素直に脱帽。
どのコンテンツでもタイトル回収が鮮やかだと嬉しくなっちゃうタイプなのですが、この作品は一回序盤でふむふむなるほどね、と思わされたあとに最後の最後で「そういう意味!?」と思わせてくれるところが気持ちよかったです。
ただ、これは本当に個人的な趣味の話になるのですが、ミステリではロジックよりも台詞回しや人物造形などに厚みのある作品のほうが好きで…そのあたりがもう少し描き込まれていたら、本当に今年の個人的ベストを獲るような作品だった気がします。

5.死んだ石井の大群/金子玲介

白い部屋に閉じ込められた333人の石井。失敗すれば即、爆発の3つのゲームで試されるのは、運か執着心かーー。

14歳の唯は死にたかった。理由なんてなかった。何度も死のうとした。死ねなかった。今、はじめて生きようと思った。この理不尽な遊びから抜け出すために。
探偵の伏見と蜂須賀の元に、石井有一という人物を探してほしいという依頼がきた。劇団の主宰が舞台での怪演を目の当たりにし、その才能にほれ込んだ矢先の失踪だった。
唯と有一の身に何が起きたのか、そして二人の生死の行方はーー。

今年一番面白かった現代作品。
シンプルなデスゲームものだと思って読み始めて、見事にしてやられました。「またデスゲームものか」と思う人にこそ読んでほしい作品です。「方舟」で人物描写の厚みがあるほうが好き、と書きましたが、この作品はまさにサスペンス部分と人物造形の部分、台詞回しがすべてバランス良く高得点、という感覚を受けます。金子玲介さんはもともと純文学でデビューを目指されていた方なので、今年出版された3作品(デビューの年に三部作をいきなり刊行できる大型新人っぷりにも驚かされました)にもそこで培われた筆力が如何なく発揮されているなあと思いました。特に会話文のリズムと温度感が大好き。
デビュー作の「死んだ山田と教室」のほうが金子作品の良さは活きていた気がして迷いましたが、単純に作品として好きだった「石井」をチョイスしました。

4.青い城/モンゴメリ

内気で陰気な独身女性・ヴァランシー。心臓の持病で余命1年と診断された日から、後悔しない毎日を送ろうと決意するが……周到な伏線と辛口のユーモアに彩られ、夢見る愛の魔法に包まれた究極のロマンス!

モンゴメリの傑作。今年いちばん好きだった本はこの本かもしれません。だからといってこの本が今年のベスト10の1位には置かれないというのも不思議ですが、実際これより上位に置かれた本には置かれるだけの理由があるところが面白いなあと思います。こういうところがランキングを付ける面白さであり、振り返りの意味でもあるような気がします。

「赤毛のアン」より断然こっちのが好きだし、シンプルに一般受けしそうな夢のあるファンタジー。「アン」より知名度がないのが不思議なくらいの作品なので、もっとみんな読んでくれたらいいのにと思います。
近い系統で今年は「没落令嬢のレディ入門」も結構面白かったのですが、これのインパクトでちょっと薄れてしまったような感じがしました。

3.百年の孤独/G.ガルシア・マルケス

奇妙な寒村を開墾しながら孤独に生きる一族。その宿命を描いた、目も眩む百年の物語。
1967年にアルゼンチンのスダメリカナ社から刊行されて以来、世界の名だたる作家たちが賛辞を惜しまず、その影響下にあることを公言している世界文学屈指の名著。現在までに46の言語に翻訳され、5000万部発行されている世界的ベストセラー。「マジック・リアリズム」というキーワードとともに文学シーンに巨大な影響を与え続けている。蜃気楼の村マコンドを開墾しながら、愛なき世界を生きる孤独な一族の歴史を描いた一大サーガ。

今年の大ブームに乗って読了。流行りのジャンルではない海外文学がこれだけ盛り上がったことも含めて、2024年を振り返った時に象徴的な一冊だなあと思います。
長く気になっていた作品が読了できて宿題を片付けたような達成感があったのに加えて、作品自体もすごく魅力的でした。
正直これだけの作品だと名作の技巧への評価が先行して耳に入ってきてしまう常で、作品自体はそこまで感動しない(読んだ事実が大事になるタイプの)可能性もあるなと思っていたけど、普通に面白かった。
名作といっても重厚で名作然としているわけでもなく、意外にも気軽に読み進められ、時には真剣に捉えることが作者におちょくられているように思えるような突拍子のなさもあり、ずっと気を張って読むタイプの作品でもなかったのでそれが良かったのかもしれません。
「マジック・リアリズム」という概念についても、聞き齧りではあまり実態を持たないものが漠然とではありますがひとつ捉えられた気がして良かったです。
「ブッデンブローク家の人々」や「赤朽葉家の伝説」とかも大好きなので、実は自分は一族系大河小説(?)が好きなのかもしれないと思ったり。

2.ペンギンと暮らす/小川糸

夫の帰りを待ちながら作る〆鰺、身体と心がポカポカになる野菜のポタージュ……。ベストセラー小説『食堂かたつむり』の著者が綴る、美味しくて愛おしい毎日。

小川糸さんのエッセイ。今のように作家としての地位を確立される前、デビュー前後の生活が綴られています。
美味しいものの描写が大好きなので、それに釣られて読み始めたのですが、普通の日記なので毎日美味しいものの話ばかりしているわけでもなく、でも美味しいものではない章も全部読みやすくて、続きが読みたくて、引き込まれて読みました。
衒わずに「丁寧な暮らし」をしている小川さん。ご自分では「結構ズボラ」と思っていらっしゃるようなところがあり、そのおかげでわざとらしくなく自然に読み進められます。
生活の中の小さな視点も優しく素敵で、同じような目線で世界が見られるようになりたいなあ、と思いました。
手始めに(?)私も小川さんの真似をして夫をペンギンだと思って暮らすことにしたら生活が楽しくなったので、実生活にもメリットが大きかった一冊です。

1.深い河/遠藤周作

愛を求めて、人生の意味を求めてインドへと向かう人々。自らの生きてきた時間をふり仰ぎ、母なる河ガンジスのほとりにたたずむとき、大いなる水の流れは人間たちを次の世に運ぶように包みこむ。人と人のふれ合いの声を力強い沈黙で受けとめ河は流れる。

自分でもちょっと意外な作品が一位でした。
読んだ瞬間にビビ!と来た、というよりは、今年を振り返ってみて結果的に一番はこれだったな…という作品。読後感もじわじわと「良いものを読んだ…」という感じで、読了後も沁みるように「あれ、良かったなあ…」と折にふれて思うような、自分にとっては珍しい読書体験でした。
20歳前後のときに遠藤周作を読んだ時には全然引っかからず、「合わない作家」というレッテルを貼ってきてしまったのですが、久しぶりに手に取ってみたら自分でも驚くほど良かったので、その驚きも含んだ順位です。
この10年弱で色々と実人生の経験値も積み、やっと自分が遠藤周作に追いついたのかもしれません。
私はキリスト教とは縁の浅い人生なのですが、遠藤周作の宗教観はヨーロッパ圏のキリスト教が生活に根付いた中で育った作家が描くものとはまた違っていて、遠藤周作というフィルターを通すことで日本人が受け入れやすい形に変換されているように感じました。

こうして振り返ると、2024年のベスト10は「丁寧」がキーワードかもしれないな、と思いました。ずばり「丁寧な暮らし」寄りの書籍が2冊ランクインしていることもありますが、読み方としても、ゆっくり、じっくり、しみじみと読みながら味わうような楽しみ方の本が多くランクインした印象を受けました。
裏を返せば、例年多めのミステリ・サスペンス系は、ランクインする面白いものにも出会いましたが、ページをめくる手が止まらない!というような作品は少なかったので、2025年は徹夜で読破するような本たちにたくさん出会えたら嬉しいなと思います。

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