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野菜不足を解消しながら残り僅かな20代を振り返る

10月初旬。
明日は誰と会う予定もないので、きっと予定がないであろう夫と何しようかなと考えていたところ、珍しく夫は予定があるとのことだった。
なるほど。つまり久しぶりに自分だけのために時間を使える日が誕生するということか。
予定が空いたとわかると、速攻であらゆる予定を入れ始めた。ヨガ、ネイル、よもぎ蒸し、などなど。いわゆるメンテナンスデーだ。自分のためにお金を使って、気ままに過ごしてやろうじゃないか。しめしめ。

思えば、20代の頃、何も予定がない日は、こうやって美容の予定を詰め込んだり、ひたすら都心を練り歩いてお買い物をしたりして、時間を過ごしていた。

30歳まで約1週間という今日、久しぶりに、私の独身時代の過ごし方を思い出した。そういえばこんなだったなって。

結婚してから1人だけの時間というのがグッと減って忘れかけていたが、20代のほとんどは自由気ままに一人時間を過ごしていた。特に大学の頃は、授業をさぼることは日常茶飯事、さらに平日1日は授業のない日を作っていたので、結構暇を持て余していたように思う。結婚後、特に最近はひとりで過ごす時間はあまりなく、一人時間が欲しいなあなんて思っていたが、私は20代前半にその時間を十分に頂いていたな、とふと思った。

翌日の予定は、午前中のヨガからスタート。いつものヨガ、と思っていたら月が変わってこれまでのレッスンと内容が変わり、音楽に合わせてゴムチューブやバランスボールを使いながら激しく体を動かす、ヨガとは言い難いレッスンで、朝一体がヘロヘロになった。おなかはペコペコ、体はガタガタの私は、倒れ込むように近くの蕎麦屋に入り込んだ。午前11時過ぎ。どうやら一番乗りの客らしい。

どうも前夜から親子丼が食べたい気分で、迷わず親子丼を注文した。野菜不足が気になり、サラダはありますか、と最近入ってきたのだろうバイトの方に聞くと、ポテトサラダはありますという。ポテトサラダはサラダではないなと思い、うーんどうしようと悩んでいたら、バイトの方がベテランおばちゃん店員を呼んできた。おばちゃんは「ポテトサラダだけどね、葉野菜が添えてあるよ」と言う。ありがとうございます、でも私は芋がそんなに好きではないんです、と言って断ってしまった。別に芋は好きなのに、野菜不足を解消したいという気持ちを素直に伝えることができず、なぜかおばちゃんに嘘をついてしまった。
代わりに、300円のきゅうりの浅漬けを注文した。これと親子丼で、野菜不足も解消だ、と思った。

壁に目をやると「そばが好き」という標語が書かれた張り紙が貼られている。蕎麦屋で蕎麦を頼まないなんてやっぱり邪道だよなあ、と思うと同時に、先ほど「芋が好きじゃない」とついた嘘に対するうしろめたさで、胸がぎゅっと締め付けられた。

野菜不足を解消する浅漬けが到着した。きゅうり一本が一口サイズに切られている。さっぱりさと水水しさが両立していて、とてもおいしい。すぐに食平らげてしまい、親子丼が来るまでの間、割りばしの入っている袋で箸袋を作ることに専念していた。ネットで「箸袋 おり方」と検索し上の方に出てきた折り方を見ながらやるも、なかなかいびつなものができた。やり直そうかなと思ったところに親子丼が届いたので、諦めた。

親子丼単品だと思っていたら、お盆には、今食べたばかりのキュウリの浅漬けと、白菜の浅漬けが乗ったきゅうりと、具材がたっぷり入ったサプライズ味噌汁。なんだ、浅漬け頼む必要ないくらい野菜あるじゃん、と拍子抜けした。店員のおばちゃんよ、事前に教えてくれ、なんて思った。けれどおばちゃんの中では「サラダがあるか気にしている且つ芋が好きじゃない女」と定義づけられたはずなので、親子丼にはいろいろ野菜もついてくるよ、と伝えてくれるわけはないのだ。自分が悪い。

そんなこんなで野菜を、ではなく親子丼を堪能しつつお店の中を見渡していた。何が起きたのか、私の後に入ってくるお客さんたちは、不思議なことに立て続けに蕎麦以外を注文していく。

まず、私の後に入ってきた、父、母、息子の三人家族が頼んだのは、山菜うどん(父)、生姜焼き定食(息子)、小海老天うどん(母、韓国人らしい)だった。
初め父と息子が日本語で会話していたが、お手洗いから帰ってきた母親と韓国語で会話し始めた。最近、韓ドラを一気見したばかりだったので、会話が聞き取れるのではないかと淡い期待を胸に耳をそばだてたが、案の定、一言もわからなかった。
母親の頼んだ小海老天うどんがテーブルに到着した瞬間、みんなで箸を伸ばし小エビを取り始めたのがなんとなくシュールで面白かった。

続いて入ってきた年配の男女4人組は、町内会のスポーツ好仲間の集まりのように見えた。おばあさんの白いポロシャツの胸元には、ラジオ体操のイメージキャラクター「ラタ坊」がプリントされていた。ラジオ体操連盟のサイトに飛ぶと、「ラタ坊」を使用するにはの使用申請書を全国ラジオ体操連盟事務局長に要提出、とある。つまり、このポロシャツは、使用申請書を提出し、事務局長の許可を得てプリントされたものなのか、と勝手にポロシャツの製造者に思いを馳せ、苦労をねぎらったりしてみる。
そんなこんなで4人組は、支那そばって懐かしいわね、と言いながら中華ラーメンを2つと、鍋焼きうどんを2つ、一つは大で注文した。

その後入ってきたおひとり様のおじさんは、じっとメニューを見て吟味した上で、何を頼むのかなと思っていたら、「あんかけもやし」と言った。

あんかけもやし。お酒のあてにするでもなく、水をお供に、シンプルにあんかけもやしだけを頼んでいる。気になる。

そろそろ誰か蕎麦を頼まないかな、と最後に入ってきた夫婦に望みをかけるも、頼んだのは冷やし五目中華二つ。今は10月、ひんやり秋の空気を感じる日だというのに、冷やし五目中華とは、何故だ。

なぜこうも今日は誰も蕎麦屋でそばを頼まないのか。壁に貼られた「そばが好き」の標語を見て苦しめられているものは一人もいないだろうか。おひとり様のおじさんがあんかけもやしの後に頼んでくれることを期待しながら、私はお店を出た。

その後は前日に詰め込んだ予定を淡々とこなしていき、ネイルを終えた後に、新宿にあるさば専門店「いまがわ食堂」に入店した。

何度か来たことがあるのだが、味・量・価格がとにかく素晴らしくて大好きなお店である。人に今一番おすすめしたいお店といっても過言ではない。

ここのお店は、サバを中心とした単品メニューと定食メニューが豊富にあり、一人のさく飯で利用しても、飲み会で利用しても良い。とにかく使い勝手が良いのだ。このお店に関して何かを書こうとすると、べた褒めすることしかできない、それくらい素晴らしいお店だと私は思う。

ごまサバ丼定食を注文した。程なくして到着したお盆には、ごまサバ丼、味噌汁(本日二回目、わかめがほんの少し浮いている)、おから、出汁汁(後でお茶漬けとして楽しめる)が載っている。

野菜が足りない。

一日を通して野菜を欲していた私は、定食なのに野菜がないことに若干いらだちを覚えた。昼は親子丼としか書いていないメニューに、小鉢だの具沢山味噌汁がついていたのに夜は真逆の状況ではないか。

すぐさま、しらすサラダのハーフ(400円くらい)を追加注文した。割とすぐに、お待たせしました、と店員さんがテーブルの上にサラダを置く。見ると、2人前以上はゆうにある特盛サラダが目の前にある。「すみません、ハーフにしたのですが」と焦り気味に伝えると、「これがハーフです」、と一言。あまりの量に一瞬面食らったが、「野菜がこんなにとれるなんてこの上ない状況じゃないか」と気持ちを切り替え、責任をもって平らげた。

帰宅後、松任谷由美のDestinyを聞きながらよもぎ蒸しに向かった。イントロのノリの良さにつられてリズムを刻みながら歩く。すると斜め前方にいた、黒いハット、青いチェックシャツ、ベージュっぽいチノパンを履いた、黒い傘をチャップリンのステッキを彷彿とさせる持ち方をして歩くおじいさんが、まさかの私と同じ速度で、つまりはDestinyのテンポと同じ速度で歩き始めているではないか。不意打ちをつかれて笑いそうになる。テンポを揃え、おじいさんを追い抜かないように斜め後ろを歩いていると、おじいさんがちらっと斜め後ろにいる私の方を見てきた。背後をずっと歩いていたから少し緊張させてしまったのかもな、と思い、Destinyのテンポに合わせることなく、少し足早に、私はおじいさん追い抜くことにした。ひっそりと心の中で、束の間に楽しい時間をありがとう、とおじいさんに感謝をした。

こうしてじっくり一日を振り買ってみると、1人で過ごす休日にも、色んなことが起きていた。一歩外に出てみると世界は面白いもので溢れている。俯いてスマホを見ればたくさんの情報に溢れているが、それはアルゴリズムが作った自分専用の世界。だけれど顔を上げれば、私だけじゃなく、みんなで作り上げた世界が広がっている。その瞬間にしか構成されない面白いことで溢れている。何気ない日常も心を静かに見つめれば、何かが見えてくる。

20代も残すところあと1週間。1ヶ月ほど前に、これまでの人生を棚卸し、何が達成できなかったか考えたときに、「習慣化」が浮き彫りになった。それ以降毎日、自分の決めたことをコツコツ続けてきた。また、30歳になるまでに見た目も磨くぞ、と一念発起していたが、今日という日を過ごして思ったことは、たくさん動いた分、栄養バランスの取れた食事をたっぷり食べて、寝る、これこそが見た目を磨くことにつながると感じた。憲法にも書かれている、健康で文化的な生活をすれば、自然と表情も明るくなる。変に食事を抜いたりせず、バランスの良い食事を心がけて、しっかり寝る、これに尽きる。

そうやって至極普通のことに気づいた誕生日1週間前だった。人間一度は耳にするし、わかった気になるけど、自分の実体験を持って初めて身に染みるものだ。残りの1週間も日々の生活に潜む楽しさを見つけながら過ごし、気持ちよく新しい年代をお出迎えしたいと思う。

さて、NOTEの投稿をしばらく溜め込んだのだが、久しぶりの投稿をするとかなり長文になってしまうということに気づいた。30代はちょこちょこ更新も習慣化したい。ではまた。

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