
リハビリ中のNGワード
認知行動療法に関する記事が続いたので今回は違う話題です。
リハビリ中に何気なく使っている言葉が、
実は患者さんによっては悪影響がある!…かもしれないというお話。
以前の記事でも「言葉の使い方」について言及したことがあります。
セラピストの言葉によってリハビリにどのような影響があるのか?
について、論文を元に深掘りしていきたいと思います。
言葉のもつ力
「言葉はもちろん、人類が使用する最も強力な薬物である」
イギリスの詩人が言うように、
言葉には患者を癒す効果も傷つける力もあります。
今回引用している論文の著者らは以下のように断言しています。
☑️効果的なリハビリテーションの基盤のひとつは、人々を回復へと導くコミュニケーション能力にある
さて、
僕ら療法士は「言葉」や「コミュニケーション」を治療手段として上手く使えているのでしょうか?
少なくとも僕にはあまり自信がありません…
それもそのはず、
医療従事者が受ける専門的な教育は、病理解剖学的な問題が中心になっています。
そもそもの下地が「対人間」より、「対疾患」に偏っているんです。
僕らは、
解剖学的な知識を叩き込まれ、セミナーでも繰り返し勉強し、局所へのアプローチ技術を高めてきました。
それ自体はとても大切なことです。
ですがその一方で、僕らが話す言葉の中身までも「生物学的な」単語がいつの間にか侵入してきてしまっています。
・「背骨の関節が狭くなって、神経を圧迫しているから足が痺れているんです」
・「膝の軟骨がすり減って、膝が変形してしまっています」
・「このレントゲン写真をみると骨がスカスカなので、転ぶと骨折しやすい状態です」
病態の説明としては決して間違っていません。
むしろ、何も説明しない医療者より丁寧なくらいです。
ですが、
臨床家の多くが自分の言葉が引き起こす潜在的な害に無自覚であると言われています。
心理状態に左右される言葉の解釈
「言葉は歯磨き粉のようなもので、一度チューブから出してしまうと元に戻すことは不可能である」
「私たちが使う言葉に患者がどう反応しているかを敏感に察知する必要がある」
コミュニケーションをしっかりと取っていない場合、
医学用語を聞いた患者さんは、その意味するところを誤解する恐れがあります。
「変性ってことはもう治らないんだ」
「狭窄症って聞いてから余計腰が痛くなった気がする」
みたいに。
さらに、
患者さんの自己解釈は、患者自身の心理状態によっても左右されてしまいます。
抑うつ状態で落ち込んでいる患者さんに、
「退行変性」という言葉はどのように響くでしょうか?
決してプラスのイメージは湧かないことは理解できると思います。
加えて、
どこからしらに障害を持つ患者さんの多くは、ポジティブな面よりもネガティブな面を見る傾向があります。
自分の弱さを裏付けるような情報を自分から求めてしまうんです。
そこに否定的な自己信念が加わるとどうなるでしょう?
例えば、「膝が変形したらじきに歩けなくなる」「歩けなくなったらおしまいだ」というような。
注意バイアスと呼ばれる現象があります。
自分の持っている信念を裏付けるような情報を、無意識に求めてしまう状態のことです。
否定的な自己信念に注意バイアスがかかると、負のスパイラルに落ち込んでしまいます。
つまり、
医療従事者の無自覚な言葉によって、患者さんの否定的な自己信念のスイッチを入れてしまう可能性がある、ってことです。
NGワード
論文の中で紹介されているNGワードと、その言い換え方を紹介します。
・慢性的な退行性変化→ 正常な加齢変化
・不安定性→ より強さとコントロールが必要
・摩耗と損傷→ 正常な加齢変化
・ご心配なく→ すべて上手くいきます
・引き裂かれた→引っ張られた
・損傷→ 修復可能な傷
・知覚異常→ 感覚の変化
・脊柱前弯症→ 背中の正常なカーブ
・疾患→ コンディション
・慢性→ 続くかもしれないが、克服できる
・あなたはこのまま生きていかなければならない→ いくつかの調整が必要かもしれない
他にも言い換えた方が良い言葉はたくさんあると思います。
そして医療従事者は特に、
組織の変性そのものが悪いものではない(痛みを出しているとは限らない)、ということをもっと知っておくべきです。
「50代の人の8割に椎間板の変性があります。つまり、正常な加齢変化なので何も心配はありません」
病態生理を知っていると、
上記のような声かけを工夫することだってできますから。
僕の経験談を一つお話します。
腰の痛みで整形外科を受診した40代の女性が「骨棘がある」と医師に言われました。
女性はそれから「私の腰骨には棘があるんだ…」と思って、なるべく腰を動かさないように生活していたそうです。
僕がその方の腰を触診すると、表層〜深層の筋膜がガチガチに固まっていました。
当然、循環不全が起こるので痛みは良くなりません。
この女性の腰の痛みは、骨棘と何の関係もありませんでした。
肋間神経痛や帯状疱疹が影響していた可能性はありますが、
おそらく筋筋膜性の腰痛が痛みの正体です。なぜなら、その場で皮膚と筋膜の滑走操作をしたら疼痛が改善したからです。
「棘」という言葉やイメージによって体を動かすことをためらった結果、
さらに循環が悪くなって疼痛が悪化したわけです。
僕らが何気なく発する言葉に、相手はどのようなイメージを持つのか?
そこに想像力を発揮するのは、普段から意識していないととても無理でしょう。
論文の著者は以下のように結論しています。
私たちは、
"患者にとってこの問題は何を意味するのか"
"この状況で患者が前向きな展望を見出せるようにするにはどうしたらいいのか "
といった問いを自問し続ける必要がある。
これには、
言葉が社会的、心理的、生物学的、文化的要因にどのような影響を与えうるかを探ることが含まれる。
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理学療法士を11年やってきたけど、自分のパーソナリティを今すぐ理解して欲しい。学校では「患者や同僚との関わり方」は教えてくれない。真面目な人ほど対人関係でメンタルを病みやすい。でも、自分の根っこを知ると変われる。パーソナリティを作る”5つの特性”について分かりやすくリプ欄に書きました
— 寺島佑@理学療法士×自律神経×心理学 (@re_1021_) February 27, 2023
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