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トラウマへの対処法、TICとは

脳に異常がないのに身体が麻痺する。

以前の記事で、
精神的な問題が元で身体に麻痺が起こる「機能性神経障害」について解説しました。

心の状態が身体に影響を与える、「心身相関」とも呼ばれるこの現象の最も一般的な例は、PTSD(心的外傷後ストレス障害)として知られています。

理学療法士にとっては馴染みのない疾患かもしれませんが、
実は事故による骨折や突然の脳卒中の発症など、PTSDのきっかけになってもおかしくない病状を抱えた患者さんと日々関わっているんですよね。

実際に、日本では約 6 割の人がPTSDになりかねない出来事を最低 1 つは体験していると報告されています(Kawakami et al.2014;Kessler et al.2017)

今回は、
トラウマを抱えた患者に対する支援方法である「トラウマ・インフォームド・ケア(TIC)」について解説していきます。


トラウマについて知る

まずは簡単にトラウマの定義をおさらいしておきましょう。

トラウマとは、
「個人の力では対処できないような外的な出来事を体験したときのストレス」
と定義されています。

これをもっと詳しく見ると、

出来事や状況の組み合わせの結果として生じ、
身体的・感情的に有害であるか、または 生命を脅かすものとして体験され、
個人の機能的および精神的、身体的、社会的、感情的またはスピリチュアルな幸福に、長期的な悪影響を与えるもの
(Substance Abuse and Mental Health Services Administration, 2014)

長ったらしいですが要するに、
精神身体的に長期的な悪影響を与える体験をトラウマ(=心的外傷)と呼ぶわけですね。

PTSD(Post Traumatic Stress Disorder)の詳しい診断基準はDSM-5に記載されていますが、要約するとこんな感じです。

ひどく衝撃的な出来事を体験した後、
1か月以上の時間が過ぎてもその時の体験や記憶を無意識に思い出したり、夢に見たりすることが続いて、日常生活に支障が出ること

PTSDについての他のデータを見ると、リハビリ職にも関わりが深いことが理解できます。

・PTSD のわが国での生涯有病率は 1.3%で比較的ありふれた疾患である
 (Kawakami et al.2014)
・PTSD の約 8 割が、他の身体疾患や精神疾患の併存症を有する
 (Forbes et al.2020/2022).

トラウマが過小評価される原因


思っている以上にトラウマを抱えている人(トラウマになりかねない体験をした人)は多いわけですが、
日常診療で目にする機会が少ないのはなぜなのでしょうか?

それはトラウマが過小評価されているからだと言われています。
医療者が下手にトラウマという実態のないものに触れてしまうことで、

・症状が悪化してしまわないだろうか?
・もしそうなったときにどのように対応したらよいかわからない

といった不安が生じます。

それはそうですよね。
直接的な表現が目立つうつ病の質問紙票が実施しにくいように、
衝撃的な体験をした相手に再びそのことを思い出させのは古傷を抉るような印象を医療者に与えますから。

実際に、
他者からの言葉や記憶の想起がリマインダーとなって、トラウマ関連症状が生じてしまうこともあります。

じゃあ見て見ぬふりをすれば良いのかというと、もちろんそんなことはありません。
「もしかしたらトラウマを抱えているかもしれない」という意識を持って、目の前にいる対象者に向き合う必要があります。

トラウマの影響


衝撃的な出来事に直面した時、人は「戦う(Fight)」 「逃げる(Flight)」「すくむ(Freeze)」のいずれかの反応を示します。
これらは動物に備わった本能であり、いわば必要な生存戦略です。

しかし、
その出来事が何らかの理由でトラウマとなってしまうと、上記の反応が無害な状況でも再び起きてしまいます。

例えば、
その場にそぐわない攻撃的な行動(Fight)や、
過度に消極的な行動(Flight)、
あるいは、精神活動の一時停止(Freeze)が日常場面で生じてしまう。

こうしたトラウマの影響が長期に及ぶと、
認知・情緒・行動・ 対人関係・身体・脳の発達・精神健康などの様々な領域に影響が及ぶことが知られています。

トラウマ関連症状

そして、
やがては物事の捉え方(認知)が歪んでしまい、自分自身や世の中への見方が変わってしまうこともあります。

感情や行動に影響を与える認知が歪んでしまうことが、その後の人生を生き難いものにしてしまうわけですね。

「認知」についての詳細は下記の記事で解説しています。

トラウマ・インフォームド・ケア(TIC)とは


1990年代に米国で発展したTICとは、
「トラウマとその影響についての知識を持ち、その知識や情報に基づいた関心・配慮・注意を向けた関わりをすること」
を指しています。

日本精神科救急学会のガイドラインでは、
興奮・攻撃性の強い患者への対応の基本にTICが据えられています。

注意事項はこんな感じ。

・クライエントが敬意をもって受け入れられていると感じることが何より大切
・些細なことであっても、クライエントの能動的な選択が最大限尊重されることが必要
・自分の行動を自分で決定しコントロールする感覚を取り戻していく

TICの重要事項として4つのRが挙げられています。

(Realize)トラウマについての知識を持つ
(Recognize)目の前のクライエントがトラウマを有しているかもしれないことに気づく
(Respond)トラウマについての知識に基づいた対応をする
(Resist re-traumatization)これらを実践することによって再トラウマを予防する

具体例は下記の表を参照してください。


いかがでしょう?
発症早期の患者さんに接する時に自然とTICに則った介入をしていた、という人もいるのではないでしょうか。

患者さんへの対応方法として礼節はもちろん大切ですが、
それ以外にも「TICの概念に沿った対応は取れているか?」という視点も大切にしていきたいですね。

【参考文献】
精神看護におけるトラウマインフォームドケアの視点https://www.jstage.jst.go.jp/article/japmhn/32/2/32_32S33.02/_pdf/-char/en

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