『それでもなぜ、トランプは支持されるのか―アメリカ地殻変動の思想史(著: 会田 弘継)〜ディストピアはもう現実?現代アメリカの悪夢
【内容】
ドナルド・トランプはなぜアメリカで支持されるのかを、歴史的な経緯を踏まえて解説の書。
【感想】
またしても、メディアに騙されたような気がします。
日本の報道ではカマラ・ハリスが優勢というニュースばかりで、私も「8割方ハリスが大統領になるだろう」と思っていました。開票が始まって数時間後も、両者が拮抗しているとの報道が続き、やはりハリスが勝つのだろう、もしトランプが負けたらまた暴動や裁判沙汰になるのでは…と勝手に想像していました。
しかし、ふたを開けてみれば、トランプが圧勝。前回の大統領選のこともあり、どこかで「もしかしたらトランプが再び大統領に?」と思ってはいましたが、ここまでの勝利となると一体どういうことなのかと疑問を抱き、この本を手に取りました。
読み進めるうちに、ジョージ・オーウェルの『1984年』を現代に置き換えたディストピア小説を読んでいるかのような感覚を覚えました。フィクションとして楽しんでいるかと思えば、これが現実だと思い出して暗澹たる気持ちになっていく…
トランプが再選した理由を理解しようとニュースや論説などに目を通したりしたのですが、日本の報道ではハリス優勢の話ばかりだったため、内心「またホワイトハウス襲撃や『シビルウォー』のような事態になるのでは」と不安を感じていました。そんな中、選挙速報でトランプ優勢のニュースが流れ、状況を見守りながら驚きを隠せませんでした。
ニュース解説の中には、「トランプの勝利によって、選挙後に予想されていた裁判や暴動が避けられたのは唯一の不幸中の幸いだ」という指摘もあり、確かにその通りだと思わず苦笑いしてしまいました。
本書では、アメリカの二大政党やワシントン周辺の富裕層優遇によって生じた中間層の崩壊と貧困層の増加について、歴史的経緯や思想的な背景から解説しており、非常に興味深く学びました。
また、今回の選挙でトランプが支持を集めた背景には、X(旧Twitter)上でトランプ支持の広告が盛んに表示されたことも影響していたとのこと。イーロン・マスクがTwitterを買収したことがトランプ当選を陰で支えていたのかもしれないと、今さらながら感じました。日本の報道では、アメリカ人の本音と建前の違いを十分に伝えられていないのではないかと指摘する声もありました。
表面的なニュースだけではわからない、アカデミックな視点からのアプローチがある本書には大いに刺激を受けました。
トランプが再選されたことで、これからの世界がどう動いていくのかを考えると、どこか現実感が湧かないような、不思議な感覚に襲われます。「トランプが終身大統領を目指している」という噂まで聞こえてきて、ますます驚くばかりです。
本書を読むと、アメリカの白人貧困層、特に学歴の低い中高年層で自殺やオピオイド中毒による「絶望死」が増加しているという話が印象に残ります。オバマ政権やトランプ政権の誕生も、既存の政治勢力への失望から生じた現象であるという指摘にも共感しました。また、アメリカの社会現象は「左右の対立」ではなく「階級闘争」という見方にも説得力を感じました。
興味深かったのは、ヨーロッパでは教会に通う人が約10%であるのに対し、アメリカでは約40%が通うというキリスト教色の強さです。さらに、ホームレスになると犯罪者として刑務所に入れられ、3回刑務所に入ると終身刑になる制度もあると知りました。富裕層が民営刑務所で収監者を安価に労働力として使う「ビジネス」が広がっているという話には驚きを禁じ得ませんでした。
日本でも似たような状況が現れ始めている気がします。闇バイトに手を染める若者や、売春に走る若い女性が増えていることに、アメリカの影響を感じざるを得ません。先日、15世紀前半の日本の社会についての講演を聴きましたが、当時も貧しい女性たちが一時的に売春を行うことがあったそうです。今の日本社会が、中世の状況に似てきているように思えてなりません。
本書の内容がどこまで正確で裏付けのあるものかは浅学の私には判断付きかねる部分もおおいのですが、アメリカの現状に対する一つの考え方としてとても興味深いものでした。
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