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『婚活マエストロ(著:宮島未奈)』〜婚活産業×お仕事小説――『成瀬は天下を取りに行く』作者の新境地
※少しネタバレします。
【内容】
ワーキングプアのwebライターの40歳の猪名川健人は、婚活会社の仕事を依頼される。そこで出会った婚活会社社員『婚活マエストロ』の鏡原奈緒子との出会いによって、それまで閉塞感抱えて生きてきた健人の人生が動き出す。
【感想】
『成瀬は天下を取りに行く』の作者が「婚活の小説家」をテーマにした作品を書くと知り、主人公は女性だと思い込んでいました。しかし、実際には男性が主人公で少し驚きました。
本作は婚活産業を題材にしながら、単なる恋愛小説ではなく、お仕事小説としてもしっかりと描かれています。
婚活を斡旋する側ではなく、婚活する当事者を主人公にするという視点も興味深いです。もしタイトルから「婚活する人間が主人公であること」が明確に伝わるものであったなら、本の印象は大きく変わったかもしれません。
日本の平均年齢が50歳を超え、生涯未婚率が男性で3割、女性で2割に迫るこの現状を考えると、本作のテーマが今の時代に非常に的確にフィットしたものだとも感じました。
また、登場人物同士の会話ややり取りの巧みさは、著者の持ち味がよく発揮されている部分だと思います。構成も練られており、読みやすい仕上がりでした。
『成瀬は天下を取りに行く』では、表紙のイラストが著者の細かい注文により何度も修正されたという話を聞いたことがあります。その話を踏まえると、本作の表紙に描かれた女性の顔も同様の工程を経ているのかもしれません。そうした点からも、興味を引かれました。
さらに、主人公と婚活マエストロがデート(?)をする場所が『サイゼリヤ』や『なか卯』である点も印象的でした。これは現代の日本社会のリアルを象徴するようなシーンになっていました。
婚活マエストロが「相性や恋心を匂いで感じる」という特殊能力的な設定も、違和感なく物語に溶け込んでおり、巧みだと感じました。
これまで私は社会問題や人間関係のひずみを描いた作品を好んで読んできましたが、本作のような「40歳から始まる健全な恋愛」をテーマにした作品には、新鮮な魅力がありました。少し斜め上を行くようでありながら、正統派のエンタメとして楽しめる一冊でした。
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