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『ルックバック(アニメ映画)』〜『ルックバック』の深淵を覗き込む:心の奥底を揺さぶられた映画体験

視聴環境:Amazon prime video

※ネタバレします。


【内容】
漫画家目指す小学生の藤野は、引き篭もりだった京本と共同で漫画を描いていくことになり…


【感想】
映画館で公開当時に観て、物凄い何かを感じました。その作品が、Amazon prime video で配信始まったので、観直してみました。
自分が何でこの作品をみることで、こんなに心を揺さぶらされたのか、確認してみたい…

映画館の入場特典の漫画のネーム(下書き)や、漫画、ラジオやYouTubeのインタビューなど、観たりして、実際よ映像がどうであったのか、気になっていたこともあります。

冒頭の主人公の藤野の家が、ズームアップになっていくシーンと、その直後の藤野の4コマ漫画を映像化したもののズームアウトになっていくシーンは、対になっているのに気付きました。

河合優実の自意識過剰の小学生の感じが、たまらない…心の奥にあった青臭く焦ったいような感覚が引っ張り出されるような感覚…

初見時、引き篭もりの方言を女の子役の声優やっている人も最高だなあと…内向的な人が声優やってるのかと勝手に思っていたのですが…当たり前ですが、後でこの映画についてインタビューに答えている女優さんが、標準語でハキハキ話している綺麗な女優さんで、よく考えれば当たり前のことなのですが、意外な感じもしました。

この作品は、同じ作者の『チェーンソーマン』もそうですが、観ていると、押さえ込んでいた心の感情を揺さぶってくるような、「うおおおおっ」と叫びたくなるような不思議な感覚になります。
このアニメの名場面である藤野が、褒められた後の帰り道に、感情を爆発させて走るシーンは、映画館でも最高に良いシーンだなあと思いました。
とはいえ、作画とかカットの繋がりとか、実はそんなに上手くいっていないところも散見されるなあとも、見返していて改めて思いました。

物凄く無粋なこととは思いますが、この作品における藤野も京本についてを、分析すると…
人間のイノセントな面を、2人の対照的で鏡像のようなキャラクターで、陰と陽として描く。それは、人間として生きていくための根源的な力のようなものだから…

殺人鬼の男のあの感じは、本当に不意に飛び出し事故のように遭遇する話の通じない『無敵の人』感が半端なく出ているのは、ギラギラとした嫌なリアリティーを感じました。
また、入れ子構造にもなっていて、殺人鬼の男は京本的な要素が拗れてしまった更にネガティブな鏡像であったりもするのだなあと…

この映画の押上監督が、ラジオのインタビューに出ていたのですが、なんで創作者をテーマとした物凄く狭い人々をターゲットにした物語なのに、なんでこんなにヒットしているのかわからないと答えていました。(インタビュー当時、ちょうど劇場鑑賞者数100万人越えで話題になっていました。)
「日本に100万人も絵を描いてる人なんていないはずなのに、おかしいですね」なんて話していました。
「違う、そうことじゃないんだよ!」って思いながらも、その時には上手く考えがおよばなかったんですが…
今見返していて、自分の中で腑に落ちた感覚がありました。

8年前に『シン・ゴジラ』と『君の名は。』が大ヒットした時に、震災映画であるといった分析が散見されましたし、個人的にもそう感じました。
どちらも震災のトラウマをエンタメとして追体験することで、人々が癒されようとしている、集団的無意識に働きかけているような作品だと感じたのですが…
この『ルックバック』は、京都アニメーション放火殺人事件を始めとする一連の事件から受けたトラウマを、人々が追体験することで、人々が癒されようとしている、集団的無意識に働きかけているような作品なのだと感じました。
だからこそ、『ルックバック』の惨劇の直後に、藤本が一時的に時間が巻き戻って、幸せな人生をやり直すという物語を入れることで、怒りややるせなさだけでなく、癒しや幸福感を感じさせられたのではないこと感じました。

映画館でこの映画を観た時は、なんでこんなに感情揺さぶられたのかわからなかったのですが、改めて見直して、そんなことを感じました。
ラジオインタビューを聴くと、どうも監督はそうした意識をしないまま作っていたみたいでしたが、物語を描き切ることで、そうした表層的なテーマやモチーフを突き抜けて、多くの人たちに届いたんだと感じました。

戦後しばらく経ってから作られた『ゴジラ』が黒澤明監督の『七人の侍』をぶち抜いての大ヒットした感覚というのも、こんな感じだったのではないかと思ったりしました。
色んな人たちと時間も空間も共有して、物語の世界を擬似体験する装置として、そうした映画は物凄く機能するのだなと…

これだけ配信サービスが発達した現代でも、未だに映画館に足を運ぶという行為が成立しているのは、この感覚を味わいたいからなのだと改めて感じました。

【追記】
この映画を観ながら、同時に京都アニメーションの『劇場版ヴァイオレット・エヴァーガーデン』を思い出しながら観ていたことに気付きました。
この映画は、京都アニメーション放火殺人事件で燃失しなかったサーバーにあったアニメデータを元に作られた映画で、主人公が死んでいたと思っていた恋心を抱く男性が実は生きていて結ばれるという物語でした。
物語としては、この前日譚にあたるアニメシリーズの展開をひっくり返すような、見ようによっては甘ったるい続編とも言えますが…
あの事件で起きたことと、その映画、愛とかトラウマ、人との繋がりを美しく描いた内容ともリンクして、なんとも言えない気持ちになりました。それは、物語の主人公が果たしえなかった想像の世界を、描いた儚い空想のようにも思えて、その上で後日談として作りたかったのだと感じたからなのだと思いました。
この『ルックバック』は、それを別の角度から描いたような…そんな物語のようにも感じました。

https://lookback-anime.com

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