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イップス克服に向けて020:イップスは「病気」と位置づけたほうが順調に回復する


▶不調とイップスとは「異質」


これは、専門家の間でも意見が分かれるかもしれませんけれども、私はイップスを「病気」に位置づけています。
 
「病気」などというと「偏見だ」という人も、いらっしゃるかもしれませんけれども、それは、病人を差別しすぎです。
 
だれであっても病気を患う可能性はあるのですから、風邪を引くのを偏見扱いする必要はないのと同じです。
 
「イップスは病気じゃない」「不調の程度がひどいもの」という見方をする人もいますが、私は、不調とイップスとは、「異質」だと捉えます。
 
その根拠、及びそう考えることの「有効性」について、これから綴ります。

 

▶イップスが「得体の知れない恐怖」に変わるとき


たとえば熱が40度以上もあるのに、「病気じゃない」とすると、手の施しようがありません。

得体の知れない恐怖に苛まれます。
 
しかしハッキリと「病気」に位置づければ、「安静にする」「食欲がなければ食べない」などすれば、比較的スムーズに治癒します

※食欲がなくなって「くれる」のは、悪いわけではなく、自然治癒力を高めるにあたって消化吸収などにエネルギーを浪費しないための、体によるサインです。血圧や熱が上がって「くれる」のも、くしゃみや鼻水が出て「くれる」のも、体による優れた反応。それらサインには、間違いがないから、薬で症状を抑えたりするのはかえって危険です。
 
イップスも同じです。

「不調の程度のひどいもの」とするよりも、ハッキリ「病気」と位置づけた方が、具体的な手の施しができます。

それは後述しますが、「安心の共有」です。

 

▶イップスを「気のせいだ」「練習不足」で済ませない


また「病気」に位置づけたほうが、周囲の理解も得やすい有効性が強まります。
 
イップスが病気じゃないとすると、「気のせいだ」「練習不足」などで、済まされてしまいがちです。
 
「気のせいだ」と理解して、気にせずにいられるならば、そもそもイップスと呼べる水準ではありません。
 
イップスを発症すると、まるでラケットを持つ腕に「電流がビリビリ走る」、あるいは腕が「大蛇のように勝手にうごめく」感覚を覚えます。
 
頭では分かっていても、「やめられない」「止まらない」ところに、イップスの本質、そして苦しみがあります。
 
病気に位置づけないと、ややもすれば、「ふざけてやっている」「わざとやっている」とも、周囲からは捉えられかねません。
 
それくらいイップスの人の動作は、かなり「異質」です。

 

▶イップスを患うのはこんなプレーヤー

 
イップスを患うプレーヤーの傾向性は、すでに明確に確認できています。
 
基本的に真面目で、完璧主義努力家

表面的にはいわゆるいい人
 
ですからテニスゼロでは、少なくともコート内では「いい人」でいる必要はないと、お伝えしています。

自分がミスして練習相手に「ゴメン!」「ワルイ!」「スミマセン!」などと謝ったりするのは、本当に意味のないこと。
 
また、「統一性」や「対称性」へのこだわりにも強迫的です(※統一性や対称性にこだわらないのは、一般プレーヤーにも有効。この話はまた改めて、お伝えできればと思います)。
 

▶「食べすぎ」と「拒食症」は、量的にではなく質的に違う

別の例でいえば、「食べすぎ」と「過食症」とは、明らかに質的に違います。

食べる量的な問題ではないのです。

前者は、たとえば意志薄弱なのかもしれません。

ですから「食べすぎを控えたら?」というアドバイスにも、一定の理解を示せます。
 
しかし後者は「必ず痩せる!」などと言った、「強い意志」や「強迫観念」あるいは「怖れ」に基づき引き起こされた、飲食が「やめられない」「止まらない」明らかな「病気」です。
 
この場合、過食症の人に対して、「食べすぎを控えたら?」というアドバイスは、無効どころか、「自分は食べすぎを控えられない意志薄弱だ!」と、まったくの誤った解釈を与えてしまい、食べすぎる、あるいは食べては吐く「症状」を悪化させてしまいかねません。
 
「少し元気がなくなる」程度は、私たちにも普通にありうる振れ幅です。

しかし「うつ病」は、それとは明らかに質的に違い、他者によるサポートを要します。
 
病気を定義すると、その症状により、次のようになるでしょう。

QOL(Quality of life 生活の質)が明らかに低下する。
その症状が少なくとも、3カ月以上続く。
専門家(あるいは他者)によるサポートを要する。
 
「うつ病」の患者に対して、単に少し元気がない人に向けて言うのと同様、「頑張って!」などと励ます(つもり)ならば、それがたとえ「善意」であったとしても、「これ以上、何を頑張らなければならないの!?」とばかりに、さらに患者を追い詰めてしまいかねません。
 
「励まし」が、「追い打ち」に、なりかねないということです。
 
それと同じでイップスの人に対して、それが「善意」だとしても病気と位置づけずに、「気のせいだ」「単に不調の程度がひどいものだ」などと励ませば、追い詰めてしまう危険もある。
 

▶イップスは「病気」だからこそ、治る!


「病気じゃない」という見方、診立ては、それがプレーヤーを傷つけない「優しさ」「思いやり」(のつもり)になりがちなのは、確かなのですけれども。
 
ですがここは強調すべきですが、「病気」だからこそ、治ります。

イップスは「不安の病気」です

「気のせいだ」「単に不調の程度がひどいものだ」などと言う(励ます)と、プレーヤーはさらに不安を募らせかねません。
 
熱が40度以上もあるのに、「気のせいだ」「病気じゃない」とすると、得体のしれない恐怖に苛まれるのと同じです。
 
一方で周囲の人から「病気だから仕方ないね」と協力が得られると、克服に向けて「とても大きな前進」のための第一歩を踏み出します。

なぜなら不安を和らげる(不安に寄り添う)安心感そのものに、本質的な治療効果があるからです。
 
逆説的には「手首を固めたほうがいい」などの症状を抑えようとするアドバイスは、それができない「やめられない」「止まらない」プレーヤーの、「不安」を一層募らせるので、控えるべきだと分かります。

過食症の人に、「食べすぎないほうがいい」というアドバイスが、いかに残酷かは計り知れません。

※これも先述しました血圧、熱、くしゃみ、鼻水と同じで、手首が暴走する「症状」は出て「くれる」のであり、無理やり抑えようとすると、むしろ治りにくくなります。


▶「とても大きな前進」のための第一歩


「単なる下手」と「イップス」とは、まるで「異質」です。

トッププロでさえ、そう、アンナ・クルニコワや、ギレルモ・コリアのように、突如イップスを発症します。
 
彼女、彼が、「単なる下手」なはずはありません。

単なる下手とは異なる明らかな質的違いが生じています。

そしてそれは、繰り返しになりますが、「病気」と位置づける見方、診立てで、「とても大きな前進」のための第一歩を踏み出すのです。

確かにわずかな「第一歩」、だけかもしれません。

しかし、あせる必要はない

0歩と一歩とでは、量的にではなく質的に、全然違うのですから。

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スポーツ教育にはびこる「フォーム指導」のあり方を是正し、「イメージ」と「集中力」を以ってドラマチックな上達を図る情報提供。従来のウェブ版を改め、最新の研究成果を大幅に加筆した「note版アップデートエディション」です 。https://twitter.com/tenniszero