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『極楽征夷大将軍』-声を出して笑った天下取りストーリー-

こんにちはー!
最近アニメの話が多いですが、今回は久しぶりに本の話をしようと思います。
その本がこの

『極楽征夷大将軍』です。
前も日記にチラッと書いたことがあったのですが、ようやく読み終わりました!!!

で、最後まで面白かったので友人に勧めようとLINEしたのですが、ある友人からは『ワールドトリガー』の話にすり替えられ、また別の友人は本の話題と知るや音信不通になりました。おい、LINE返せや。
ということで、誰にも届かないこの想いをnoteに綴ろうと考えたわけです。

どんな本か超ざっくり説明すると

さて、○○幕府系で必ず聞くワード、「征夷大将軍」とタイトルについているとおり、この本は昔の日本の史実を元に書かれた小説です。
そしてこの本の主役となる「征夷大将軍」が、"足利尊氏"。
・・・誰だっけ?
そう思いながら忌まわしい受験勉強の記憶を掘り返した人も多いでしょう。彼は歴史の教科書だと"金閣寺"くらいしか大トピックスが無いあの室町幕府の初代将軍なわけですから。
この本はそんな彼の幼少期から無事征夷大将軍になるまでの物語を描いた小説なのです。
正直そんなよくわからない時代のよくわからない人物のこと興味無いし読んでもつまんないよと思った人は、まだちょっと待ってほしい。

室町幕府にミリも興味無かった奴がスルスル読んじゃう面白さ

この本の面白具合を示すために、私とこの本の出会いについてまず書きましょう。
私は歴史は必修科目として習う程度ですがその登場人物について深堀しようなんて気持ちはわかないタイプの人間・・・むしろ歴史好きの人を見て「よくそんなに古いことに興味が持てるもんだ」と思ってしまうような奴です。
そんな私がこの本を見つけたのは暇つぶしに本屋を歩いていたときのこと。
本屋に平積みされている本を片っ端からパラパラしてみていたときに出会ったのがこの本です。
私は本の中身を見る前に帯や背表紙の概要を読むのですが、この本の帯にはこんな文言が。
『やる気なし・使命感なし・執着なし』
『なぜこんな人間が天下を取れてしまったのか?』
『室町幕府の祖 足利尊氏の数奇な運命』
『謎に包まれた室町幕府初代将軍足利尊氏の秘密を解き明かす歴史群像劇』
足利尊氏ってこんな変なやつやったんか?
正直マジでノー知識なので、どういうところが「謎に包まれ」ていて、何を以て「こんな人間」と評されているのか、全く理解が追いつかない所に逆に興味を持ちました。
しかし、帯で気を引いておいて中身を読んだら小難しい歴史書だった、というのはこういう歴史小説あるあるなんですよね。本を開いてしばらく読んだらなんか小難しい漢字の羅列とかよくわからない人物名とかが大量に出てきて登場人物も何を言ってるのかよくわからなくてついていけないという・・・

当時、この渚でよく遊んでいる兄弟がいた。二歳違いの又太郎、次三郎と言う。
のちの足利尊氏と、その彼を支え、室町幕府を実質的に作り上げた弟の直義である。
彼らの住む屋敷から滑川沿いを歩いていくと、由比ガ浜までは四半刻で着く。
天気のいい日に誘うのは、決まって兄の又太郎だった。
「次三、浜へ行こう」

『極楽征夷大将軍』より引用

読みやす~~~~。
何この児童書の昔話みたいな読みやすさ。文章もフラットで作者の変な癖みたいなのが無いところも私的には好印象です。何よりも帯とこの文章だけで
・又太郎(足利尊氏)はお兄ちゃんでやる気なし。
・次三郎(足利直義)は二歳下の弟だがやる気の無い兄を支え室町幕府を作り上げる
という像が少し見え始めるじゃないですか。この、ちょっと先を見せながら「じゃあどうやって?」と思わせる感じの文章が全編ずっと続くんですよね。だからいつまでも「ほいでほいで?」とページをめくり続けてしまう。ちょっと読んでみるかと思っただけなのに立ち読みのまま一気に10頁くらい読み進めてしまいました。
また、この10頁の間にあった少年時代の兄弟の話もなんかいいんですよ。
あるときに追いかけっこをして弟の次三郎が親父の硯を割ってしまうのですが、又太郎は「米をのり代わりにしてくっつけよう」「ばれたらそのときはそのときだ」と冷静に硯を即席でくっつけます。そしてその後、勿論即席ノリなんてすぐに取れるので即座にバレるのですが、そのときも親父の「割ったことではなくこんなこましゃくれたことしてごまかそうとしたことに腹が立つ」という言葉をきっかけに、又太郎は次三郎が割ったことは一言も言わず自分がやりましたと打ち明け、棒に打たれます。そして「あぁ痛かった。おい、次三郎もおにぎり食うか?」となんでもなかったかのように弟に話しかけます。
このエピソードからほんのりと漂う兄のどこか変わってる感じ、この感じがどう征夷大将軍になるに至るまでつながるんだろうと興味をそそられませんか???
ということで、そのあまりの読みやすさと、登場人物のキャラクター性の魅力に購入を決意したというわけです。

第三者視点で描かれるよくわかんねぇヤツ、"足利尊氏"

この物語ですが、足利尊氏について描かれているのだから足利尊氏視点の物語、かというとそういうわけではなく、物語は上記にも出てきた弟である"足利直義"と、足利家の重臣である"高師直"の視点で描かれます。
これがまたいいと思ったのが、足利尊氏はしばしば・・・常人には理解しがたいKY行動をとる事があります。それを弟と重臣の視点で「こう思ってこうしたのだろう」と解釈することで、本当の答えはわからないながらもこういう人なのだろうと人物像が固まっていくわけです。
ちなみに足利尊氏のKY行動をざっとあげるとこんな感じです。
・側室の子ながら足利家の当主という栄誉を承ることになるが、当の本人が「嫌でござる」とめっちゃ拒否る。
・品位ある和歌集に「今度こそは和歌集に載りたいです、是非載せてください」という、なんの"あわれさ"も"いみじさ"も"おかしさ"も中身も無い和歌を自信満々に送る(しかも載ってしまう)。
・北条家から嫁を貰い、執権の北条守時とも懇意にしていたが、遠征先で寝返り北条を打ち取る。
・北条を打ち破ったあと、後醍醐天皇の命令に反して鎌倉に残ったり報酬を与えたりしていたが、後醍醐天皇に朝敵にされた途端「後醍醐天皇大好き、私はもう浮世からは離れるのでお命だけは勘弁を」と出家する。
・出家するけど、意味が無いと知るや、ノリノリで大将として戦い、朝敵という逆境で数少ない軍勢にも関わらずなんか後醍醐天皇の軍に勝っちゃうし、後醍醐天皇と別に天皇を作って「こっちが本物の朝廷ね。"朝廷"から征夷大将軍と命じられたことだし、これで朝敵じゃないや」と朝敵だった事実をナイナイにしちゃう
・せっかく室町幕府を作ったのに「俺もう死にたい気分だわ・・・」とやる気をなくし、政務のほとんどを弟と師直に譲ってヒキニートになる(数年間この状態が続く)。
・結果直義と師直が政治的に相容れず戦うこととなるが、弟と師直どっちも大好きなので、戦局によって弟側についたり師直側についたりする(しかも負けてるほう)。
・師直側についた戦で、ついに弟の軍に負けて師直も殺されるが、「俺、師直に振り回されてただけで、そもそもおまえらの上司だし」と普通に幕府に戻り、しかも尊氏が恩賞の采配をする。
・…なんか寝返りが多いし優柔不断な奴にしか見えないが、周りからは「多くの敵を許し、家臣におしみなく財宝を分ける」ような誠実で寛大な性格と評され、人望があった
・が、血のつながっているわが子であるはずの"足利直冬"という人物に対しては、正室の子ではないというだけで「温厚って何?」ってくらい冷遇した。
文章を読んでいてももはや誰の味方でどんな人物で何がどうなってこうなるんだという感じだと思いますが、そのあたりをこの小説はうまーくまとめているので、興味を持った人は是非読んでみてくれ!

久々に声を出して笑った本(※お笑いの本ではありません)

さて、読みやすさや足利尊氏という人物のユニークさ等語ってきましたが、最後は少し違う観点から。
私、久々に本を読んでて声に出して笑ってしまいましたね。
そう、この本は歴史小説なはずなのに、もうなんか、尊氏の小話的エピソードがおもろいんですよ。
例えば、兄の尊氏は嫁に貰った女性全員どころか行きずりの女との間にさえ子どもができてしまうほど順調に子孫を残していきますが、弟はだいぶ長いこと妻との間に子どもができません。そのため、例えば尊氏が中身の無い和歌を出していることを直義が説教した際は、こちらに有利な話題にするために、
「まだ子どもできないん?」
「直義は女性を抱くときもどうせいつもの調子で生真面目に作法通りにって抱いてるんじゃない?」
「もっと勢いでさ、えいやって抱いたほうがいいよ」
という余計なお世話これに至れりみたいなことを言います。特に尊氏の「でなくば、肝は縮こまったままで、出るモノも盛大には置くまで届かぬぞ」というド直球下ネタ決め台詞には思わず吹いてしまいました。
他にも重臣の高家が次の当主に尊氏を置くべきか直義を置くべきかという議論をしているときに、兄を据えるべきだという師直の意見に納得した師直の弟が
中身の無いずた袋(※尊氏のことです)のほうが担ぎやすくていいですしね!
と言ってのけたり、
尊氏が北条から正室をもらうという大事な時期に行きずりの女を妊娠させてしまったときには
兄「いや寝たの一晩だけだし・・・子が産めない体質だと言われたから出したのだ!」
弟「じゃあ子が産めない体質ですと言われなかったら精は出さなかったのか」
兄「・・・いや、つい出したと思うわ」
弟「・・・・・いずれにせよ父上には報告します」
兄「やっぱり報告しないとだめ?(涙目)」
弟「だめに決まってるだろ」
もうコントじゃん。
中盤以降はさすがに戦も多くなってくるので、笑いのシーンよりどちらかというとこの後どうなるんだ!?のほうが強いですが、総じて暗い空気感で進まないのは主役の尊氏のキャラによるところなのかもしれません。

最後に

この本を勧めるにあたって一番勧めたかったのが本の中身の面白さと足利尊氏という決してフィーチャーされない人物・時代の奥深さ(←面白さしか伝わってないかもしれないけど)なのであまり明記はしませんでしたが、この本は"直木賞"も受賞しており、世間的にも評価されている本なのだそう。
また、本の中身は上下段にわかれている大ボリュームな文量、なのに中だるみせず最後まですいすいと読めてしまいます(私は仕事の昼休憩や移動時間に読むようにしていたので日数がかかりましたが)。
実際にAmazonの評価も☆4.3と高く、読んだ多くの人が一定の満足感を得れる本なのではないかなと思います。
この本と直接の関係はありませんが、偶然にも『逃げ上手の若君』という、これまた室町幕府創設期を背景にした漫画のアニメ化が決まりました。
ということで、何故か今熱い南北朝時代、あのあたりよくわかんねーという人は是非手に取ってみてはいかがでしょう。

では!!



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