本雑綱目 55 石井良助著 江戸の刑罰
今回は石井良助著『江戸の刑罰』です。
中公新書、ISBN-13 : 978-4121000316。
NDC分類では322、自然科学>法制史に分類しています。
昭和39年だから結構古い本。
これは乱数メーカーを用いて手元にある約5000冊の本から1冊を選んで読んでみる、ついでに小説に使えるかとか考えてみようという雑な企画です。
★図書分類順索引
1.読前印象
江戸の刑罰というと牛裂きとか流罪とか色々思い浮かべて、そういえば石抱きとかは拷問であって刑罰ではないなと思い直す。出女関係で浮気については結構重い刑罰があったような記憶があり、女の罪人は罪によっては妓楼働きになって、実際妓楼の遊女で親の身売りでなった女人の数は一般的な印象より多くない、みたいな話を昔読んだことがある(割合までは覚えていない)。
他に特徴的なところは連座制で、一族郎党とか部落全部みたいな連帯責任もそれなりにあったような。
とりあえず開いてみよう~。
2.目次と前書きチェック
まえがきを読む。江戸時代の牢屋は未決拘置所(罪の確定前に入る所)である、と改めて書かれると、労役又は禁錮という罪が江戸時代になかった……のか? と思ったが、罪が決まってからは人足寄場等の牢屋外で手に職をつけさせて働かせているところから、今より更に更生という観点が強かったのか、或いは罪人に寛容な社会だったんだろうか。なんとなく後者な気がする。一方で牢を無宿牢と百姓牢をわけているところで、分断政策というのはやはり基本だったのかもしれない。そうすると人足寄場もその属性によってわけられたのだろうか? なんとなく性悪説的な考えで、悪い方に混ぜないようにという思想のようだ。
目次は『吟味から落着まで』『御仕置』、『牢屋』、『人足寄場』から構成される。やば、どれも興味があるんだけど。
『御仕置』全てと牢屋の中の『格子の中の暮し』を読んでみます。
3.中身
『御仕置』について。
いきなり誤解していた。下手人(斬首)は財産目的以外の殺人にのみ科され、財産目的は死罪(斬首+胴切り)になるそうだ。
本章はどのように刑が執行されるかという観点から、出牢から死体の扱いまで、それから様々な時点の掛け声まで含めて詳細に記載されていて面白い。というか、掛け声まで決まっているというのが予想以上に規定重視で驚いた。
他にも山田浅右衛門はどうだったとか、逸話も含めて記載されている。遠流や火刑のシステムや方法は想像していたものとだいぶん違っていたり、心中は男女とも生き残った場合だけ晒されるなど、とても興味深かった。思ったより、現代の刑法と理念が近くて興味深かったです。
そういえば女性が妓楼に売られるような項目がなかったんだけど、あれは奴刑(身分の降下)なのか。奴は女性のみに適用される刑で、『世話してもらいたいという者があったならば、これに渡すことにした』と記載がある。売払先については詳しく書かれていなかった。僕はちょくちょく妓楼の話書くから気になってる。
『格子の中の暮し』について。
牢内は火気厳禁で冬は寒く、夏は風通りが悪いため病人が出る。その防止の為に牢の入れ替えを行う等、様々な工夫をしていた。病死したら意味ないしね。
それから牢内で看病役や食事の世話役等の役割を任命し、ある程度の自治を委ねていたもよう(女性にはなかったそうだ)。そして牢内政治は金次第というか、牢名主(牢上役)の権威はとても高かったようだ。
リンチなどもよくあったそうだしヤクザの渡世によくあるような名乗り文化があるらしい。事あるごとに紋切り型のセリフを話すというのは江戸文化なんだろうか。牢内の人数調整のために悪事なくとも殺すことがあるというから、思ったよりリンチで死んだ人間のほうが多そうな気がして恐ろしい。資料をみれば入牢者のうち1%~10%程は牢内で死んだようだ。その他、牢内の食事事情、風呂事情、着物事情等に加え、近くに火事生じた時の対処方法などまで記載されていた。あれ? 次項の『シャバと牢屋』まで読んでいた感。
牢内の様子はほとんど知識がなかったので興味深いと思う一方、正義厨が牢内でリンチされるシーンを描いてみると面白いだろうかと思う(もちろんストーリーの一部として。僕は性格が悪い)。
全体的に記載が詳細なわりに読みやすく、とても興味深かった。江戸時代の習俗はあまり詳しくはないのだけれど、文化が違うせいか想定とは全く違う光景が見えてきた。書きたくなっちゃうじゃん。
小説に使えるかというと、江戸時代が舞台で牢屋に放り込んだり罪人を描く場合は読んどくべきな気はする。けれど、現代の常識とも雰囲気自体が異なることが多い(三度の窃盗で死刑とか)ので、基礎をそこに揃えるなら、他の習俗の部分も深堀りしないとバランスがとれないといういつものジレンマに陥りそう。
4.結び
読み物的な記載もちょくちょくあって、資料的にも面白い、そんな本ですが、興味がなければ開くこともないだろうというニッチなジャンル。えっと、古代中国版が欲しいです。
次回は加藤耕一著『「幽霊屋敷」の文化史』、です。
ではまた明日! 多分!
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