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本雑綱目 77 フランソア・カロン 日本大王国志

今回はフランソア・カロン『日本大王国志』です。
幸田成友訳、東洋文庫。ISBN-13 978-4582800906。
NDC分類では291。歴史>日本(地理. 地誌. 紀行)。

これは乱数メーカーを用いて手元にある約5000冊の本から1冊を選んで読んでみる、ついでに小説に使えるかとか考えてみようという雑な企画です。

★図書分類順索引

1.読前印象

 フランソア・カロン自体は良く知らないんだけど、この人は江戸初期に日本を訪れた西欧人だと記憶している。情報が少ない。
 とりあえず開いてみよう~。

2.目次と前書きチェック

 前書き的な『『日本大王国史』について』を読む。
 カロンは日本でオランダ商館長となった人で、ケンペル等による日本紹介書が出るまでその著作は唯一の日本の手がかりだったようだ。そしてその内容は本邦に現存しない記録も含まれる。日本の歴史書や文献をみるとフロイス等がよく出てくるけど、西洋の視点は日本人の視点と違うから、日本の文献だけではカテゴリ的にごそっと抜けてるところを補完できたりして重宝なの。
 目次は『フランソア・カロンの生涯』のうち料理方手伝から通訳まで、平戸及び江戸付「カトリック教師の大陰謀」、カロンと長崎奉行、日本における商館長、カロン婦人、セイロン島遠征隊司令長官、台湾長官、バタビヤ商務総監、失意時代、仏蘭西に仕えて、人物、著作、『強き王国日本の正しい記事』は日本についてのコラムがたくさん、『付録』として当時の西欧人の記したものが載っている。
 リンスホーデンの東方案内記も似たようなスタイルだったから、これが当時の紀行文のスタンダートだったのかな。
 興味が赴くところで生涯の『料理方手伝から通訳まで』と『平戸及び江戸付「カトリック教師の大陰謀」』、正しい記事の中からいくつかを読んでみます。

3.中身

『料理方手伝から通訳まで』について。
 カロンの幼少時は不明だが、料理方の手伝いとして和蘭東印度会社の船に乗り、その後日本側からも日本の風俗についてよく知っている者として、日本オランダの調整役と扱われるようになった。
 ざっくり読むと和蘭人が日本人を下に見て勝手に怒って事件になる、みたいなことがたくさん起きてる気がする。当時の欧米人にとってアジア人は対等ではないという意識は当然だったのだろう、多分。
『平戸及び江戸付「カトリック教師の大陰謀」』について。
 平戸での貿易が再開したのち、カロンは平戸商館長の参府に同行するようになる。ゴア総督が殉教者セバスチャンがゴアやマカオで尊敬されていたことを示し、このままでは日本占領をもくろむスペインの計画が実行されるぞと指摘する、ような手紙を幕府に送ったことにより(中略)、耶蘇教徒排斥の流れになったように話されることもあるが、カロンは両者を取り持とうとしたものであり本意ではない。
 読んでて板挟み辛そうだなと思う。西欧人と日本人の文化差異は大きいんだけど、多くの西洋人はその成功体験から押せば通ると思ってるんだよね、多分。滅ぼすぞとかいわれたらそら貿易止めるわ、となるは思わんのだろうか。まさか輸入したばかりの鉄砲をあれほど量産するとは信じてなかったのかもしれないな。いや、信じないだろ普通。

『強き王国日本の正しい記事』について。 
・如何に多くの州を含むか
 日本の141の領主(おそらく後述の国王)とその居所と石高、41の小領主、27の封土しない領主についての一覧。間違いはあるとしても、よく調べたと思うし、本国勢にはとても有益な情報だろう。
・日本における最上支配者の有する特質と権力とは如何に
 皇帝(将軍)がいて、各国王と領主が服従している。彼らが失策をすると放逐、流罪、死罪にして土地権力を別の者に与える。カロンの滞在中に領地替えがあり、その様子を見知ったもよう。
・諸侯及び領主の性質とその権力
 諸侯の収入は莫大だが、同様に出費(参勤交代や物価の高い江戸の滞在費)も莫大である。そのうえ皇帝(将軍)は工事を命じる。それでも決められた予算内で競ってよいものを作ろうとする姿勢は驚きだ。皇帝は諸侯に結婚を命じる。諸侯は多数の側室を有するが、正妻の子でなければ継承権はない(注:これは間違い)。城主に仕える女性は男子禁制で、その貞節を厳しく守るエピソードが語られる。
 これらはおそらくカロンが聞いた当時の逸話で価値観なのだろう。家臣や切腹の話もあり、切腹の前に飲み食いしてから腹を切ると書いてあるけれど、内容物が出ないように直前は食べないんではなかったか。人身御供と混じってる気はする。全体的に直接目撃したことは正確だろうけれど、聞いた話は不確かな部分も大きそうだ。でもそれはカロンが情報を収集した当時の日本庶民にとっても話が不確かだった可能性はある。
・如何なる罪科が厳罰に処せられるか。
 刑事罰は本人だけでなく近親に及ぶが、婦女は重罪で死刑となっても連座は死刑はなく奴隷になる等のみである。処刑は火あぶりや磔、重罪の場合は牛引き、油で煮る。外国人の目から見ても日本の刑法はわりと厳格に適用されていたんだなという印象。
・住民は如何なる宗教を奉ずるか
 迷信的でも宗教的でもなく、朝夕、食前食後や時々祈ることもない。
 確かに特定の神に祈ったりはしないなぁ。
・ローマ派耶蘇教徒の迫害
 耶蘇教徒は最初は斬首、後に磔になったが教徒は歌ったり笑ったりしながら満足げに死んで効果がなさそうだったので、改宗させる方針になった。婦人少女を迫害してそれを助ける者を死罪とした。父母を盲目にしてそのそばに子供を置いて呵責苦痛を与え、子に父母の改宗を促させた。最終的に逆さづりが定着し、逆さづりにすると十日程度は精神が明瞭のまま生きながらえて大変な苦痛を受けた。
 飢饉や圧政がひどかった時代で苛烈な迫害があることは知っていたんだけれど、言い方はさておきここまで洗脳を施すのもすごいなと思う。一方で彼らを奴隷として売る仲立ちをしたのもカトリックなので、情報の遮断は情報が少なければ少ないほど効果的だなぁと思うわけ。そもそも飢饉で生きていく手段がないのなら、死に方の問題に転化したんだろうなと思う。
 ところで次章のライエル・ハルツベルグ記に殉教者の火刑のくだりがあるのだが、葡萄牙人と伊太利人の教師と教師に宿を与えた日本人5名は殉教して死んだけれど、葡萄牙人5人は棄教したとある。日本人は多分純粋に宗教に殉じたのではなく、棄教した後にどうなるかわからなかったから殉教したのではないか。おそらく神を捨てれば地獄に落ちるとしか教えられていない。現世も地獄だしこの地獄から逃れるにはいずれ死ぬしかなく、どうせ死ぬなら天国へ、という発想じゃないかしら。仏教は輪廻転生で死んでも地獄率が高いけど、キリスト教は明示的に来世利益を示すもんな……。
・如何に国王・諸侯・領主及び貴族は陛下に拝見するか、彼らは如何なる行列を有するか
 諸侯等は月に2回公式謁見する。
 江戸城の謁見の話と並列に各市の門の開閉についての話がでるので少し混乱する。
・彼らの言語・写字・計算の方法、子孫に歴史を公開するか
 手紙は迅速に到着するので、多くの事実を数行で書く技術が発達した。算術は正確で速い。記載によるとこの時代、庶民はあまり文字がよめなかったようだ。御伽草子や仮名草子なんかが流行りだして庶民の識字率を上げるのはほんの少しだけあとに思う。

 全体的に、読んだ部分ではカロンが紹介する日本、という内容で、ある程度は当時の日本の世相が反映されているのだと思う。『強き王国日本の正しい記事』は簡単に言えば商用ガイドブックといえるだろう。これがどのように本国で受け止められたのか気になる。というのは当時のスペイン人は太陽帝国で圧倒的だったので、アジアの端に鉄砲を魔改造するような一族が住んでいるとは思っていないはずだから。
 興味深いには興味深いんだけど、これだけでは浅いのと、話の脈略がところどころ切れているので少し読みずらいかなとは思う。
 小説に使えるかというと、少し足りないかなあ。これをベースに書くとするなら外国人視点になるんだけれど、これ単体だと文化が作れなさそう。

4.結び

 カロンは苦労人だったと思う。基本的に大航海時代でアジアまででばってくる西洋人はだいたいイケイケドンドン(古)だろうし。
 この本では殉教とキリスト教についてよく述べられているのだけれど、少し注意が必要なのは当時のいわゆる隠れキリシタンのキリスト教が、本来の西洋のキリスト教とはだいぶん違うということだ。そもそもザビエルが日本に持ち込んだ時点でオリジナル色が強い。しかしオリジナル色が強いことはキリスト教ではよくある。なぜなら地元の神を悪魔に取り入れたりの改造を施すからだ。そして日本人は常として魔改造を行う民だが、アダムとイブが後に神に許しを請うと神が許してしまって原罪がなくしてしまうとか都合よく改変してしまうので、最早殉教者が殉じたのは多分既に、キリスト教ではない。この国はすべてのものを腐らせていく沼なのだ。
 次回は長谷川卓+冬木亮子『安倍晴明と陰陽道』です。
 ではまた明日! 多分!

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