『ナイトメア・アリー』見た直後の雑記
ユナイテッド・シネマ浦和で『ナイトメア・アリー』を見てきました。
これまで、怪獣特撮映画やファンタジー映画を撮ってきたデル・トロによるフィルム・ノワール映画への挑戦とみた。
主人公スタンが実家を捨て、辿り着いた先はカーニバル興行の世界で、そこでモリーと出合い、二人で独立し、読心術師として世を渡る。
前作が『シェイプ・オブ・ウォーター』だったので、また奇っ怪な生物の映画かと思いきや、それは導入と伏線で、おおまかには風来坊になった主人公スタントンが引き起こすフィルム・ノワールへと展開。
この作品、日本未公開の『悪魔の往く町』のリメイク、いや冒頭のシーン等一部再構築があるのでリブート作品で、このため半分はサーカス、カーニバル、見世物小屋の怪しい世界観、もう半分は1940年代、1950年代のノワール映画へのオマージュというかリスペクトが凄まじい。
サーカス/カーニバルのそれはティム・バートンの『ダンボ』に近いリアル指向、それも禁酒法が撤廃されてから数年後のアメリカという感覚がよく現れている。それは1939年を時代設定とし、道路が舗装されてなく、『怒りの葡萄』の時代のアメリカらしさも見られた。
中盤以後、スタンとモリーの二人で読心術師として興行をうち、リリス医師と関わる展開は完全に1940〜50年代のフィルム・ノワールの世界。デル・トロ本人は古典的なフィルム・ノワールの手法は避けていたとパンフのインタビューで語ってはいるが、原作、元の映画版(1947年)があるわけだから、全体的に暗めの映像、怪しい読心術師のショー、それに引っかかる金持ちや危険な大富豪の世界など、1940年代のノワール映画らしい世界観をデル・トロの鮮やかな映像美で蘇らせた。
序盤のカーニバル小屋にあったセットや精神科医が出てくるサスペンス展開にヒッチコックの『白い恐怖』の影響が見られた他、そもそもの死体隠しに『ハリーの災難』イズムがあるし、ケイト・ブランジェットの鮮やかなブロンドにもヒッチコック映画に対するオマージュと見られるものがありながら、スタンの酒に対するスタンスにワイルダーの『失われた週末』的なものもあり、1940年代、50年代のクラシック映画力を試される映画で非常に楽しめた。
終盤の展開というかあの結末やラスト、いや全体的な流れ自体、タイトルが思い出せないが中国の寓話的なものが感じられ、それとは別に中盤でタロットカードの使った部分にやはり欧米らしさがある。他にも、前半は雨のシーンが多く、後半は雪のシーンの多さ、あとチャップリンにたヤバいやつとかラジオのニュース放送、ルーズベルトの名がやたら出る時代のニオイ、こうしたおいしいところ取りにデル・トロらしさがある。
何にしてもこの映画の根幹となるのは主人公スタントン・カーライルの心の移り変わりなんだよね。冒頭でアレをやってから列車に乗って、カーニバルに辿り着いた時は1ドルだ5ドルだを貰うのに必死だったのに、独立して2年後には銭ゲバモンスターに。この時、1941年のいわゆる戦時下なのに読心術ショーとリリス医師との儲け話にご執心というスタンのヤバさが顔に出てるんだよね。だから、エズラ・グリンドルとのあり得ないやり取りを堂々とやるんだよね。
それと、どうも1947年版のカーニバルでのギーク(獣人)はいわゆる『フリークス』のそれと同じだけど、『ナイトメア・アリー』のギークはそれとは違う。ここが一つのミソなんだけど、ある意味1947年版よりもヤバく、個人的には「なるほどー」と納得。これは非ファンタジーな闇のフィクション。『フリークス』や『グレイテスト・ショーマン』みたいな単純なものではない人間の心理をついたやり方なんだよね。
主演のブラッドリー・クーパーのハマり具合いはもちろん、ウィレム・デフォー、リチャード・ジェンキンス、ロン・パールマンなど曲者だらけだし、その上ケイト・ブランシェットとトニ・コレットの美魔女っぷりに、またまた変な髪型が似合うルーニー・マーラなど、あらゆる方面で楽しめる。
アカデミー賞に関しては時事にもSDGsへの絡みが少ない上に、フィルム・ノワール映画だから、獲れる可能性は低いけど、ノミネート作品の中では『ウエスト・サイド・ストーリー』に並ぶ面白さなので、個人的に年間ベストテンで語る映画かな。
まさかまさかのギレルモ・デル・トロによるフィルム・ノワール映画。たっぷりと堪能しました!