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シン映画日記『雑魚どもよ、大志を抱け!』

新宿武蔵野館にて足立紳監督作品『雑魚どもよ、大志を抱け!』を見てきた。

80年代末期の宮沢りえ主演映画『ぼくらの七日間戦争』や中島哲也監督の『夏時間の大人たち』、是枝裕和監督の『誰も知らない』や『奇跡』、洋画なら『スタンド・バイ・ミー』、『グーニーズ』、『IT/イット “それ”が見えたら、終わり。』や『グッドボーイズ』、あと昨年末公開したアニメ映画『鏡の孤城』など、いわゆるジュブナイル映画というのは割と好きだが、
本作はこうした少年ジュブナイル映画の中でも物凄く心に響き、揺さぶられたね。
上記の作品以外にも
小津安二郎の『生れてはみたけれど』や『お早う』、テレビの「ケンちゃん」シリーズ、相米慎二監督の『ションベン・ライダー』なども彷彿させ、歴代のジュブナイル映画を見つめ直したくなる。

舞台は1988年3月から4月の岐阜県飛騨市で、
主人公の高崎瞬は近所の友達の隆造、トカゲ、正太郎といつも悪ふざけをして遊んでいたが、5年生の3学期の成績が芳しくない瞬はいやいやながら学習塾に通うことに。そこで、6年のクラス替えで同じクラスで隣の席になった西野聡に会い、映画が好きな彼に引き込まれるようになるが、ある日瞬とトカゲは西野のある秘密をしることになる。
一方、隆造は親の都合で引っ越してきた自称ヨーロッパ帰りの小林幸介とエアガン遊びで仲良くなり、瞬やトカゲと若干距離が出来る。

前半の展開は各子供たちや家庭環境、学校、普段の遊びの様子など、情報量たっぷりでテンポも早い。
メインは隆造をリーダーとした瞬、正太郎、トカゲのグループで、性格、話し方、癖、好きな物までガッチリと見せ、
そこから塾仲間の西野聡、隆造と対立する悪ガキグループのリーダーの明、そして転校生の小林幸介が加わり、4人の関係が微妙に揺れ動く。
中盤から映画マニアの西野の映画好きが高じた映画作りと彼が抱えるある問題が浮上し、
後半にその問題が隆造・瞬グループにも降りかかり前半とは別の盛り上がりを見せる。

本作はこうしたストーリーを骨格として、
教育、各家庭の経済事情・家庭環境、そして細かい部分で大人たちの事情も巧妙に入れる。
臼田あさ美が演じる乳がんを患いながらも教育熱心な瞬の母親には結婚前に飛騨にやって来たネアカな女で地元に馴染みにくかった過去があり、そこには『カルメン故郷に帰る』の隠し味を感じるし、
加えて、永瀬正敏が演じるヤクザで飲んだくれで粗暴な隆造の父親に相米慎二監督の『ションベン・ライダー』の陰を見る。
また、学校の担任教諭や体育教師、校長先生、女性教師らとの浅いやり取りもちょっとしたスパイスになっているし、
ワンポイントながら駄菓子屋の婆さんもメインの4人の家庭環境が分かるシーンにもなっているので、いいアクセントになっている。
こうしたあくまでも子供目線の大人たちの世界もチラチラ見えるあたりが、他のジュブナイルドラマ、映画とは一線を画している。

途中途中で出てくる地獄トンネルや
クラスメイトが嫌な目に遭っている場での気持ち、そして後半の出来事など、
映画の大きなテーマとして少年の「弱さ」、「勇気」、「逃げ」、「走る」などを捉えることが出来る。
一步間違えればNHK教育TVの小学生向け道徳ドラマになりかねない作品を
時代性と映画ファン色、瞬の母親、隆造の父親、後半の出来事で大きく映画のカラッとした色彩を塗りたくり、上品な名画の味わいで締める。

当然のように『スタンド・バイ・ミー』っぽさはありつつも、悪ガキらしさ、相米イズムもあり、1988年の飛騨のジュブナイル映画としては完璧。

20年かけた足立紳監督の執念と作品に込められた“勇気”をヒシヒシと感じ取れる。


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