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シン映画日記『苦い涙』

ヒューマントラストシネマ有楽町にてフランソワ・オゾン監督・脚本作品『苦い涙』を見た。

原作は70年代にニュー・ジャーマン・シネマの一人だったライナー・ヴェルナー・ファスビンダー監督の『ペトラ・フォン・カントの苦い涙』。そのリメイク映画だが、リメイクというよりは、骨格だけ残した再構築映画で、女性だらけの登場人物を男性に変え、ファッション業界から映画監督周辺の話に置き換え、濃厚なブルジョアのデカダンスに満ちた愛憎劇を展開。

成功した映画監督ピーター・フォン・カントが一人の青年俳優アミールと出会い、愛欲に溺れながら映画を制作するが、ある日アミールはピーターの元を去り、ピーターはその日依頼酒と薬に溺れる。
愛人との愛欲や酒と薬によるデカダンスと自身を支える助手のカールへのパワハラ、時おり現れる妻や娘への横柄な態度などブルジョアジーの悲喜こもごもをブレンドした輪舞曲で、初期オゾンの短編『サマー・ドレス』やファスビンダーの戯曲の映画化作品『焼石に水』に通じる作りになっている。
また設定をファッション業界から映画界、女性から男性に変えることで主人公のピーターにファスビンダーと自身(オゾン)を投影し、
LGBTのGとBたっぷりで久しぶりにフランソワ・オゾンらしい映画に仕上げた。

最近のちょっと似た映画では
パワハラと同性の愛欲はトッド・フィールド監督の『TAR/ター』にも近いが、
外に向けた不穏さはなく、完全に内の世界で周囲の愛憎劇のみなのでこじんまりとしている。

それと不思議なのが、これが男女のストレートな愛欲ならおぞましいパワハラに変わるが、
同性のLGBTのGにしただけでコメディに変わる。
これはファスビンダーの原作の力とも多様性が認められる現代だからこそ、どこかマイルドなデカダン愛憎劇になっている。

同じファスビンダー原作なら『焼石に水』よりも分かりやすいが、手応えとしては佳作。
フランソワ・オゾンが好きなら必見。

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