【ホッとする話】「先輩を悩ませるいわくつきの後輩」があるしあわせ
「みんな、まずは先輩に好かれようね!」
約2週間行われた新入社員研修の最終日に採用担当課長さんが残したメッセージ
(なんだそれ、気持ち悪っ・・・)
まだ若く、尖りに尖っていた自分には全く響かないばかりか
まるで媚びを売ることを推奨するかのような言葉に、反発心さえ覚えていました
もともと
「引かぬ、媚びぬ、顧みぬ」
という、北斗の拳のラオウのような精神を多少持ち合わせていたため
部署に正規配属されてからも例の採用課長さんのメッセージは取り入れず
(仕事ができる奴が一番好かれるに決まってる)
という信念で会社生活を送っていました
入社から12年の月日が経ったとき
自部署に入社4年目の後輩君が異動してきます
その後輩君は、超が付くほどの「いい子」
仕事を頼めば
今やってる最中の仕事を横に置いてでも
「はい、喜んで!」
と、居酒屋店員ばりの笑顔で応じ
お土産を渡せば
その場で包装紙の封を切って
「これ、おいしいですね!」
と満面の笑顔で食べる
超絶怒涛のいい子ぶりに感動すら覚えますが
ちょっとだけ心に引っ掛かることが
それは何かというと・・・
後輩君の異動元上司が、冒頭で説明した採用担当課長さんだったという事実
(後輩君は「みんな、まずは先輩に好かれようね!」を実践してるのだろうか・・・)
後輩君は生粋のいい子なのか
それとも打算的ないい子なのか
何となく気持ちがスッキリしないまま、時間が経過していったある日
後輩君と自分、そして、とある人物の合計3名で出張に行く機会が訪れます
そのとある人物とは、後輩君の異動元部署に居る入社間もない新人君で
その新人君の上司も、例の採用担当課長さんでした
採用担当課長さん曰く
「新人君だけど・・・クセが強くて、言うこと聞かない子だから、迷惑かけたらごめんね」
とのこと
そんな話を聞けば
(ええー、そんな面倒な子嫌だー)
となるのが普通だと思いますが
採用担当課長さんの例のメッセージに反発心を覚えていた自分は
(そのぐらいの反骨精神がある方がいいじゃん!)
と、心の中で思っていました
出張当日は、3人連れ立って会社から出発
電車に乗って、もう少しで出張先のある駅に着く頃
「そうだ、昼ご飯、何か食べたいものある?」
自分が2人に問いかけます
「中華がいいっすね」
新人君は自分の食べたいものを即答
「自分、何でも大丈夫です、こしば屋さんは何か食べたいものありますか?」
後輩君は主張なし
そして、先輩の食べたいものを確認するという100点満点の回答
普通だったら後輩君に軍配が上がりますが
(相手に合わせてばかりじゃなくて、たまには自分の食べたいものを主張しろよ・・・)
と、採用担当課長さんの例のメッセージが頭をチラつくこの日は新人君寄りの判定
「じゃあ、中華にするか」
自分の掛け声と共に、ポケットから携帯を取り出し
駅周辺の中華料理店のリサーチを始める後輩君
これも後輩の鏡のような動きですが
(いや、行きがてら適当なお店に飛び込めばいいんだよ・・・)
と、何もせずに堂々としている新人君の方がむしろ立派に見えてしまう
採用担当課長さんの例のメッセージが頭をチラチラ
後輩君が媚びてるんじゃないかという妄想が少しつずつ膨らんでいました
駅から歩き、出張先まであと少しという頃
後輩君のリサーチした中華料理店に入店
「イラシャイマセー、お好きな席ドーゾー」
中国人の方と思われる女性店員さん
ランチタイムのメニュー表を差し出し
「ドレ、ナサイマスカ?」
メニュー表には、A~Dの4種類
「えっと、自分はAセット」
「じゃあ、自分もAセットで」
新人君と自分は、マーボー豆腐のAセットを選択
「自分は小籠包定食で」
後輩君は小籠包のDセットを選択します
すると、
「エッ?ドレデスカ?」
店員さんは聞き取れなかった様子
「あっ、小籠包定食を・・・」
後輩君が言い直します
「エッ?ナニ!?」
店員さんはやはり聞き取れず
「いや、この小籠包定食・・・」
後輩君がメニュー表を指さすと
「アッ、Dセットデスネ」
店員さんはメニュー表を回収し、カウンターに戻っていきます
(明らかに日本語ネイティブじゃないんだから、気を遣えよ・・・お前が気を遣う相手は先輩だけか!?)
何でもかんでも採用担当課長さんの例のメッセージと紐付き
後輩君の些細な不手際さえ気になってきます
「オマタセシマシター」
それぞれが注文した定食が届いた後も「気になる」は続きます
後輩君の小籠包の食べ方
レンゲの上に小籠包を乗せるところまではいいのですが
なぜか小籠包を半分に割り
小籠包から溢れ出た汁を横にある取り皿に捨ててから口に入れます
「このお店の小籠包、美味しいですね!」
(いや、小籠包の一番美味しいとこ捨てちゃってるから!美味しさ半減だから!)
普段なら笑いなから大きな声で突っ込むところですが
このときは小さく心の中でつぶやくのみ
もう先輩に媚びてる媚びてないの話と関係ないところまで気になり出し
なんなら後輩君にちょっとイライラを感じている自分に
(これはそれはよくない感情だなー)
と、多少の罪悪感を覚えていました
その後、出張先での仕事は滞りなく終了
時計を見ると、まだ午後3時
「帰るにはちょっと早いから、コーヒーでも飲んでく?おごるよ」
在宅勤務がない当時、早く出張が終ったときは大体こんな感じでした
近くの喫茶店に飛び込み、メニューをチラッと眺め・・・
「自分、ブレンドコーヒーで」
気遣い屋さんの後輩君はそのお店で一番安いブレンドコーヒーを選択
続けて、自分もブレンドコーヒーを頼みます
最後に新人君
「じゃあ、ブルーマウンテンとモンブランで」
(・・・ん?モンブラン?)
実はランチもおごっていて
先輩と言ってもまだ役職もない頃の自分
まさかケーキまでおごることになるとは思っていませんでした
(・・・しかも、ブルーマウンテン頼んだ!?)
学生時代に喫茶店でアルバイトしたことのある自分
希少豆のブルーマウンテンは、そのバイト先で一番高い商品であり
ブルーマウンテンを頼むとカップとソーサーがグレードアップするほどの扱いでした
(多分、今日のランチより高くつくな・・・)
メニュー表の値段を横目で追いかけるも
既に店員さんの腕の中にあるブルーマウンテンの値段は見えません
ふと、横に目を向けると
ソファに深く腰を掛け、携帯を眺める新人君
(「新人君だけど・・・クセが強くて、言うこと聞かない子だから、迷惑かけたらごめんね」)
じわじわと、採用担当課長さんの別のメッセージが頭に浮かんできます
「そうだ、この時間で報告書作りましょうか」
気の効く後輩君の提案
それぞれが気付いたことを発言し、後輩君が箇条書きでノートにまとめていきます
「そうしたら、自分、明日メールに打ち直して共有しますね」
後輩君はどこまでも気が効きますが、全部後輩君にやってもらうのも申し訳ないので
「せっかくだから新人君にやってもらえば?新人君の勉強にもなるよ」
と、自分から新人君に提案すると・・・
「いや・・・報告書って要りますか?」
若かりし頃の自分も思っていたことで、何となく予想できた反応
「自分も何でもかんでも報告書を書くのは賛成できないけど、ここぞというときは書くかな・・・特に新人君には、起きたことを端的にまとめる勉強にもなるし、人に伝える練習にもなると思うよ・・・例えばね・・・」
報告書の意義がわかればきっと理解してくれるはず
コーヒーを片手に、彼の目を見て丁寧に説明すると・・・
「いや、自分はそうは思いません」
まるで、あばれる君のコントのような反応
その後も丁寧に説明しますが、「自分はそうは思いません」の一点張り
結局、見るに見かねた後輩君が
「・・・あっ、あの・・・自分やるんで大丈夫ですよ」
午前中の感情はどこへやら
後輩君が天使に見えてきました
微妙な雰囲気を引きずったままコーヒーを飲み終えてお会計すると
例のブルーマウンテンは・・・
1200円
「ごちそうさまでした!」
と、いつもの通り笑顔の後輩君
ランチより高く
ケーキ代も乗っかって
予想以上の出費でしたが
新人君、後輩君をおもてなしできたことを喜んでいると・・・
「イマイチでしたね・・・」
後輩君がつぶやきます
「えっ?・・・何?」
わけもわからず、新人君に聞き返すと
「いや、だから、1200円の割りにブルーマウンテンがイマイチだったって、言ってるんですよ、お二人のはどうでした?」
まるで評論家のような顔付きで話す新人君
「いや、自分はコーヒー専門店だけに美味しいと・・・」
先輩におごってもらってそれはないと思った後輩君が慌てて新人君を制しますが・・・
「あっ、出張先でもう1個確認してくることがあったの忘れてた!」
自分は後輩君の言葉を遮り
「新人君、お疲れ様、ちょっとやり忘れたことあって、後輩君と出張先戻ろうと思うから、今日はここで解散」
新人君が駅に向かうのを見計らって、後輩君とともに駅とは反対側に歩き出します
「・・・あの、すいません、何か忘れてたことありましたっけ?」
突然の先輩の提案に怯える後輩君
「いやいや、後輩君!これから飲みに行こう!」
時間はまだ16時過ぎ、空いてるお店をチラチラ探しながら早歩きする自分
「先輩、普段お酒なんて飲まないのに、どうしたんですか?お店探しましょうか?」
何が起きたのか理解できていない後輩君
「まあ、色々思うところあって・・・付き合ってよ」
(・・・あらぬ疑いを掛けてごめんね、後輩君)
・・・と、生粋のいい子だった後輩君に懺悔すべく、後輩君に美味しい晩御飯をおごってあげましたとさ
以上!
いかがだったでしょうか
ちなみにこの後輩君と新人君
その後、どうなったと思いますか?
後輩君は会社でメキメキと出世し
新人君は間もなく会社を辞めて、そこから自由な生き方をしているようです
どっちが正しい、どっちが間違っているとか
マナーが大事とかが言いたいわけではないので悪しからず・・・
先入観とか思い込みで人を見ると
何も悪いことをしてない人でも悪く見えてしまったり
何も良いことしてない人でも良く見えてしまったり
気を付けないといけないなー、と思ったというお話でした
皆さんも、勝手な先入観で失敗したようはお話がありましたら、教えてください
ではまた!