【創作】「記憶」

Ⅰ.オモヒデ
頭に必死に入れ込んだり
心が勝手に撮したり
ふわふわしてて ちょっとにがくて
あなたしか見れず
あなたのなかに其はいる

色んなところへ行ってきて
色んな人と出会ったね
色んな夢を見てきたね

あなたをつくるその彩りは
出会った人のその影の
暖かな居所になるの



Ⅱ.トラワレ
僕はにげたい
目を閉ざし、耳を塞ぎ、ベッドのなかに隠れこむ
それでも奴からはにげられない

奴は僕のなかにいる
襲いかかるその波に揉まれた僕は
見たくもない映像を見せつけられる
「思い出したくないんだ、やめてくれ!」
枯れんばかりに叫んだ刹那……
ハッと起き上がる身体には洪水



Ⅲ.ヌリカエ
今日は同窓会
「おう!お前懐かしいな」
…そうだね、僕も君にされた色々は良く覚えているよ
でもまあ、もうお互いに大人だ、水に流せば…
「お前とは色々楽しかったもんな」
…あれっ…?
「俺が弄ったからお前のキャラが出たもんな~笑笑それでみんなでゲラゲラ笑ってさ~笑」
…つまり、僕が苦しんだあれも、それも、君からしたら、ただの…



Ⅳ.コタエアワセ
ドンッ…
クラスメートと掘り返したタイムカプセル
「うわー、懐かしいね!」
あちこちにあがる年甲斐もない歓声が眩しい
「そうそう、手紙の最後に好きな人の名前をみんなでこっそり書いたよね~」
…何てことを思い出させてくれたんだろう
私が書いたのは…そう…
「あのさぁ!」
急にはじまる、20年振りの恋の答え合わせ



Ⅴ.ワタシ
今までの人生、決して良いことばかりではなかった
でも、楽しかったことはちゃんと宝箱にしまってある
嫌なことばかり、意外と思い出したりもする
でも、それも「私」なのだ

記憶は私を構成するもの
今は忘れてしまったことも
全て私のどこかにいる

別に今が一番、という訳でもない
本当は戻りたい、「あの頃」もある
忘れてしまいたい「その時」もある

だけど、今だけは、
記憶は「記憶」のままにしよう
逃げるでもなく、忘れようとするでもなく
ただ、私のなかにそっと置こう
これまでも、これからも、何が起こっても

「それでも私は"今日"を生きる」

(2020.3.16 作:凪屋佐音)


「記憶」Keisei Kimura
(油彩画、F100号、2020.1.15、写真:制作者撮影)

~あとがき~
大学の友人Kimura君が描いた卒業制作の1枚に
今回おはなしを吹き込ませていただきました

色が持つストーリー、偶発の造形
そこへあえて言葉を入れ込むということ
それは、ある種の冒涜といえてしまうのかもしれません

ですが
僕がこの絵画を生で見て感じとったこと
彼をはじめとした仲間たちと過ごした濃密な4年間
そんなひとつひとつの、世界からみたらあまりにもちっぽけでありふれた「記憶」達が
この1枚の作品をキーワードにして
僕にこれらの言葉を並べさせたようなのです

個人的に、「記憶」というそのものにあまり良い思い出はありません
"忘れないものは、忘れられないもの"
それが良い記憶でも悪い記憶でも
そんな形のない、たよりのないものに
私たちはしがみついて生きねばならないのですから

ただ、人の記憶は重奏的なものである、ということに改めて僕は気づかされたのです
覚えてなくとも、記憶の戸棚には入ってる
そういう、小さな小さな宝箱を持ちながら前を向くこと
「記憶」にはそういった力強さがあります
だからこそ、人は悪い記憶をもすら、いとおしむことが出来るしなやかさを持てようになるのかもしれません

Kimura君は旅立ち、僕は残りました
今立つステージは、全く異なるところ
彼には彼の、僕には僕の「宝箱」があるでしょう
その形がたとえ違うものであったとしても
僕たちは同じ宝をひとつ、その箱のなかにおさめています

そうして
僕はその宝箱をひとつ握りしめながら
今日もまた「人生」などというあてどない旅を
ふらふらと歩み続けるのです

Kimura Keisei (@KeiseiKimura)さんのツイッター

素敵な作品が沢山収められています
是非一度遊びに行ってみてください

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