〔読書感想〕自分と過去と【噛みあわない会話と、ある過去について/辻村深月】
※気をつけてはおりますが、ネタバレ注意です。
正直な感想をいうと、こんなに読んでいていたたまれない気持ちになった本は初めてです。
この本は辻村深月さんによる4つの話をまとめた短編集です。
この内の2つの話は痛いところをつかれてぐうの音もでないという場面が登場します。
自分の中では正当化してきたことや無意識であったことが人を傷つけ、傷つけられたと主張する人からの大大大反撃をくらうのです。
その状況がリアルすぎて読んでいるこちら側が責められているような気分にすらなってきます。
人間誰しも人を傷つけてしまった経験はあると思います。何気ない言動や、自分のプライドや立場を守るための言動によって人を傷つけ、また、それを悪いことをしたと思ったとしても正当化したり無意味なことであったと思い込もうとしたり。
それだけでも思い出すだけで胸が痛くなるものです。
それが、その本人から追撃追撃もう言い逃れもできません。
気分は首根っこをつかまれて宙ぶらりんになったびっくりチキンです。
読んでる途中は読まなきゃよかったとか読むのやめようとか何でこんな話を書くんだとかいろいろ思うところはありましたが、最後まで読んでみました。
読んでみて思うのは、こういった自分がしてしまった罪悪は忘れたいし思い出したくないものですから、こうしてお話で綴らないと隠されて消えていくと思うんです。
まあ罪悪から目を背けるなというとそうではないような気もするのですが、せっかく自由な文学ですからこんな話もあってもいいのかなということで自分なりに折り合いをつけたところです。
最後の解説も、読後の後始末の役に立ちました。表現がとても面白かったのです。
読んでみて、不思議に思ったことがあります。
それは本のタイトルです。
何が”噛みあわない会話と、ある過去について”なんだろうか、と。
なんとなくわかるようでわからない、”噛みあわない”の部分が。
当人たちが覚えている記憶が、ということでしょうか。
解説にはこう書いてありました。
なかなか面白い解釈ですよね。過去で口をつぐんだ(=死んだ)ことが今になって蘇り糾弾する(=生者を呪い殺す)。なるほど。
それからもう一つ。
お話の1つは、過去の教え子に教師が糾弾される話です。
個人的な話にはなるのですが、私は小中学生のころは教師があまり好きではありませんでした。命令ばかりで理不尽だし、当時いわゆるいい子をしていた私への態度は問題児に手がかかるために割とてきとうな印象でした。
現在、大学の教育学部4年生の私は、教師という職業やその現状について学んできました。教師の仕事がいかに大変か、過酷で仕事量は多岐にわたり、その質やスキルをも求められるということ。
こうして、教師側の視点にまわれば、それはもちろんあちこちで勃発する問題をつぶすのにかかりきりで、正常にまわっているところにさらにケアをプラスすることなんてことをしている余裕はないのだろう、ということがよくわかりました。
私の場合は、教師というものについて学ぶことによって、過去に不信感を抱いてきた教師への恨みに近いような気持ちは自然と消えていきました。
それが消えなかったのが、この本にでてきた、教師を糾弾する人なのだと思いました。
正直おとなしい自分を見てくれなかったことへの恨みといっても過言ではないような気がします。たしかにその教師がしたことも仕方がないでは片付けられないような部分もあるように感じます。ただ、率直にそんなのよくある話ではないかと思いました。
それとともに、ずるい、という気持ちが湧いたのはたしかです。
過去に教師に言われて嫌だったことを、そうして恨みと敵対MAXでぶつけることができたらどれだけスッキリするだろうか、と。
私は今では教師のことを自分なりに理解と解釈ができたために恨む気持ちは全くありません。ただ、私もそうしてみたかったよ、と思ったのは正直に認めます。
過去に恨んだ相手のことを長い間恨み続け、その相手を糾弾することでしか自分の気持ちを晴らすことができないというのは、かわいそうだし当人にとってもすごく苦しいことだと思います。
そういった気持ちは、忘れるとか許すって言うと何だか負けた気がするのでしょうけど、勇気をもって手放すというのも時には大切なのかもしれませんね。
読んでいてもやもやする話って絶対自分の過去とか思考とか、そういった何かに引っかかっているんだと思います。
たとえ読んでいて嫌な気分になったとしても、それに向き合うことで何か気付きにつながることもあると思うのです。
また読書のいいところを見つけた気がします。
思うところがたくさんある本でしたので、ずいぶん長くなりましたが、最後まで読んでいただきありがとうございました。
興味のある方は本書『噛みあわない会話と、ある過去について』をぜひお手にとって、隅々まで読んでみてくださいね。
本日もよい一日をお過ごしください。