宮崎あおいの整骨院を変えた
「自殺するならこんな日がいいなぁ」と思うほどの快晴だった。
単なる快晴よりも台風の翌日の快晴が好きだ。情緒が掻き立てられるではないか。それだけではない中毒性がある。次見れるのはいつだろうか。
新宿行きのダイヤは乱れまくっていた。朝っぱらからすし詰めの京王線で新宿へ向かう。死にたい。
デブ四人に輪姦されているような状態で電車は進んでいった。どんどん死にたくなる。
世界地図の左下では飢餓で死ぬひとばかりなのに、この国では肥満で死ぬひとばかりだ。僕も肥満に圧殺されそうだった。
犯された気分なので頭からシャワーを浴びたかったが、地下を出て突き抜けるような空が目に入るとどうでもよくなった。
人生のつらいことや悩みごとは空の青さで忘れられるのではないだろうか。
小田急の前ではホームレスが身なりを整えていた。「いつか自分もこうなるのだろうな」と思い、とりあえず今は家がある有り難みに心で手を合わせる。
三歩歩けば忘れる。北新宿へ向かう。
病院、というか通いはじめた整骨院へ行くのだ。
以前は宮崎あおいに似ている先生が担当の整骨院だったのだが、最近別の整骨院へと移籍した。
これにはいくつかの理由がある。
まず第一にあおいが休みがちだった。
予約をドタキャンされたまま次が無くなった。それから何度か電話したが、スケジュールがことごとく合わない。通院は中学生の恋愛のごとく自然消滅した。
後、何故か法外な料金を取られるので生活が圧迫されてしまう。極め付けにフクモトに「それたぶん騙されてるよ」と血も涙もない声色で吐き捨てられたからである。
そうは言っても「現役に戻って歌うなら身体を作っておきたい」ぐらいの意識の高さは持ち合わせている。
僕の身体はBMI19.5ぐらいが一番よく動いて声が出る。全然汗をかかずに暴飲暴食していたら作れない数字だ。
ちゃんとした「使える身体」を作るには具体的には基礎代謝を上げて食い過ぎなければいい。基礎代謝は筋力強化や骨の矯正で上がってくる。
1kgの脂肪を燃やすのには8000kcalぐらいの消費がいる。基礎代謝が上がると消費率が上がってくる。
極端な話だが[摂取カロリー➖消費カロリー=➖800Kcal]の生活を十日間続ければ、1kgの脂肪を削ることができる。
いろいろな要素が絡むが、「入ってきたもの」が「使ったもの」を上回れば太るし、少なければ痩せる。
「夜は食べない」とか「野菜から食べてGI値を抑える」とか「糖質カット」とかいろいろあるが、このシンプルな算数が引き算になっていないと何をしても効果は今ひとつだ。
話がそれた。
新しい整骨院は担当の先生がまた女のひとだった。
別にエロ目的ではない。二打席連続でホームランが出ることもある。
しかしこの先生がまたツボなのである。特別美人とかそういうことではないのだが、中毒性がある。
施術中はものすごく優しい。やたら甘やかしてくれるし、実際に腕もいい。
だけど施術が終わった瞬間に何故かめちゃくちゃ冷めるのだ。いきなり真冬並みの冷え込みである。
さっきまで「痛いですよねー♪」とか言っていたのに終わった途端、「はい、おわり」みたいな態度なのだ。「え、あ、はい・・・わかりました・・・」となる。
この賢者モードがあからさまというか、アメリカ人のようなオンオフの切り替えが正直ツボなのだ。
「夢の終わり」のような感覚がたまらないのか、ビジネスライクな付き合いに震えるのか分からない。
だけどサハラ砂漠よりも激しい寒暖の差が頭から離れなくなっている。
アルコールも覚せい剤も音楽もだが、中毒性というものがある。そして中毒性の高いものは大体が「急激」だ。アガるときもオチるときも差が大きい。そのギャップに僕たちの脳は依存してしまう。
台風の後の青すぎる空が愛しい理由はそこにあるのではないだろうか。