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【認知バイアス 心に潜むふしぎな働き】人の思考は非合理的だと知らない事は非合理的だ
オススメ度(最大☆5つ)
☆☆☆☆
〜認知科学の入口に良い〜
最近、僕の読む本が心理学や行動経済学、認知科学などの人の心の動きや思考に関する本ばかりに偏ってきているような気がする。
バイアスとは、いわゆる思い込みのことである。人間は偏見や先入観にとらわれて思い込みや勘違いをしてしまう、という「ファスト&スロー」や「影響力の武器」などで散々読んだ話ではある。
とはいえ、2020年10月に発売された本書に書かれていることは、2021時点では割と最新の情報となるだろう。すでに知っている話がほとんどだったが、古典的実験からさらに発展させた実験の話などがあり、僕個人としては情報をアップデートする事には役立った。
バイアス、というものを知りたい人には本書はかなりオススメである。話題の幅は広いし、各章に著者のオススメ書籍が紹介されているのでこの分野を学びたいという人や見識を広げたいという人には非常に有用だろうと思う。
〜「人間の思考は不合理だ」はナンセンス〜
さて、最後の章に書かれていた著者の意見が非常に興味深かったのでご紹介したい。
人工知能や行動経済学が流行している現代では、認知バイアスに関する書籍が増えてきている。
「人間の思考は合理的ではない」という認識は人々の中に広まりつつある。しかしながら、それを理由に「人間は賢いのか、バカなのか」という議論をする事はナンセンスだ。
人間は論理的に考える事には合理的ではない場面がよくあるが、それは直感や感覚的な脳の機能が原因だと言われている(「ファスト&スロー」でいうところの"システム1"である)。原始時代には、直感で判断する事は生きるために必要だったが、その直感的な思考は複雑な現代では人を不合理な判断に陥れる。
しかしながら、これを人間の思考の"欠陥"と考えるのはあまりにも短絡的だ。
未来を正確に予測することが不可能な状況でも、人間はそこにあるもので判断・構築し、社会を発展させてきた。
直感的思考も含めて、それは人間の"認知"の能力なのである。
人間の認知の力を理解して付き合っていくことが、人類にとっても社会にとっても生産的な考え方なのではないか。
というのが、著者の見解である。
思い込みに関する本ばかり読んでいて人間の非合理的な思考に辟易していた僕にとっては、非常に光の見える考え方だなと、感心してしまった。
〜バイアスの存在をもっと多くの人が知るべきだ〜
ここからは僕の個人的な考えを書きたい。
この「認知バイアス」というものの存在をもっと多くの人が知るべきだと思う。
というのも、僕の肌感覚ではあるが、人は他人の失敗に対して厳し過ぎると思う。
先入観や思い込みで合理的な判断が出来ない、という事はこれだけ多くの研究と調査がなされているにも関わらず、あまり一般的な話題にはのぼらない。
どれだけ頭の良い人でも非合理的な思考を避ける事は難しい、というのに、今の世の中には合理的・論理的に判断出来ない人はすぐに愚か者だと言われてしまう。
誤った判断や決定は、他者から見れば明らかに非合理的であったとしても、本人が気付く事が難しいから起こってしまうのだ。
誰かの失敗を、外側の人間が責め立ててしまうだけでは、それこそ合理的ではないし生産的ではない。
世の中の人がもっと「認知バイアス」というものの存在を理解して、誰かの失敗に対して責め立てるのではなくサポートして修正する、という世の中になってほしい、と僕は思う。
最近、大阪大学の研究で「日本人の経済発展の邪魔をしているのは、足を引っ張り合う日本人の特性だ」という結果が出たらしいが、
足を引っ張り合うのではなく補い合う世の中になるべきだ。
そのためには、多くの人が「人間は間違うもの」という当たり前の事をキチンと認識するべきだと思う。