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【戦後史の正体】面白いけど高校生には読ませられないと思う
オススメ度(最大☆5つ)
☆☆☆☆☆
〜対米追随路線と自主路線〜
非常に面白い。異常に面白い。
本書は戦後の日本の歴史を「米国からの圧力」を軸に描いている。
そして、戦後から現代にかけて対米外交は「対米追随路線」と「自主路線」の戦いであったという。
「対米追随路線」とは、アメリカから信頼を得て国益を最大化しようとすること、「自主路線」とは現状を変えようとアメリカに対し積極的に働きかけること。
もちろん、アメリカと良い関係を築くことで国益が最大化する、という考え方に納得する人もいるだろう。僕も全面的ではないものの納得出来る。
しかし、著者曰く「アメリカはその時の状況によって、他国をコマとしてどのように動かすかを考えている」「日本との関係もその時の状況によって大きく変わる」とのこと。
つまり、著者からすれば(実際に本書ではこんな表現はされていないが)「対米追随路線」とは「強い大国アメリカの言うことを聞いてもめないように媚びへつらう」ことであり、「自主路線」とは「大国アメリカに対しても臆することなく日本の信念を持ち立ち向かう」こと、なのである。
そして、本書はこの「対米追随路線」と「自主路線」のせめぎ合いを中心に戦後史が語られていく。
〜対米、という新しい視点が生まれる〜
対米に焦点をあてて戦後史を見ていくと、非常に興味深い視点が生まれる。
例えば、対中国との国交問題には頻繁にアメリカの存在が影響してくる。
田中角栄氏は対中国交を成功させた人物だが、ロッキード事件をきっかけに政治家生命を絶たれる。しかし、その裏にはアメリカの思惑が大いに絡んでいた。
また、短命政権であった鳩山由紀夫元首相は「普天間基地を最低でも県外に」という発言が物議を醸したが、対米追随路線をとる政治家やメディアからバッシングを受けて、首相の地位を下される事となった。
著者によると、田中角栄氏、鳩山由紀夫氏はいずれも「自主路線」を進んだことで、アメリカもしくは国内の「対米追随路線」派に妨害を受けた人物だ。そして、この2人の他にも「自主路線」を進んだ事で、さまざまな妨害に遭った人々について書かれている。いかに、アメリカの思惑を跳ね除け「自主路線」を突き進むことが困難であるかというのを思い知らされる。
今後の日本の政治を見る上で、「対米」という観点が僕の中で生まれたのは間違いない。それほど、アメリカという国を意識してしまう内容なのである。
〜分別のある大人が読むべき〜
さて、かなり面白い一冊ではあるのだが、同時に非常に偏った内容であることも否定出来ない。
というのも、著者は一貫して日本は「自主路線」を進むことを推奨しており、アメリカを世界におけるジャイアンのであるかのように書いている。
著者曰く「『高校生でも読める本』を書いた」そうなのだが、僕は逆に多感な高校生が読むことで必要以上の「嫌米」感情を抱かせてしまいそうで、ある意味危うい一冊だとも思う。
状況によっては、「対米追随路線」を進むことで本当に国益になる事だってあるかもしれない。「自主路線」一辺倒では、うまくいかない事もあるかもしれない。
多様な視点を持てる分別のある大人が、新たな視点のひとつとして本書を読むのが良いと思う。個人的には、高校生には読ませたくない一冊だ。