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経営者に諫言できるCHROに必要な5つのポイント~信頼できる柱が欲しい経営者のための『プロパーCHRO』の育て方Vol:9~

こんにちは。株式会社シンシア・ハート代表の堀内猛志(takenoko1220)です。
このシリーズでは、「信頼できる柱が欲しい経営者のための『プロパーCHRO』の育て方」について、50名から4000名まで成長した企業で、各ステージの人事組織戦略の遂行に人事役員として奔走した自身の経験をもとに、人事トップになるために実行したことや、意識していたマインド、経営や現場とのコミュニケーションのtipsなどをお伝えしていきます。

私の経歴詳細は以下からご確認ください。

それでは、今回のアジェンダです。
今回は経営者に諫言できるCHROに必要な5つのポイントを解説します。


企業風土が壊れる原因は経営者の奢りと歪み

様々な企業の組織課題に対して向き合ってきましたが、つまるところ原因は経営者にあると思います。もちろん、大きな組織だと直接的な原因が経営者にあるわけではなく、その組織の責任者が作り出していることもあるのですが、その責任者を任命したのはその上司であり、水は上から流れるように全ての起因は一番上にいる経営者にあるのです。

企業風土は、我が社はありたいという願いを明文化した企業文化と人事制度、及びビジネスモデルがバランスしているからこそ徹底され、自然発生してくるものだと思っています。

企業文化と企業風土の違いは以下のnoteをご確認ください。

図解化するとこんなイメージです。

企業文化、人事制度、ビジネスモデルがきれいにバランスしていることが大事で、このバランスがおかしくなると企業風土も歪み出すイメージです。例えばビジネスモデルが徹底的なオペレーションが必要なモデルなのに、企業文化にイノベーションを掲げてもちぐはぐですし、人事制度で高いインセンティブを導入しても全く機能しません。このように3者がバラバラな状態で生まれる企業風土は何とも言語化しにくいものになるでしょう。

そして、この3者がキレイにバランスしていてもそれを崩すのは経営者であることが多いです。バランスした3者が風土に至るまで浸透するには徹底力が必要なのですが、徹底せずにイレギュラーを認めるのは大体の場合、経営者だからです。

企業文化で大切にしている価値観と違う言動を行ったり、イレギュラーの評価をしたり、企業文化からは程遠いビジネスを始めようとしたり、こういうことを起こすのは大体経営者なのです。

経営者が暴走してしまうのは2つの要因があります。

①自己認知が甘く、過大評価してしまう
②徹底力が弱く、すぐに特別対応を認めてしまう

②はイメージつきやすいですよね。「今回は特別」とすぐに言ってしまう経営者は要注意です。

①は少しの成功体験で自社を一足飛びで成長できる企業だと勘違いしたり、他社の成功事例や仲の良い経営者の話を聞いて妄想が広がっている場面で起きやすい要因です。視座が上がり過ぎて地に足がついていない状態になっているイメージです。

冷静な経営者なら1日寝かせば元に戻るのですが、暴走気味に決断する経営者だとやっかいです。間違えたゴールにナビを設定してアクセル全開で走ってしまうので、推進する側の従業員はたまったものではありません。

とはいえ、経営者がブルドーザーと比喩されるくらい力強いのも頼もしい証であり、経営者はそうあるものと言えるかもしれません。ゆえに、脇を固める役員やCHROが冷静に経営者に諫言しなければならないのです。

経営者に還元するために必要なCHROが行うべき5つのポイント

一言で諫言と言ってもそう簡単にできるものではありません。ブルドーザーに手ぶらで向かってもひき殺されるだけです。ゆえに、以下の5つのポイントを守ってブルドーザー経営者に立ち向かってください。

①主語は「自分」ではなく「会社」を用いる

主語を自分にすると議論は個人対個人の感情論に発展しがちです。感情論はどれだけ話し合っても平行線で非生産的です。時間がかかるほど互いにイライラしてくるでしょう。

これを回避するために必要なのは主語を「我々は」「(会社名)は」「わが社は」にすることで、私とあなたは同じ主語ですよと相手の無意識に働きかけることです。私は特に会社名を主語にすることをおススメします。それは代名詞よりも固有名詞を使う方が重みが違うように聞こえるからです。

経営者も相手自身が主語なら「それは違う」と言えますが、相手が自分の会社であり「わが社の考えはこうですよね?」と諭されると冷静になりやすいです。

②自社の「現場」「現物」の状態を把握しエビデンスを持っておく

ここから続く②③④のポイントは、経営者よりも知っていることが重要です。だからこそ、CHROは普段から②③④の「現場」「競合」「人事」については必ず経営者よりも情報を多く集めるようにしておきましょう。

まずは「現場」「現物」です。経営者が見えておらず、また、説得がしやすいエビデンスとして有効なのは現場の声や顧客の声です。「私の意見ではなく、お客様の声として実際にこのようなモノがある」と伝えることで冷静になります。

事実や数字が大事なのは当たり前ですが、「現場」「現物」で大事なのは量です。数人の意見だと個別の意見のひとつとみなされてしまうので、適切な数量を集めて伝えるようにしましょう。ただし、定量データは多い方がいいので見やすく加工していいですが、定性的な声はローデータとして原文のママで提出した方が温度感が伝わって効果的です。

③競合の「取り組み」と「成果」を把握しエビデンスを持っておく

さらに経営者が知りたいのは「競合の取り組み」です。特に自社よりもステージが進んでいる競合の取り組みは経営者なら一番知りたい内容です。経営者も当然調べているでしょうが、人事組織の取り組みまでは詳しく理解していないことが多いです。情報を集めるために普段から競合の人事責任者と仲良くしておくことが大事ですね。

競合データは量よりも詳細が重要です。取り組み内容そのものの詳細も重要ですが、その施策を行おうとした背景や、解決したい課題は何か、を明確にし、それらが自社と近しいことが重要です。背景や課題が違うのに施策だけパクっても意味はありません。むしろそんな表面的な情報だけで戦おうとしたことに経営者から突っ込みが入りCHROとしての信頼を失ってしまいかねません。

また、競合と同じことをすることを極端に嫌がる経営者もいるので、競合の取り組み施策をオマージュしつつ、CHROによって独自のスパイスを加えた自社オリジナル施策案にして提出すると良いです。競合より上に行っている取り組みに対して経営者は喜ぶでしょう。広報ブランディングに力を入れている経営者なら、その取り組みの広報イメージまで添えて伝えると即決断してくれる可能性が高いです。

④経営者よりも人事施策においては高い専門家であり続ける

人事領域はすべての部門に関わるので他の分野に比べて比較的、他の役員も自身の哲学を持っていることが多いです。例えば経営会議ではファイナンスやシステムについての議論ではそこまで紛糾しないのに、人事のパートでは皆が持論を展開するので紛糾しやすいです。

その中でも経営者が自身の人事哲学を持っているとCHROは動きづらいこともあります。人についての哲学は揺るがない人が多いですからね。よって、まずは経営者の哲学も踏まえて自社のHRMポリシーを決めておくことが重要です。①の通りですが主語が会社になれば議論が感情論になることはありません。経営者の哲学と対峙する場面が多く疲弊する企業は会社としてのHRMポリシーをつくることをおススメします。

HRMポリシーの詳細はこちらがわかりやすいです。

ポリシーはあくまでも哲学であり背骨です。よって、詳細の人事施策という肉付けが必要になります。ここからがCHROとしての腕の見せ所です。方針を経営陣と握れたら、企画戦略、施策運用、改善は人事の役割責任であり、全て任せてもらった方が早いです。

この「全て任せてもらう」という権利を得るために重要なのが「経営者よりも人事に詳しいこと」と「過去から今までのありとあらゆる人事施策を知っていること」の2つです。一つ目はCHROとして当たり前ですが、社内で1番というだけでは信頼としては不十分です。なぜなら経営者は常にアンテナを高く持っていて、色んな経営者から他社の人事施策を聞き耳年増になっているからです。

「●●さんのところでこういうことやっていて効果がでているんだって」
こんな感じで聞いてきたことをそのまま実践したがる経営者の方は多いです。こういう時に二つ目の知見があれば冷静にその施策を評価し、正しく見極めたうえで決定の判断ができます。また、経営者も自分の意志としてはやりたいと思っている施策を止められても「こいつがそういうのであればしょうがない」と思ってくれるのです。

分類の仕方は私の個人的な整理なので何でもいいとして、理論と実践、古典と現代という観点で人事施策を整理し、理解し、使いこなせるようにしておくことは重要です。特に若い人ほど現代的で実践的な施策に目がいきがちですが、古典的な施策、理論的な施策をきちんと勉強することを忘れないで欲しいです。

⑤労働市場評価よりも高い評価報酬をもらわない

最後に一番重要なのは、「労働市場評価よりも高い評価報酬をもらわない」ということです。高すぎる報酬は驕りを生み出します。そして、そのポジションに執着しようとします。その結果どうなるかというと、自分より上の役職の人にいい顔をしながら、下の役職の人を使うという二枚舌の人材になります。また、学習や実践で自分を磨くことよりも、自分のポジションを維持するために力を注ぐようになります。

「いつでも辞められる」「どこでも今と同じかそれ以上の評価をしてもらえる」こういう状態にいるからこそ、自分を正しく認知し、絶えず自己研鑽を行い、そして経営者に臆せずに諫言できるのです。私がエージェントとして候補者に会うときに、自分の価値を過大評価している人、市場価値よりも高い報酬を得ている人で、謙虚な人、一瞬で優秀だと思える人を見たことがありません。

分相応というのは大事ですね。CHROとして労働市場について詳しいはずですから、自分の価値が市場価値よりも高く評価されているのか、低く評価されているのか、分相応なのか、ということを定期的にチェックするようにしましょう。

実際の諫言場面のイメージ

ここまでの内容を踏まえて、実際の諫言イメージは以下です。

シーン:
経営者がプロジェクトの進行を急ぎ、制度を超えて社員に過重労働を強いる場面


CHRO: 「社長、私たちの行動がチーム全体に影響するので、率先して模範を示しましょう。」

経営者: 「事業が最優先だ。今は有事なので制度やルールにこだわる暇はない。」

CHRO: 「確かに事業は大事ですが、私たちがルールを無視することで、社員たちも同じことをするようになります。」

経営者: 「今は有事だということをきちんと伝えればいい。有事と平時の戦い方は違うんだ」

CHRO: 「しかし、オーナーの行動が直接社員の行動に影響します。実際に、現場の責任者『今は有事』を口癖にルールの無視が増えています。さらに、過労で体調を崩す社員も出てきてしまっています。こちらがサーベイの結果で重要なコメントもピックしています。どうぞ。」

経営者: 「なるほど。しかし、体調管理は自己責任だろう。」

CHRO: 「それは仰る通りです。一方で、当社のHRMポリシーには「多様な人材がイキイキ働く環境作り」がありますよね?ここを守れていないという口コミが多くあり、実際、こちらの理由で過去3ヶ月で5人が退職しました。」

経営者: 「そういう口コミがあるのか。でも、彼らの退職理由は他にもあったはずだ。」

CHRO: 「確かに複数の理由があるかもしれませんが、過労が主な原因であることは明らかです。持続可能な働き方が必要です。」

経営者: 「今は急ぐべきなんだ。売り上げが全てを癒してくれる。成果が出れば従業員のモチベーションの回復する。」

CHRO: 「短期的な成功は重要ですが、長期的に見ると人材の損失は大きな痛手です。優秀な人材が離れていくことは、会社の未来に影響を及ぼします。例えば競合のAさんで起きたことですが~。」

経営者: 「そうなのか。では、どうすればいいんだ?猶予はないぞ。」

CHRO: 「プロジェクトのスケジュールを見直し、効率的な働き方を導入することで過労を防ぎながら目標を達成することが可能です。例えば、A、B、Cという施策があります。それぞれ簡単なシミュレーションをしてきました。」

経営者: 「確かに、無理なスケジュールは問題かもな。B施策はいいかもしれない。ただ、もう少し運用イメージを沸かせたい。具体的な対策を考えてくれ。」

人事部長: 「はい、具体的な対策をまとめた提案書を作成します。今日18時までには素案を提出します。」

経営者: 「分かった。よろしく頼む!」

かなりシンプルなのでここまでスムーズにいかないかもしれませんが、「現場の代弁をするのは自分」「社長と何度も戦っても無駄とわかれば最後は辞めればいい」このような気持ちを持っていれば諫言も嫌な役割ではなくなるはずです。

まとめ

今回は「経営者に諫言できるCHROに必要な5つのポイント」について解説しました。「頭の固い経営者をどう変えるか」という相談はよく受けます。
しかし、基本的には経営者は変わらないと思った方がいいでしょう。そもそも上司を変えることも、代えることも、組織構造上、CHROにはできません。

できないことに目を向けるよりも自分ができることをきちんとしましょう。実際に戦い方が下手な人をたくさん見てきました。だからこそ、上記を実践してもらいたいと思います。

私は前職でプロパー入社しCHROになりました。プロパーで15年以上勤めていたので社内や経営者からの信頼は厚く、諫言がしやすい状態ではありました。プロパー社員の声は通りやすいというのはどこの会社でも一定はあるのではないでしょうか。一方で、プロパーがゆえに他社で実践をしたことがないという弱みがありました。よって、自社よりも組織規模や組織ステージが進んだ企業からの転職者からの人事施策案が通りやすくもあり、CHROとして悔しい想いもしました。元リクルート、元Googleの社員の方が前職の実戦経験を語ると経営者は飛びつくんですよね。

だからこそ、上記の②③④については自己研鑽を欠かさないようにしました。それが今の自分を支えてくれています。このnoteは私の経験をアウトプットしていますが、特に今回のnoteは自分の経験を色濃く反映させていますので参考にしてもらえると幸いです。

より詳しい内容が知りたい、自社で戦略人事思考を持った人事責任者を採用したい、育てたいがうまくいかない、という経営者の方はご連絡をください。CHRO採用とCHRO開発を承っています。
takenoko1220

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