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「HOWよりもWHY」 僕らが働くなかで考えるべきことは何か。


はじめに


「自分自身で設定された課題に対してどのように取り組みますか?『いつ・誰を・何を』の要素を踏まえて考えてみてください」

これは先日受講した中堅社員向け研修の一幕。事前に研修の目的が明らかにされておらず、研修内で紹介されるロジカルシンキングツール(MECEなど)が学生でも知っているレベルであることに違和感があった*のだが、ワーク中に上記のお題が出て、違和感は確信に変わる。そしてこのように感じた。

「そもそも、設定した課題が適切かどうかの話はしないのかな」

*ツールの名前を知っているかは別として、「一定の経験のある社会人が、仕事において日常的にMECE的な抜け漏れのない思考をできていなかったら怖いよね」というニュアンスもあります。

例えば、以前から興味のあった美術館がある街に行くために、コスト的に一番良い移動方法を考えることにしたとする。「新幹線を早期予約する」「ホテルの予約とセットで料金がお得になるチケット探す」「金券ショップに行ってみる」といった方法があると思う。

ところが、あれこれ時間をかけて調べた後に美術館の所在地を勘違いしていて、調べたことがほとんど無駄になってしまったと分かる。まず、行き先が正しいかどうかを確認すれば良かった。

「事前に行き先を確認してから着手することくらい当たり前だろう」と思うかもしれないが、これに近しいことは大なり小なり、組織や仕事のなかで日々生じていると思う。時間をかけて取り組んでいたことに手戻りが生じて、苦い経験をしたことはないだろうか。

中堅社員を「オペレーションができるだけでなく、チームの方向性を決めることにも携わる立場の人」(ここでは年齢ではなく中核となる存在という意味での「中堅」を指す)と定義した場合、中堅社員に求められるのはオペレーションを遂行・評価する能力に加えて「チームにおいて適切なゴールを設定して、その道筋を描くことのできる能力」ではないだろうか。

ただ、ゴールや道筋の話は仕事に限った話ではないので、若い人(若手社員)には不要というわけでもないし、若い人の方ができているということも多いと思う。

今回、記事のタイトルを「HOWよりもWHY」としたが、これは重要度ではなく優先度のことを指している。HOWはぞんざいに扱って良いというわけではない。「適切なゴールを設定する」のはWHYの部分。「道筋を描く」のはHOWの部分。どちらかが欠けると「適切なゴールを設定して、その道筋を描くこと」はできなくなってしまう。


HOWとWHYのこと


HOWは比較的インスタント。WHYは時間がかかる。

HOWにはアクセスしやすい。やり方を知りたければ、スマホで検索しても、書籍を探しても良いし、YouTubeで動画を見たって良い。そして、お金や時間的なコストがかからないものであれば、すぐに実行して経験を積むこともできる。(もちろんアクセス難度が高いものもあるし、本当の意図を理解できるかといった問題もあるけれど)

一方、WHYは自分(たち)で言葉にしていかなければならない。「どうしてやるのか」「なぜこの方法(HOW)がベストなのか」といった具合。ここで表層的な問いしか出せないと、本質的な成果には結び付かない。だから時間をかけてでも自分自身で、あるいは関係者と対話をしながら掘り下げていく必要がある。


大きな鍋は買わないけれど、とりあえず1on1はやっている。

お蕎麦を茹でる時は、大きな鍋にたくさんのお湯を沸かすのが良いらしい。湯量が多いと麺を鍋に入れた際に温度が下がらず、デンプン質が溶け出さないそうだ。蕎麦好きの家族なら、美味しく蕎麦を茹でることができる鍋はとても魅力的なはず。(HOWの話)

とはいえ勢いだけで行動するわけにもいかない。「台所の収納力や蕎麦を食べる頻度を考えると今は大きな鍋は不要だね」とか「子供が独り立ちしたら、蕎麦打ちを始める予定だからその時に買おう」といった形で検討を進める必要がある。もし様々な事情を無視して、誰かが突然大きな鍋を買ってきたら、他の家族からのバッシングは避けられないかもしれない。(WHYの話)

どんなに魅力的で取り組みやすいHOWがあったとしても、WHYとのすり合わせができていないと良い結果は得られない。

ちなみに大きな鍋の話は、人事図書館 館長の吉田さんがされていたもの。個人的にとてもイメージしやすかったので、これからも使わせていただきます🙏

ところが仕事の話となると大きな鍋のようにはいかないこともある。日々の業務で上手く行っていないと焦りを感じることに対し、書籍などで他社の成功事例を踏まえた良さげな方法論が紹介されていたら、使ってみたいと思うこともあるのではないか。

例えば「部下の本音がわからないから1on1をやってみよう!」と始めたものの、なかなか深い話にはならずにいつも上辺だけの会話で終わってしまったとする。それは部下との関係構築ができていないのかもしれないし、部下は「本音を話したところでチームは何も変わらない」とか「実は次の賞与支給後に退職を考えているので、何もかも穏便に済ませよう」と思っているのかもしれない。

1on1であれば、特別に道具を用意することなく簡単に始めることができる。継続すれば「やってる感」も出る。けれども、上記のような問題が潜んでいた場合、本当に効果的なHOWになるのだろうか。「部下の本音がわからないのはなぜか」というWHYを通じて理解を深めていく必要がある。

本質的な問題の特定と適切なゴール設定ができていない状態でHOWを実行すると、いつまでも目的地に辿り着けずにふらふらと空中を飛び回っているだけになってしまう。


僕らが働くなかで考えるべきこと。

HOWは選択式である。いくつかある手持ちのカードから自分たちの状況に合わせて適切なものを選んでいく。どんなに良い課題の設定ができていても、やり方がイマイチであれば成果は出せない。だからベストな「道筋を描く」ためには(コレクターにならない程度に)使えるカードの種類があった方が良い。

ただし、HOWそのものは自分で生み出す必要はなく、集めたものを自分たち向けに調整できれば良い。大切なのは先人たちの挑戦や足跡から学び、自分で「車輪の再発明」をしないことだ。大抵のことはすでに語られ実践されている。

車輪の再発明 とは
広く知られている確立された技術や解決方法があるにもかかわらず、それを知らずに、一から同じようなものを発明してしまうこと。既存の技術を知っていればそれを利用するだけで済んだものを、わざわざ再発明に無駄なコストと労力をかけてしまう皮肉を込めて使われる言葉でもある。

僕らが考えるリソースを割くべきなのはWHYの方である。世の中を見渡せば優秀で自分の上位互換のような人はいくらでもいる。けれども、組織のなかで目の前の問題と対峙して「なぜ」「どうして」と問いを立てて深めていくことができるのは、他の誰でもなく僕らにしかできない役割だ。

だからこそ、一つひとつの事象を丁寧に解きほぐしていくことに時間をかけなければならないし、そこがイマイチだとHOWとはピッタリとはまらずに求めた結果は得られない。「適切なゴールを設定して、その道筋を描く」ためには、このような形でHOWとWHYに向き合っていく必要があると思う。

(中堅社員の話に戻ると)WHYを深め、適切なHOWと接続して成果に繋げられるかどうかが会社からの期待値になる。考えることも仕事なので、時間を確保するためにオペレーション自体は部下にお願いしても良い。するとマネジメントが発生するので、プレイヤーとしての知識・意識しか持ち合わせていないと上手くいかない。だから「マネージャーとしての能力も磨かないとね」という話になる。


おわりに


WHYの部分が深められていない(言葉が粗いと思考も粗くなる)仕事を見ると残念な気持ちになるし、その仕事を振られたメンバーの成長も鈍化してしまうのではないかといつも考えてしまう。

「〇〇だから△△」と安易に飛びついてしまうのではなく、「どうしてだろうか?」と立ち止まり考えてみることや考え方そのものを深化させていくことが大切だと思う。(考え過ぎて動けなくなってしまうのはダメだけど)

問題解決に関する書籍はたくさん出ているが、最近読んで入門編としてとても良いと思ったのが渡辺健介さんの『世界一やさしい問題解決の授業』だ。中高生向けではあるが本質を捉えた素敵な一冊。未読の方は是非読んでみて欲しい。

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