『銀の匙』の泉を求めて
-中勘助先生の評伝のための基礎作業 (100) 野尻湖畔再訪
重い風呂敷包みを左手にさげ、格子を閉めて門のほうに歩いたとき、末子さんはふと思いついたように、「裏の畑を見ていらっしゃい」と後ろから声をかけました。中先生が仕方なく裏にまわり、もとの花壇のあたりに立っていると、急いで下駄をひっかけた末子さんが追いついてきました。畑は広く耕されてなにか蒔いてあるように見えました。末子さんが蒔いたのでした。去っていこうとする中先生を少しでも長く引き留めておこうとして、友だちが送ってきた香を用箪笥から取り出してかがせたりしました。