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【書店員をしていれば、本好きの彼女が作れるのか】

いよいよ五年目に突入である。

書店員経験の年数ではない。
ゴールデン街に通っている年数でもない。
もうタイトルからわかるだろう、
成生の彼女不在年数である。

二十一歳のときに初めて彼女ができて、基本的には二十六歳まで途切れることはなかった。
別れの予感を察したらすぐさま他の恋へ移行していたし、唐突の別れに対してもなんとか一、二ヶ月で新たな関係を構築できていた。あれッ!俺、意外とイケるんじゃね!?
そう錯覚するには充分すぎる年月を過ごしていたように思う。

しかし現実は甘くない。
二十六歳の時にヒモ状態だった彼女の家を追い出され、コロナや人間関係や仕事に弄ばれているうちに、気が付けば五年が経過していたのである。
酒の勢いでテヘヘ♡みたいな夜が宝くじレベルであるだけで、マジで恋とか愛とかそういう素敵なものから完全に見放されてしまったのであった。
(最後の彼女と別れてすぐに、一回だけ告白をした。おっぱいが大きくて、ちょっとホラン千秋に似ていた女性だった。雰囲気だけで惚れてしまったので、大した会話もせず意気も合うこともなく惨敗。詳しくはこの記事に書いてあるのでぜひ読んでほしい【友情のテキーラショットが繋いだ、遥かなる”おっぱい”への想い】〜瀬尾まいこ『そして、バトンは渡された』〜)

とは言いつつも、三十一歳、めっきり出会いがなくなったわけではない。

むしろ書店員となったいま、作家さんや出版社の方々や他店の書店員さんとお知り合いになることが増えた。
スカスカだった名刺ファイルがすぐにぼんっと膨らみ、交友関係は大幅に広がった。

書店で会う際には新刊や仕掛けの話で盛り上がり、飲みに行った際には、好きな本や出版業界のあれこれについて語り合ったりもする。
「〇〇さんの新刊面白いっすねー!っていうか、来週いつ空いてます?飲みに行きましょ!」
もはや仕事上の付き合いという間柄にとどまらない。友達同士でするようなどうでもいい世間話などをして、純粋に時を楽しんでいる。

このままこの業界を泳いでいれば、本好きの誰かと特別なカンケイになれるのでは・・・?

妄想を展開しながらせっせと本を並べ続けて二年半が経つ。おかげで"仕事が"ものすごく充実している。

いやいや!
いくら業界の人たちと仲良くさせて頂いても、そんな何千という人々と接することはできない。
そう、日々の暮らしの中で一番多く接しているのは紛れもなくお客さんなのだ!
そこには頑固そうな読書オヤジ(めっちゃいい人だったりする)だけでなく、綺麗な女性や可愛い女の子も含まれている。
まさしくチャンスの宝庫。
活かさない手はない。

「この本すごくおもしろかったですよ!」
ピッ。バーコードを読み取りながら爽やかに。いつもより背筋を伸ばして、声にも張りを持たせる。
「ほんとですか。楽しみです」
このとき好反応だと、めっちゃ嬉しい(男女問わず)。
「レシートです」
「ありがとうございます」
「カバーお付けしますか」
「大丈夫です!」
「じゃあ僕のラインID挟んどきますね」
「いいんですか?」
「もちろんです。今日は足を運んで頂き、ありがとうございました」

というのは幻想である。

実際は颯爽と人混みへ消えていく背中を名残惜しそうに見つめているだけだ。
せめて「ぜひ感想聞かせてください」とかちょっとした一言を言えばいいのに、こういうときに限ってビビッて何も言えなかったりするのが己の虚しいところ。

まあ変なことをして気持ち悪がられたり二度と来てくれなかったりするのは嫌だな。
でもやはり何かアクションをするべきだったな。
そんな手遅れの葛藤に苛まれている間に次のお客さんがやってくる。
反省する暇などない。

だが、ここでへこたれてはいけない。
そもそも出会いというものは、待っているだけではだめなのである。偶然とかたまたまとか、そういう運的要素に身を任せていては、何も起こらないのである。

というわけで始めたのがマッチングアプリであった。
俺は、巨乳美女に捕まってマルチ商法のアジトに連れていかれたり、酒井高徳似のフランス人女性と深夜の浅草を徘徊したという思い出があるTinderを、再登録したのである。

プロフィール設定の趣味欄に『読書』の項目があったので、意気揚々とチェックを入れた。一応保険として、『マンガ』と『バー巡り』にもチェックを入れた。
読書好きかつ、同じように出会いを求めている女性を探すにはこの方法が一番効率的であった。
俺は真剣にプロフィールを読み漁り、LIKEの上限数を気にしながら、難しい顔をしてスワイプを繰り返した。

二週間後。
俺は、自身とマッチしたアカウントを見てうんざりしていた。

プロフィールに絵文字しかない、物理的質量が大きすぎる外国人。
女性向け風俗店経営者を名乗る怪しいスカウトマン。
シーシャ連れてって系の加工ツインテール。
クラブイベントの割引広告アカウント。

そんなやつらとしかマッチしなかったのである。

だがこれは、開始三日目にして面倒くさくなった自分が悪い。
さっさと終わらせようと、ろくに顔も見ず惰性でLIKEしまくった結果であるので文句は言えない。マッチしたひとたち、ぜひ他を当たってくださいや。

俺はTinderをデバイスに眠らせた。
一応、通知はオンにしたままで。


ここまで書いてみて分かったのだが、たぶん俺、しばらく彼女できない。

それは書店員という薄給ステータスに自信がないからとか、女性と深めのコミュニケーションする機会がないからだとか、そういうことではない。

単純に、恋愛マインドを忘れちゃってるからなのである。

誰かに想いを寄せる胸の高鳴りや、恋を乗り継いでいく軽薄な気持ち。
そのような楽しさをいつのまにか、俺はどこかに置いてきてしまったのだ。

交番に行っても教えてくれない・・・。
先生に聞いても答えてくれない・・・。

あああああああ!!!!!!!!
ないいいい!!!ないいいい!!!

一年ぶりに元カノの家を見に行ったら、知らないおっさんが窓全開でいびきかいてたってくらいの出来事が俺の中で起きている!!!(実話)

旅先の店、新聞の隅、積読の隙間、どこを探しても欠片さえ見つからない!!!

焦る俺、逃げてしまう俺!!!

そして逃げた先で待っている仕事!!!

降りそそぐ本の雨の対応に、精一杯で胸一杯!!!

その装丁たちのなかには女の影さえない!!!

ないいいい!!!!!!!

ああいっそのこと『書店員になれば本好きの彼女ができるのか』とかいうタイトルごと、この記事ぶっ壊してやりてえええええ!!!

【結論:書店員をしていても、本好きの彼女ができるとはかぎらない】

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