『ペリフェラル』配信開始。ウィリアム・ギブスンの面白さ、再燃!
Amazonプライムビデオで、『ペリフェラル~接続された未来』が始まった。
物語は、こんな感じで始まる。
退屈な毎日を送っていた主人公フリンは、VRゲームのテストプレイにのめり込み出す。仮想空間でのミッションに立ち向かう中、得体の知れない敵がリアルな世界に現れ、家族の命を標的に。
虚構とリアルの境界が崩れ始め、フリンはゲームの仮想空間が70年後の未来だと知らされる─。
10月21日よりAmazon Prime Videoで独占配信が始まった。初回は2話配信、全8話のドラマシリーズ。毎週金曜日に新エピソードを配信予定。
今回は、
『ペリフェラル』のドラマのこと、
サイバーパンクの世界観、
最後にサイバーパンク小説の面白さについて書こうと思う。
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▼ドラマ〜 VRゲームと時間移動の面白さ
『ペリフェラル』は、サイバーパンクの申し子・ウィリアム・ギブスン原作のドラマ化作品だ。
まず、近未来のVRゲーム表現に心が躍る。
目元を覆わないVRヘッドセットデバイス
ダイレクトに脳神経に作用する仕組み
触覚も痛みもすべてがリアルに感じられる世界
物語は進化した近未来のVRゲームを見せながら、そこに隠された謎を追う形でスタートする。
また興味深いのは、仮想空間が実は70年後の未来という設定だ。謎の奥行きがグッと深まる。
ドラマのゲーム世界には目を見張るけれど、いま現在のVRゲームもかなりスゴイ。リアル感を追求した高度なインタラクション、その場にいるかのようなVR旅行ゲームの体験など、驚くばかりの没入感だ。
VR技術の進化はめざましい。どんどんサイバーパンクの世界に近づいているようだ。
▼世界観1. サイバーパンクとは
80年代、ウィリアム・ギブスンによって広がったサイバーパンクの世界とはどんなものか。
舞台はコンピュータネットワークが高度に発達した、退廃した近未来。
ハッカーたちが電脳空間に精神没入して駆け巡る、ハードボイルドな活劇であり、スパイアクションなのである。
小説や映画において隆盛を誇ったサイバーパンクも、90年代の『マトリックス』をピークに徐々に終息していった。
それは多分、現実のテクノロジーがwebで発展したからである。
サイバーパンクには、情報収集においてwebの概念がほぼ存在しない。当然、スマホもアプリも存在しない。インターネットが日常化している現代のテクノロジー環境とは、枝分かれした世界なのだ。
で、物語的にも面白くないのか?
まさか。
最高のエンターテインメントだが、ガジェットやら有線による接続やらディストピアな表現が、現実世界とは違ってきたというだけだ。
まあ、レトロフューチャーになったというだけ。
でも、ゲームの世界でサイバーパンクは息づいている。
大人気RPGゲーム「サイバーパンク2077」の舞台は、80〜90年代に描かれたサイバーパンクの近未来。
レトロフューチャーを楽しむフトコロはちゃんとある。
未プレイヤーの私が言うのもおこがましいのだけれど。
物語世界も同じことだ。レトロフューチャーを「もうひとつのテクノロジー進化形の近未来」として、今また、大いに楽しみたいと思うのだ。
▼世界観2. かつてサイバーパンクは難解だった
しかもである。
ムーブメント勃発の80年代のことは、正直に言わねばならない。
ギブスンの永久不滅的作品『ニューロマンサー』も『クローム襲撃』も、翻訳が出たのは80年代半ば過ぎ。
私が両作を読んだのは、80年代後半だ。
そんな時期に読んでも、何が書いてあるかイマイチわからん。
せいぜいファミコンとかパソコン通信しか知らない時代に、仮想現実世界とかハッカーとか、どんなに頑張っても想像力の限界がある。
唯一、ビジュアルイメージを補ってくれたのが、82年公開の映画『ブレードランナー』だ。(PKDの『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』を原案に、映画は内容を改変)
80年代、映画はビジュアルとしての表現方法をまだまだ模索していた時代。
映画を観ても、自分の記憶とパンフの情報が頼りという超アナログ環境。
早い話、SFの致命傷というやつである。
見たことないものが書かれているSFジャンルは、読者に高い壁が強いられる。
理解に繋がる情報を集めまくり読みまくり、基礎教養を高めるしかない。
ギブスンも然り。
それでも小説世界にのめり込んだのは、ストーリーの面白さとスピーディーな展開、クールでオシャレな文体表現。この魅力に尽きるのだ。
理解は中途半端だったけれど、カッコ良さはビシビシ伝わる。
例えば、こんな表現なんかに。
▼世界観3. いまだからこそ楽しめる理由
90年代になると『攻殻機動隊』や『マトリックス』など、次々とサイバーパンクを扱う映画や漫画が登場する。(『攻殻機動隊』は、士郎正宗原作の漫画がマスト)
おかげで知識やテクノロジーの概念さえも身近になり、サイバーパンク世界を理解するハードルがどんどん下がってきた。
しかも2000年以降は、インターネットが常時接続となり日常化する。商用利用されたのでさえ94年からだ。誰もがある程度のテクノロジーを理解する土壌が作られていく。
自然に、私たちのテクノロジー基礎教養は上がっていく。
だからこそ、いま、サイバーパンクは身近な娯楽になったと思う。
何の努力もなく楽しめる時代がやってきたから。
とは言え、読者や視聴者の好き嫌いが明白なジャンルではあるだろう。
例えば『マトリックス』の現実と仮想世界の違いや概念が、わかりづらく面倒くさい人たちには、向いていないかもしれない。
▼小説〜 短編で味わうサイバーパンク
ドラマのギブスン原作『The Peripheral』は2014年に発表されたが、残念ながら翻訳されていない。
まいってしまう、まったくもう。
原書はAmazonで買えるけれど、やっぱり辛い。しかもギブスンの楽しみの半分は、やたらめったらクールな翻訳。
サイバーパンクの世界観を味わうなら、旧作だって大丈夫だ。
むしろ、金字塔の旧作こそ読むべきだ。
やっぱり黒丸尚翻訳の『ニューロマンサー』がイチオシだけど、これは長編。
初読みの方なら、短編集『クローム襲撃』の方が読みやすい。
私は短編集『クローム襲撃』を再読して驚いた。当時は難解だった世界観が、映画のように面白く展開する。
基礎教養が上がった証拠だ。
収録話は、『記憶屋ジョニイ』から順番に読んでいけばいい。
あるいは、表題作の『クローム襲撃』を最初に読むのもオススメだ。
<最後に蛇足>
本書『クローム襲撃』は、スターリングの序文ですでに涙が出そう。
*サムネール写真 Image by Brian Penny from Pixabay