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「ぼくは記憶を抹殺できるだろうか」

■感想文『冷静と情熱のあいだ Blu』/著者・辻仁成さん


Rossoを読んだあとなので展開がわかっているから、本書の終盤は速くページをめくりたかった。順正のために。私がページを速くめくれば、順正に約束の日が早く訪れるから。

本書は、同名タイトルの男性視点の本だ。女性視点で書かれたRossoは江國香織さんが書いている。レビューではRossoを先に読むことをすすめる内容が多かったため、それにならいBluを後に読んだ。もしBluを先に読んでいたら、私の感想は違ったものになっていたのだろうか。

恥ずかしいが、遠距離恋愛をしていた当時を昨日のことのように思い出した。苦しくてそれが愛だと誤解し、愛だと思い込んでいた若い日々を。そして終盤は、もし本書を読み終えると自分がその当時の状況に戻ってしまうような気がして、冒頭と矛盾するようだが、読み終えるのが少しだけ怖いと思った。すれ違いに明確な理由があって結ばれなかった相手をついついネットで探してしまいそうになるほど、心が動いた小説だった。

特にBluにおいては、恋愛で別れを経験している人にすすめたい。

理由があって離れ離れにならざるを得なかった人などは、本書で再び、心がすり減った過去を思い出してしまうかもしれない。そうした経験のない人にとっては、物理的に離れる恋愛の難しさと、相手を想像する自分を止められない苦しさが、手に取るようにわかると思う。

ただし人へは、安易にすすめられない。

なぜなら相手がつらい別れを経験している場合、そしてその相手がすごく大切な人だった場合、本書は読み手をとても感傷的な気分にさせる危険性が高いからだ。間違っても、遠距離恋愛の果てに別れを経験したばかりの人は、
決して今すぐに本書を読んではいけない。そう忠告させてほしい。

映画を先に見て本書をバカにしていたが、そんな自分を恥じた。月並みな表現だが、この本は素晴らしいと思う。少なくとも、とても心が動いた一冊だ。


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髙橋さとう(ニュース記事を発信するオウンドメディアの編集長)
一日一つの投稿を続けます。それは、文章を書くという、コンテンツメイクの楽しさをnoteが思い出させてくれたから。ありがとう。ライフワークが手につかないくらいnoteのことを考えてしまうので、noteをライフワークにすべく、今後も続けます。読んでいただいて、ありがとうございました。

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