【レシピ】たかぎメシのビリヤニ研究日記 v.01_禁忌だらけの鶏ヤニ
前回のお話はこちらから
守破離、という言葉があります。
これは、何か新しいことを始めるときのステップ論を表しています。
まずは型通りやって基本を身につけ(守)、型をあえて壊し試行錯誤し(破)、それまでの型を超えた自分自身の方法を確立する(離)。
何事も基本を習得してから、その前提に疑問を持ち、新たな道を探るべし、という心構えが大事です。
ビリヤニスト、特に宅ビリ(自宅でビリヤニの意。©︎たかぎメシ)を極めんとする者の頭上にこの言葉は燦然と輝く。
ただでさえ日本語情報の乏しいジャンル。頼るべきお手本の光は、太陽系の向こうから届くかのごとく弱い瞬きにすぎません。
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今日はそんな健気な光を踏みにじった、ある愚かなビリヤニストの話をしたいと思います。
宅ビリの禁忌を犯しまくったビリヤニストの末路
序章:守への冒涜
自宅でビリヤニ、宅ビリをしよう!と思い立ってから数日。
私はiPhoneの小さな画面を真剣そうに覗き込んでいました。
映るのは有名シェフが教えるビリヤニの作り方特集。
色とりどりのスパイスが秘伝の配合で集められ、初見のカタカナ器具で順序よく調理されていく様に、私は脳汁を垂れ流しながら齧りつきました。
シェフはこう続けます。
「宮廷料理でもあるビリヤニ作りは確かに複雑です。ただしインド料理は掛け算。あなた好みのスパイス配合を見つけて、お好きな味を発見してくださいね」
人の良いシェフはひとつだけ、過ちを犯しました。ビリヤニファンを増やしたいと思うがあまり、「基本のレシピを身につけてから」という一言をつけなかったのです。
そしてその教えを一字一句忠実にこなさんとする冒険者、それが私です。
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禁忌①材料を確認しない
ビリヤニの材料は、日常的に目にしないものが多いです。
主題となるバスマティライス、数々のスパイスから構成されるマサラ(スパイスミックスの意)、マトン肉…
これからビリヤニを作る!という方には間違いなく新大久保のインド食料品店に行くことをおすすめします。
シェフの黄金のレシピをチラ見しただけの私による、愚かな読み間違えがこちらです。
バスマティライス:ジャスミンライスに変換
インディカ種で有名な品種の一つに「ジャスミンライス」がある。こちらは主にタイで作られているコメであり、バスマティライスとは主要な原産国が異なる。また、ジャスミンライスも、バスマティライスと同じく香り米の一種である。しかし、二つの香りは全く異なり、ジャスミンライスは花のようなフローラルな香りがして、バスマティライスはナッツのような香りがするといわれている。
マサラ:自宅にあるシナモン、フェンネル、クミンで全てのスパイスを代用
ギーもしくはバター:サラダ油で代用、しかもカロリーにびびって量を鬼ケチる
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肉はプリッと仕上がったけど…
唯一の救いは骨つきの鶏モモ肉を使ったことでしょうか。ビリヤニに限らず、私は肉を加熱する場合なるべく大きな骨つきのものを選びます。
沸騰した骨髄から肉肉しい脂が染み出し、低音8ビートのようなストレートな旨味を足してくれるからです。
獣感を減らしたいとき、軽く仕上げたい時は骨なしを選ぶこともあります。
禁忌②味見をしない
肉をスパイスに漬け込み生のまま炊き上げるカッチ式と異なり、先に肉を煮込んで味を確かめられるのはパッキ式の大きな利点の一つ。
初めてのビリヤニ、パッキ式で仕込んだ黄金色のそのグレービーを前に、私は全く味見をしませんでした。
おかしな話です、レシピに捉われすぎないと意気込んだくせに、コンロの前に立った瞬間手順書きを追うことに頭がいっぱいだったとは。
あの時少しでもiPadの画面ではなく、雄々しく香りたつチキングレービーに目をかけてやれていたら。スパイスで見事に彩られた外見だけでなく、味わいという中身にまで意識を向けられていたら。
不思議なことにビリヤニの失敗を振り返る時間は、別れたパートナーを思うように甘く切ないものです。
禁忌③バスマティライスを浸水させない
お馴染みの日本米でも同じく、炊飯前の浸水時間はどんなコメにも必要なようです。
日本米と比べ多少糖質率の低いバスマティライスでも同様に、夏場30分、冬場1時間程度の浸水時間が必要と言われています。
何度かバスマティライスを炊いてみると、面白いことに日本米よりもよく水を吸い、ぐんぐんと嵩が増すのが分かります。
そんな貴重な浸水時間を、ビギナービリヤニストの私は完全に忘れて湯取りの旅路に出しました。
結果としてバスマティは、ライスというより短いパスタのような、パキパキとした食感に仕上がりました。
数多あるビリヤニ調理法の中で最も水分量の少ないパッキ式が最も苦手とする組み合わせです。
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最終的な仕上がりは…ご想像にお任せします。
道を踏み外すから面白い
私の人生の指南書の一つに、12歳で禁忌を犯した兄弟のお話があります。
2名の幼子が、無邪気な好奇心から道を踏み外すシーンから始まるその物語は、その後多くの仲間、戦友、信条の異なる敵によって深みを増していきます。
私のビリヤニストーリーもそんな引き出しの多い物語になりますように。
その引き出しが、そのまま旨味の層となって華やかに香りたつように。
次回はこの反省を踏まえて、はじめてヨシ!と思えたビリヤニ作りを振り返ります。
かしこかしこ。