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わび寂びライカ EU

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わがカメラ事始めは、30年ほどまえのイタリアの旅。出発まぎわに「写真の撮り方入門」を手にした泥縄そのものであった。 そんな初心者が、プロ仕様のピントも露出も手動のニコンF3で撮っ…
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わび寂びライカ

わがカメラ事始めは、30年ほどまえのイタリアの旅 出発まぎわに「写真の撮り方入門」を手にした 泥縄そのものであった そんな初心者が プロ仕様のピントも露出も手動のニコンF3で撮って ピンボケだらけのネガの山を築いた アッシジの路地裏 あ、同じカメラを持っている! と お互い思わず駆けよった相手がドイツの女子学生であった ベテラン風情の彼女は プロ風にニコンを「ナイコン」と発音して ライカより良い「キャメラ」、と その後、イタリアの失敗写真から抜けだそうと F3のシャッ

クレオパトラ 鼻は高からず マリー・アントワネット 浪費夫人 革命に死す ヴィクトリア女王 マイホーム型もまた楽し モーツァルト夫人 天才に愛された悪妻 イサベラ 新大陸に賭けた名ギャンブラー エリザベス一世 家康なみの我慢と権謀 永井砲がさく裂 名のある女王を解剖 痛快愉快

世界最高の戦争写真家と呼ばれた ロバート・キャパ スペイン内戦  弾を受け「崩れ落ちる兵士」 この写真がキャパの出世作 第二次世界大戦  ノルマンディー上陸作戦 海に浸かりながら進軍する兵士ともども 狂ったようにシャッターを切った フィルムが海にぬれ カメラに装填できなかった

ダブリンで昼酒

創業1782年 江戸は天明の大飢饉のころで 240年あまりの歴史があるパブ・マリガンズを アイルランドはダブリンの街角で探しあてた このパブは ジェイムス・ジョイスの短編集 『ダブリン市民』に登場する 短編の主人公の一人は      ぐうたら事務員で飲んだくれ    しかも五人の子持ち    勤めをぬけ出し昼間からパブで    ビールをひっかける    ある夜 時計を質に入れ    はしご酒にひたり    マリガンズにたどりついて    仲間におごられおごり返し    

こんな美味いものがあるかと パリで感嘆! アップルパイを作ろうと 林檎をバターと砂糖で長く炒めすぎ 焦げるような匂い そこで焦げたリンゴの 上に タルトの生地をのせオーブンへ 焼けごろにひっくり返すと 見事なデザート パリの南でホテルを仕切るタタンの名前から タルトタタン

少年ランボーの詩に惹かれた 詩人ヴェルレーヌは新婚の妻を捨て 二人は倫敦、巴里をさまよい 互いに惹かれ 反発するも詩作 ランボー  『地獄の季節』を出版 詩を棄て砂漠の武器商人で 37歳を終えた ヴェルレーヌ   拳銃の暴発で収監  だが大詩人となり  52年を生きた

2000年 仏ボルドー  貴腐ワインのシャトーフィロ 貴族の主が 自らグラスをならべワインをふるまう 絵を指して妹の絵を描いたのは 藤田嗣治、と 地下の暗く冷たいセラー 古ぼけた木箱のなかに1890、1911年… びっくりな年代もの 家族の祝い事にコルクを抜く ああ!!

1995 プラハは塔が多く 「百塔の街」と呼ばれる ロマネスクやバロックの 建築が連なり 旧市街には 中世の風情がただよう 街の角々にビヤホール その数600 プラハは「泡の街」 『聖トマス修道院』 『牛小屋』 『金の虎』 店名も個性的 カフカを生んだ この街は奥深い

海の向こう隣りはニューヨーク  

横なぐりの雨風が荒れ狂う 帽子のうえにフードをかぶる パンツまでぬれはじめた ヨーロッパの西の端アイルランド本島の ゴールウエイから さらに西の孤島アラン 夫と5人の息子をつぎつぎ荒海にうばわれ 最後にのこった息子も風浪にのまれ 「みんなこの世を去ってしまった。 だから海はこれ以上、 私にどうすることも出来やしない……」 と年老いた母は十字を切った シングの戯曲『海へ騎りゆく人々』の 忘れがたい科白だ 石ころと岩だけの不毛の島は 海に生活の糧をもとめた 木組みに布をはり

運命の石

ダブリンの北西30キロにある小高いタラの丘 羊のフンをふまぬよう、そろそろ登って行く あたりはなだらかな牧草地で 羊の群れが草を食んでいる アイルランドに渡ったケルト族は 部族ごとに分かれ小国が争っていたが 王のなかの王ともいうべきタラの王をえらび その王のもとにゆるやかな連合をつくった タラの王は 宗教的な役割が色こくシンボル的存在であった 大陸からキリスト教が伝わり全土に広がるにつれ タラは影をうすめ 10世紀ごろ、タラの王座は消える が、この丘は アイリッシュ

神の声をきいた

アアー、アアァーアアアァー  厳かな声が 天から降りそそいでくる これはなんだ、神の声ではないか…… じつは僕の声が 高い円天井にこだましているのだった その間およそ8秒 赤茶けた荒地にオリーブの樹がひろがる丘を 幾度となく登ったり下ったり グラナダから車で60分のモンテフリオに着いた 白壁の家が 丘の斜面に連なる住民2000人だが スペインでもっとも美しい村といわれる 道ばたの八百屋から出てきた老人に誘われるまま 教会裏手の扉からドームへ通じる狭くて暗い すりへっ

ザルツブルグ散歩

ザルツブルクは、小雨模様で夏なのに肌寒い 「サウンド・オ ブ・ミュージック」で 『ドレミの歌』の舞台となったミラベル庭園を通りぬけ カラヤンの生家そばの橋をわたり 旧市街に入った 歩き疲れてカフェで、白ワインを3〜4杯かさねる ギャルソンおすすめのプレーンなオムレツは美味かった   ヨハン・シュトラウス の円舞曲「酒・女・歌」のごとく いい酒・いい食事、そのうえ、いい女といけば、旅は最高となる が、三番目はまあ難しい   クラシックが流れるカフェから ザルツブルク城を見あ

聖母被昇天

1995年  ヴェネツィア サンタ・マリア・フラーリ教会 この教会の祭壇をかざる「聖母被昇天」 ヴェネツィア派絵画の 巨匠ティツィアーノの最高傑作だ 聖母マリアの眼差しは天国に向けられ 見る者の視線をも方向づける。 金色の光のなかで 神は身をかたむけ天に召される マリアを待ちうけている 下では空になった墓から マリアを見あげて パウロ、ヨハネらの使徒が おどろき動揺している バロック的でダイナミックな構図 全体をつつむ暖かい色彩 神々しい金色のかがやき 赤い衣をまと

コペンハーゲンの「解放区」

足を踏み入れたとたん、息をのみ立ちすくんだ スプレーで描いた前 衛的な絵や落書きで 壁一面がおおわれた廃屋群のど真中 ヒッピー風や 子連れの黒人親子もそこかしこ 人々の表情は、わりと穏やかで知的な 顔も見えるが ニヒルな雰囲気があたりに漂っている コペンハーゲンの町外れ、運河に囲まれた一角に クリスチャニアと呼 ばれる「解放区」がある 一九七〇年代、軍隊の兵舎や倉庫だった空き家を 浮浪者、元犯罪者、ヒッピーの若者、ヨーロッパ流れ者が いつ の間にか無断占拠してしまった