わび寂びライカ
わがカメラ事始めは、30年ほどまえのイタリアの旅
出発まぎわに「写真の撮り方入門」を手にした
泥縄そのものであった
そんな初心者が
プロ仕様のピントも露出も手動のニコンF3で撮って
ピンボケだらけのネガの山を築いた
アッシジの路地裏
あ、同じカメラを持っている! と
お互い思わず駆けよった相手がドイツの女子学生であった
ベテラン風情の彼女は
プロ風にニコンを「ナイコン」と発音して
ライカより良い「キャメラ」、と
その後、イタリアの失敗写真から抜けだそうと
F3のシャッターをやたらと切った
風景、花、猫、鳥、路地、人物となんでもござれ
ただし婦人科、ヌードは撮らずじまい
とどのつまり
肌があうのは白黒フィルムの街角スナップと覚った
友人の写真家はスナップならライカと一押し
ライカM6、50mmレンズ、白黒フィルムを相棒に
ニューヨーク、ヨーロッパ、日本の裏町をひたすらさ迷い歩く
小型、軽量なM6で裏通りを動きまわり
白黒はゴミ箱を撮っても絵になると勝手に思いこみ
裏道には生活感があふれていると肌で感じた
2台目のライカはデジタルとなった
フィルムカメラは今や絶滅危惧種
白黒フィルムもどんどん消え、現像ラボも東京にあるだけ
現像にだして手もとに戻ってくるのは1ヶ月後
デジカメは瞬時に画像を見ることができる
それやこれや、わが輩もフィルムとおさばらして
ライカモノクロームを持ち歩いている
このライカモノクロームは、文字どおり白黒しか撮れない
目に見える世界はカラーだから
目に見えない世界を撮っているわけだ
ここにおもしろさがあり、創造的なアートの世界が広がる
名作といわれる写真の大半は白黒だ
20世紀写真の巨匠アンリ・カルティエ・ブレッソンは
ライカと50㎜レンズを愛用、白黒一本だった
「絵画は瞑想、写真は短剣の一刺し」
スナップの「決定的瞬間の写真家」といわれた
ブレッソンの言葉だ
お茶に「わび寂び」という言葉がある
千利休は四畳半の茶室を一畳半にして
余分なものをそぎ落とし、お茶の世界を高めた
ライカモノクロームも色彩をそぎ落した
白黒だけの「わび寂びライカ」
禁欲的だ
ダメ写真もアートになるかもと
シャッターを切っている