お父さんとお母さん「掌の童話」 1
このお話を書いたのは、コロナパンデミックの前で、面会が自由にできていた頃です。
私は春休みに、お父さんとお母さんの三人で老人保健施設というところに行ってきた。
前の日にお父さんから「明日ドライブだけど、遊びに行くんじゃたいからね」って、言われた。
当日は朝早く出発。
天気がよく、気持ちのいい日だった。
お父さんが自動車を運転して、お母さんが助手席。
私は後ろの席で、お父さんのスマホを借りて、音楽を聴きながら外の景色を眺めていた。
お母さんが、
「お母様はどうしていらっしゃるでしょうね」と、訊くと、
「そうだね。しばらく会いに行っていないからね。でも、なにも連絡はないから、かわったことはないんだろう」と、お父さんが答えた。
普通の道から高速道路に。
いつもキャンプやスキーに連れて行ってくれる道だけど、途中から私の知らない道になった。
お父さんはいつも面白い話をして、私やお母さんを笑わせてくれる。
だけど今日はいつもより慎重に運転しているみたいだった。
私はつい、
「まだぁ、まだぁ」って、言ってしまった。
「めぐみの『まだぁ、まだぁ』が始まったか。今日は病気やけがをして身体が不自由になったり、認知症になったりして、介護やリハビリが必要になったお年寄りの方が入所する老人保健施設っていうところに行くからね。少し時間がかかるけれど、がまん、がまん」
お父さんは笑って言った。
―なんでわざわざそんなところに行かなきゃならないんだろう? 私の家にもおじいちゃんとおばあちゃんがいる。おばあちゃんがよく物忘れをするようになったり、同じことを繰り返し訊くようになって、お医者さんから認知症って診断されて、介護保険っていうのを利用して、デイサービスっていうところに通っているから、私は認知症って病気も知っている―
私は知らない間に眠ってしまった。
<続く>