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あなたが欲しいテイクはお金か、人の信頼か/映画「本日公休」を観て。

台中の下町で40年にわたり理髪店を営む店主のアールイ(ルー・シャオフェン)。今日も、いつものように店に立ち、常連客を相手にハサミの音を響かせている。(中略)時が止まったように見える店も、泣いたり笑ったり忙しい。

3人の子どもたちは、すでにそれぞれの道を歩んでいるが、アールイの心配は尽きない。台北でスタイリストをする長女シン(アニー・チェン)、街のヘアサロンで美容師をする次女リン(ファン・ジーヨウ)、一攫千金を夢見て定職に就かぬままの長男ナン(シー・ミンシュアイ)。皆、実家の店にはなかなか顔を見せず、頼りになるのは、近くで自動車修理店を営む次女の別れた夫チュアン(フー・モンボー)だけ。

そんなある日、アールイは店に「本日公休」の札を掲げ、愛用の理容道具を携えて、古びた愛車で出発する。

映画「本日公休」公式サイト

いい映画でした。台湾の映画で理容師の女性が主人公ですが、役所広司さん主演の「PERFECT DAYS」に印象が似ているなあと感じました。「PERFECT DAYS」も好きな作品です。

どのあたりが似ているか。以下の部分かな?

  1. 仕事への誇りを持ち、繰り返される日々への愛着を持っている

  2. 家族の物語ではあるが、一人の個としての生き方も描かれる

  3. 老いていくこと、つまり、同じ日々が続くわけではないことが意識される

  4. 周囲の人々と主人公が日々を共有している

  5. お金について、価値観の葛藤が描かれている

  6. 馴染みのある情景、人情

逆に大きく違うのが、「本日公休」の主人公は、大らかで強くてよく喋るおばちゃんといった風情で、常連客とワイワイ、グイグイやっているのに対して、「PERFECT DAYS」の主人公は、余計なことは喋らず、一人で過ごすことをあえて選び大切にしているところ。

主人公のアールイは、仕事を誠実に行うことを大切にして、40年間、理髪店を営んできました。見習いの頃、恩師からそう教わったからです。アールイはその教えを守り、常連さんの心をつかんで、地域になくてはならない居場所を作ったのです。すごい!

でも現代っ子の子供たちは、それとはまた別の考え方を持って生きています。

「価値」はお金に変えるべきだ、という考え方です。みんなが忙しい時代、「時間」も価値のひとつだし、「太陽光」だって価値のひとつです。だから、子供たちは、「えー、お金を貰わなかったの〜」などと母親によく苦言をします。今どきじゃないよ、と。

でも、お母ちゃんからすれば、まだまだ彼らの方が、危なかしい。彼らの価値観を認めながらも、それでもやっぱり心配してしまうのてす。

この映画は家族ものではありますが、「give&take」のテイクをどの形でもらうのか。それが、もう一つのテーマです。

もちろん日々の暮らしでお金がないと食べていけませんので、主人公・アールイは理髪店に来てくれるように常連さんに営業もしますし、代金も貰います。でも、そこにはお金だけではなく人生のやり取りも行われています。だから、時にテイクが、お金ではない形で、ヒョイと、あるいは、日常の顔をして主人公を助けます。

終盤で、アールイがお金を使用する場面が出てきます。大きなお金ではなさそうですが、アールイにとってのお金の持つ意味がそこで伝わってきます。

「お金」も「人の信頼」もどちらも大切なのは当たり前ですが、私たちに手渡される(テイクされる)のは、日頃より優先的に大切にしている方なのだろう、と思わされた映画でした。


今日も読んでくださり、ありがとうございました。

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