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さすがだ、ドライサー!最近の話かと錯覚しました。99年前に描かれた青年の夢と欲と破滅の物語。格差、労働、ジェンダー、宗教、裁判、メディア、全て揃ってます。/「アメリカの悲劇(上)」村山淳彦・新訳


セオドア・ドライサーの代表作といえば、「シスター・キャリー」。こちらの本の感想は以前、noteで2回に分けて書いた。これらの記事、私のnote史上、ビュー数のトップをいっている。「シスター・キャリー」でGoogle検索すると、Amazon、Wikipediaの次に表示される。(今だと3番と5番目)。それだけ、興味のあるテーマなのかなと思っている。

そうなのだ。ドライサーが描くテーマはエンタメ的で且つ普遍的だ。今回の「アメリカの悲劇」は、1925年に発表された。つまり、約100年前に書かれた小説なのだが、これ今でも普通に身の回りで起こっていることだよね、といった感じで、逆に、アメリカ選挙でも話題に上がる人工妊娠中絶の問題や、日本でも深刻になっている若者の労働や貧困の問題など、現在においても人ごとではないテーマが描かれている。そして、それらがリアリズム的に物語られていくので、ニュースで大枠だけ見聞きするより、ずっと分かりやすいのだ。

このnote記事を書くにあたり、「アメリカの悲劇」(旧訳)の感想ブログを少しだけ見てみた。そこには、「今時ではない」、「主人公が魅力的ではない」、「短絡的」など書いてあった。いやいや、そういう人に聞いてみたい。本当にみんながみんな、将来を考えて恋愛をしたり、着実にキャリアを積んだり、憧れや野心をコントロールしたり出来るだろうか?

確かに、主人公の青年クライドは、自己中心的で欲望に流される、身勝手な人間だけど、誰にでもこの要素はあるような気がするのだ。可愛い子と付き合いたい、憧れの世界の人たちと親しくなってあわよくばそこの住人になりたい、貧しい生活や逃げ続ける人生には戻りたくない。クライドは超えてはいけない一線を超えてしまう様なのだが(下巻で)、上巻を読んでいる今は、あり得なくはないなと思っている。

これから下巻を読むので、まだなんとも言えないが、人間の欲望のドロドロとそれを非難する側のドロドロと、それを覗き見的に楽しんでいるドロドロとが、描かれているのではないのかなあと思う。

これから、下巻を読む。楽しみだ。この本は長編なので、読者も狭められてしまうのかもしれない。でも、この細かい心情の描写や物語のうねりみたいなものは、長編だからだ出来るのだと思うんです。長いドラマ番組のように、その長さを楽しんで欲しいなあ!


▪️簡単なあらすじ

両親が宗教にのめり込むがゆえ、貧困生活を余儀なくされる主人公・クライド。なんとかそこから抜け出そうとホテルのベルボーイとして働き始める。しかし次第に同僚や女の子たちと遊ぶことに夢中になり、華やかな都市の中で成り上がることを夢見るようになる。若い青年らしい欲望を持ちながら、転落とも紙一重の中でもがいていく。アメリカの都市で暮らす人々の光と闇が描かれる。


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