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マルクスとドラッカーとダニエル・ピンクと橋本治 / マルクス『資本論』覚書き part 5

結局、マルクスの『資本論』を読んでいて感じる違和感とは、彼が提唱する労働価値説に起因するように思われる。労働者は労働力を再生産するための賃金しかもらえない、しかし実際にはその賃金の分を超えて労働することを強いられる、その差分が剰余価値として資本家に搾取される、というこのロジック。確かにほとんどの労働が単純な作業の連続であり、また資本家が労働者をもはや人間として見ることなく、骨の髄までその労働力を搾り取ってやろうという魂胆に満ちていた時代には有効な理論だったのかもしれない。しかし例えばドラッカーが言うように、ビジネスの発展のために知識労働者が求められるこの時代、生産物の価値を労働時間のみで計ることには無理がある。ドラッカーの言葉を借りるならば、すべてのビジネスパーソンが「エグゼクティブ」であることが必然となるのが現代、そんな時代において、仕事の醍醐味とは自らの意思決定および行動と、それらが社会に与える現実的なインパクトを一望のもとに眺められるところにあるのかもしれない。

 今日の組織では、自らの知識あるいは地位のゆえに、組織の活動や業績に実質的な貢献をなすべき知識労働者は、すべてエグゼクティブである。組織の活動や業績とは、企業の場合、新製品を出すことであり、市場で大きなシェアを獲得することである。病院の場合は、患者に優れた医療サービスを提供することである。
 組織のそのような能力に実質的な影響を及ぼすために、知識労働者は意思決定をしなければならない。命令に従って行動すればよいというわけにはいかない。自らの貢献について責任を負わなければならない。自らが責任を負うものについては、他の誰よりも適切に意思決定をしなければならない。せっかくの意思決定が無視されるかもしれない。やがて左遷されたり、解雇されたりするかもしれない。だがその仕事をしているかぎり、仕事の目標や基準や貢献は自らの手の中にある。したがって、ものごとをなすべき者はみなエグゼクティブである。現代社会では、すべての者がエグゼクティブである。

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私自身のビジネスリーダーとしてのささやかな経験に照らして言うのであれば、知識労働をベースとした現場において確実に成果を生み出し続けるためにも、従業員には気分良くいてもらう必要がある。そしてそのために、自分自身が機嫌が良くいられる環境を整えることが最優先事項のひとつとなる。売り上げやら昨対比やらに追いまくられる日々の中で、常にトップが機嫌良く希望を演じられるか、この辺りの空気感によってチームの成果はずいぶんと変わる。ダニエル・ピンクが言うように、創造的な活動において生産性を決めるキーワードは内的モチベーション(intrinsic motivaion)である。逆に、金銭的な報酬といった外的モチベーションが与えられることによってその生産性が低下することすらある。ピンクによれば、知的な生産性を上げるためのポイントは三つある。内的モチベーション、自主性、そしてパーパス(目的)。つまり納得できる目的があり、責任を伴う意思決定の自由が担保され、そしてそもそもの部分でその仕事をやっていて楽しいということ。換言すればそのような環境を整えるということがリーダーのミッションとなる。

いまから十年以上前のことになるが、学生の引率として同行したスタンフォード大学のリーダーシッププログラムのテーマも、内的モチベーションだった。最終日、スタンフォードの教授がホワイトボードにプログラム全体の総括として書いた「FUN」という単語、あの光景はいまも鮮明に残っている。

たしか橋本治が何かのエッセイで書いていたと思うが、おじさんというのはとにかく機嫌が悪い。その意味で、ビジネスのリーダーというのはおじさんであってはいけない。

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