「朝顔に 釣瓶取られて もらい水」の作者とは?【多田修の落語寺・加賀の千代】
甚兵衛さんは妻から、隠居さんにお金を借りてくるよう言われます。甚兵衛さんは「何度も借金して、なかなか返せないでいるのに……」と不安な様子。
そこで妻は「あんたは隠居さんにかわいがられているから、貸してもらえる」と言い、加賀の千代の俳句「朝顔に釣瓶取られてもらい水」を教え、「朝顔をかわいがる人もいるんだから、大丈夫」と、夫を送り出します。
甚兵衛さんが、妻が物知りなことに感心しながら隠居さんの家に行くと、あっさり貸してもらえました。甚兵衛さんが「簡単に朝顔になった。朝顔に釣瓶取られてもらい水」とつぶやくと隠居さん「加賀の千代だな」甚兵衛さん「いや、かかぁの知恵」。
「加賀の千代」で知られる千代女(1703~1775)は俳人として有名ですが、浄土真宗の信仰に篤い人でもありました。1761(宝暦11)年、親鸞聖人五百回大遠忌参拝のために加賀国(石川県)から京都を訪れています。その翌年、本願寺第八代・蓮如上人ゆかりの地である吉崎(福井県)を参詣して紀行文「吉崎詣」を著しました。朝顔の俳句は、朝顔も人も命には変わりがないという姿勢の表れです。なお、千代女は後に「朝顔に」を「朝顔や」と改めています。
この落語で隠居さんは、甚兵衛さんが頼りないことをわかっていて、それでいて会うのを喜んでいます。これはある意味、仏さまと私たちの関係に似ています。仏さまは、私たちがいろいろと難を抱えていることを承知の上で、否定的にならずに受け入れてくださいます。
多田修(ただ・おさむ)
1972年、東京生まれ。慶應義塾大学法学部卒業、龍谷大学大学院博士課程仏教学専攻単位取得。現在、浄土真宗本願寺派真光寺住職、東京仏教学院講師。大学時代に落語研究会に所属。