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自殺直前の“嫌われ者”が見つけた、生きる理由 僧侶が読み解く映画「オットーという男」

「仏教と関わりがある映画」や「深読みすれば仏教的な映画」などを〝仏教シネマ〟と称して取り上げていくコラムです。気軽にお読みください。

第94回

「オットーという男」

マーク・フォースター監督
2022年アメリカ作品

 トム・ハンクス主演作品にはずれなし。寒い夜でも気持ちが温かくなることをお約束します。

 ピッツバーグ郊外で一人暮らしをするオットー。仕事を定年退職して、日々の日課は町内を見回って、決まり通りにゴミが分別されているか、無断駐車はないかを点検すること。

 几帳面で規則に厳格で、人とも猫とも心を通わせようとしないオットーを町の住民は煙たがっています。オットーのそんな性格は、最愛の妻ソーニャを病気で亡くしてから顕著になりました。オットーは、生きることに意味も喜びも感じられず、何回も自ら死のうとさえするのですが、なかなかかないません。

 そんなオットーの向かいの家に越してきたマリソル一家は、無遠慮にオットーへ関わり出します。始めは拒絶していたオットーでしたが、マリソルの娘たちの世話をさせられたりしているうちに、その心は次第にとけていくのでした。

 深い孤独の中に自ら閉じこもり、自死を考えていたオットーの気持ちを変えさせたのは、一つには自らの持病の悪化でした。

 自ら選ばずとも死が遠からぬことを実感した時にオットーは、「もう少し生きていたらいいよ」との声を聞きます。それは亡きソーニャの声でした。オットーを変えたのは、さまざまな人との出会いでもありました。そのうちのひとりは、教師だったソーニャの生徒でした。ソーニャは死して後もオットーに大きなプレゼントをしたのです。

 人は人を生かしうること。人のいのちは死で終わるものではないこと。人は死してなお人を支え、人を新たに繋げうることをうなずかせる、ご縁といのちの物語。

 
松本智量(まつもとちりょう)

1960年、東京生まれ。龍谷大学文学部卒業。浄土真宗本願寺派延立寺住職、本願寺派布教使。
自死・自殺に向き合う僧侶の会事務局長。認定NPO法人アーユス仏教国際協力ネットワーク理事長。