ほおずき市に行く前に知っておきたい落語の演題【多田修の落語寺・船徳】
徳さんはある店の若旦那ですが、わけがあって家を追い出されて、大川(隅田川)沿いにあるなじみの船宿に居候しています。徳さんは、ただの居候では申し訳ないと思い、自分も船頭になりたいと申し出ます。徳さんには力仕事の経験がないので親方は反対しますが、船頭たちが賛成したので、船を習います。しかし、なかなか船を任せてもらえません。
ある夏の日、船宿になじみの客がやってきます。四万六千日のお参りに行くところで、歩くより船の方が涼しいから、船を出してもらいたいとのこと。他の船頭が出払っているので、徳さんが張り切って船を出しますが、腕ははたして……(くわしくは書きませんが、別の意味で涼しくなりそうな船旅です)。
「四万六千日」とは、浅草寺の縁日です(7月9日・10日)。1回のお参りで4万6千日分の功徳があるとされます。4万6千日は約126年にあたりますから、1日で一生分以上の功徳を得ようと、江戸時代から参詣が盛んになりました。これにあわせて、浅草でほおずき市が開かれます。
私たちは新しいことを始めるとき、自分がそれをかっこよくこなしている様子を想像しがちです。この落語の徳さんもそうでした。しかし、気合いや根性があっても、それだけではどうにもならないことがあります。かっこいい姿の陰には、それを実現できる能力を身につけるまでの努力や苦労が隠れているものです。
多田修(ただ・おさむ)
1972年、東京生まれ。慶應義塾大学法学部卒業、龍谷大学大学院博士課程仏教学専攻単位取得。現在、浄土真宗本願寺派真光寺住職、東京仏教学院講師。大学時代に落語研究会に所属。