見出し画像

不安な時代、どう生きたらいい? 僧侶に聞いてみた【仏教で答える悩み相談27】

人の数だけ、悩みは尽きぬもの。皆さまから寄せられた悩みに、お坊さんや仏教関係者たちが答えます。

今月のお悩み
Q 最近、増税や物価高など、暗いニュースが多くて気が滅入ります。こんな時代でも、前向きに生きられるような、仏教の逸話を教えてください。
(40代・男性)

A1 牛を売る者あり


おっと、同世代。よく分かります。私たち、学校で日本は世界第2位の経済大国と習いましたよね。これが幻だったとは。気が滅入るのも無理ありません。

さて、逸話ですね。兼好法師の『徒然草』にある一つを紹介します。

「牛の売買契約をしたが、引き渡し前に牛は死んでしまった。『売主は損をし、買主は得をした』という人がいたが、ある人は『売主は損をしたが大きな利益もあった。牛の突然の死によって、生きているものには必ず死が迫っていることを知らされた』だから一日の命が万金より重いのだ」(第九十三段)というものです。

経済的な出来事が無常の認識へ展開していると解釈される話です。この背景には、世の中のあらゆることが、生き方といかに関わっていくか、という兼好法師のテーマがあったのでしょう。そう、無駄なことなどないのだと思うんですよね。(編集委員・藤本真教) 

A2 立ち止まることも大切


 失われた30年と言われて長期低迷する日本に住む、多くの人が不安を感じています。

「迷う者は道を問わず」。

これは中国の思想家・荀子の言葉ですが、念仏者であった西元宗助さんも大切にされました。

ある日、西元さんが徴兵され配属された台湾で隊列をくみ、熱帯植物園へ向かいます。しかし、いくら歩いても着きません。不安に思った兵隊がたばこ屋のおばさんに道を尋ね、無事着いたことを随筆でお書きになっています。

私はあなたが現状に不安を感じ、暗い気持ちになったことには意味があると思います。人生も一度立ち止まり道を尋ねることが必要です。お釈迦さまの教えの根幹には「一切皆苦」という気づきがあります。

苦悩とは私の思いと現実とのギャップから生じます。思いに状況を近づける努力は必要ですが、どうしても変えられない現実には一度立ち止まり柔軟に対応することが大切なのだと思います。
(編集委員・酒井淳昭)

A3 太陽や月は浄いか、汚いか


 ある時、お釈迦さまが「いま私たちの生きているこの世界こそが仏の国だ」とおっしゃられます。

しかし、舎利弗というお弟子は、「そうはいっても、この世界は醜いものや汚いもので満ちあふれているではないか」と考えました。

すると、その様子を察したお釈迦さまは、「太陽や月は浄いのでしょうか。それとも汚いのでしょうか。それを汚いものとして観てしまうのは、それを映すあなたの心の鏡が曇っているからではないでしょうか」とおっしゃいます。

私たちが暗いニュースを聞いた時、それを真摯に受け止めていくことは大切なことです。ですが、単なる出来事を、私が「暗い」と認識しているだけなのかもしれない、といった価値観も心においておくと、少し気が楽になるのではないでしょうか。
(築地本願寺コンタクトセンタ―担当・橘 俊了)
 
お悩み募集中!
同コーナー上でお坊さんに聞いてみたい相談がある方は、年代、性別を併記の上、築地本願寺新報社「ちょっと、聞いてよ」係(〒104–8435東京都中央区築地3–15–1)まで、お悩みをお送りください。


お悩み募集中!
同コーナー上でお坊さんに聞いてみたい相談がある方は、年代、性別を併記の上、築地本願寺新報社「ちょっと、聞いてよ」係(〒104–8435東京都中央区築地3–15–1)まで、お悩みをお送りください。

※本記事は『築地本願寺新報』掲載の記事を転載したものです。本誌やバックナンバーをご覧になりたい方はこちらからどうぞ。

この記事が参加している募集