岩村忍「文明の十字路=中央アジアの歴史」
現代の複雑な国際関係を読み解くには、それぞれの国の歴史と地理・気候を知っておくのは基本中の基本なのではないかと思う。学生のときにサボっていたせいで、歴史・地理・政治にまったく不明な私は、少しでも常識程度は身につけなければ、と、今年に入ってから入門書を読み始めている。
2021年の後半は、中東とイスラムにも少し触れておこう、と、末近浩太著「中東政治入門」や井筒 俊彦著の「イスラーム文化・その根底にあるもの」を読んだ。そして最近の米軍の撤退に伴うアフガニスタン情勢のニュース(*3)を見聞きするうち、中央アジアの歴史を振り返ってみよう(*1)、と本書を手に取った。
遊牧民族の名前や、盆地・高原・山脈や川、そして古代の都市や国の名前などを調べて確認しながらだし、なかなか「一気に読了」とはいかず、読み始めて2週間程度になるが、ようやく 35% 程度、まだ紀元前3世紀から紀元後3世紀の間を行ったり来たりしているところだ。今、私がいるのは、アフガニスタンのあたりがバクトリア王国から大月氏、そしてクシャーナ朝のあたり、イランのパルチア(安息)王国、中国は前漢・後漢、そんな時代だ。
ヒンドゥークシュ山脈を背骨のように持つアフガニスタンは、今から2500年前よりもさかのぼる古代の時代から、北方の遊牧民とオアシス都市国家、東は中国、南はインド、西はペルシャ・バビロニア、さらにはギリシャ・ローマといった、文明圏の衝突する地域だということがよくわかる。
ところで、私は、歴史の本を読むとき、35年以上前、高校のころに使った教科書と教材の、山川出版の「詳説世界史」(改訂版:1985年3月5日発行(*2))と、帝国書院の「総合・新世界史図説」(三訂版:1983年4月1日発行(*2))を手元に置いている。
「図説」をぼんやり眺めているだけでも面白い。紀元前400年も前から紀元前30年くらいまでのヘレニズム世界の興亡、紀元前3世紀から紀元7世紀くらいまでのイランの諸王朝や、中国の王朝:秦・漢・南北朝・隋・唐、それに、スキタイ、匈奴、月氏、といった遊牧民族、などなど、年表と地図とが全体像をつかむうえで、とても参考になる。
これと、ネットで検索すれば必要な情報と知識にはすぐにアクセスできる。地形や風景だって、現代の街の様子だって居ながらにしてわかる。今の若者は幸せだ。私達のころと比較できないほど、安く楽に勉強ができる。
社会人になってからでも、年とっても、勉強なんていつでもできる、と思う人もいるかもしれない。変化の激しい今、勉強したって将来役に立つかわからない、だから、必要になったときに必要なことだけを勉強するのが、賢く効率のよい勉強の仕方だ、と思うかもしれない。
しかし、先のことがわからないこそ、知識や思考力、そして学習のしかたをしっかりと身につけていくことが、かえって大事なのではないか、と思う。無駄かもしれないことも含めて今していることが、将来の脳を形成していく。いつだって今の自分で勝負するしかないし、今の自分は生まれてから現在までの過去によって創られてくるのだ。
そして、今の世界は過去から断絶した現代なのではなく、連綿と続く人類の歴史によって形成された世界なのだ。冷戦後の世界を生きている、それどころか、二度の大戦後の世界を生きている、いや、西欧列強の植民地政策の矛盾が、とも言えるし、現代のイスラーム文化がコーランの自己展開だというならば(井筒俊彦「イスラーム文化・その根底にあるもの」)紀元600年ごろ、さらに言えばパレスチナの問題は、ユダヤ教の起源にまでさかのぼるとも言える。
学生のときにサボって何もしなかった私は、今更に思う、もっともっと勉強しとけばよかった、と。あのときは親が必死に稼いだお金で勉強ができたのだ。
シルクロード・文明の十字路。19世紀後半のイギリスとロシアのパワーゲーム、そしてソ連と米国の冷戦を経て、米国に中国とロシア、大国の安全保障の思惑と周辺各国の権益の衝突地点となった現代。興味はつきない。
世界中の紛争が早く解決しますように。
■注記
(*1)現在の紛争に直接に結び付く、アフガニスタンの近代の歴史としては、JICA(独立行政法人 国際協力機構)の次のサイトが詳しくコンパクトにまとまっていて、とても参考になる。
[JICA アフガニスタン/歴史] グレートゲームからカルザイ政権まで
近代国家の範囲を定める国境、もとをたどると19世紀後半のイギリスの植民地政策とロシアとの摩擦から来ることを知ることができる。民族・部族間の関係、3度のアフガン戦争、米ソの冷戦、イランのイスラーム革命、冷戦後のパワーの空白、その後の経緯もひとつひとつが現在につながっている。
このことも、末近浩太「中東政治入門」を読んでおくと、理解しやすいと思った。
(*2)
1983年度のころだったか、高校2年の世界史の授業は、城戸先生が自ら作った文字がぎっしりのプリントを使った大学なみのハードな授業だった。毎時間数十枚配られた記憶がある。私の勉強机の下にどんどん積みあがっていた。・・・枚数はちょっと大げさかもしれない。そういえば、この「詳説世界史」は1985年3月発行だから、私がこの本を買ったのは高校卒業直後のはずだと気が付いた。浪人したときに自分で買ったのだろうか。文部省検定済み教科書なので、てっきり高校で使ったように思うけれども。
(*3)
アフガニスタン関連のニュースはあまりに流通しているし、FacebookにもTwitterにも大量に流れ込んでくるので、キリもないし、ここで共有すべきものを選ぶのも難しいが、数本。
[2021/8/26 Diamond OnLine] タリバン「最速の無血入城」は米軍植民地統治の当然の帰結
[2021/8/19 Gendai Ismedia] ワルの元外交官が読み解く「タリバンのアフガニスタン」案外な今後
[2021/9/4 ALJAZEERA] Women march in Kabul to demand role in Taliban government
[2021/9/4 ALJAZEERA] Afghanistan: Mullah Baradar promises ‘inclusive’ government
たくさんの人がシェアしていた、中村哲医師のインタビュー記事はこちら。
[2019/12/4 Nikkei Business] 故・中村哲医師が語ったアフガン「恐怖政治は虚、真の支援を」
ただ、この記事は今から20年前、2001年の記事の再録なので注意が必要だ。タリバン自身が「われわれは20年前とは違う」と会見でも発言していたところから考えると、タリバン自身も、20年前の自分たちにいろいろ問題があったと認識しているからだ。
幸いにして鉱物資源に恵まれているということを聞く。また、中村医師が志したように灌漑をうまくすれば、農産物にも恵まれるだろうだとも言う。経済を発展させようと思えば、東西への陸路とともに、海に出る道を確保することが重要だろう。中国とパキスタンとの関係をどう築くか、というところは鍵になるだろうし、そのように考えると、タリバンから一帯一路への拡大を要望するというのは、なるほど、と理解できる。
[2021/9/4 読売] タリバン、「一帯一路」のアフガン拡大要望…中国・パキスタン経済回廊
[2021/9/2 ALJAZEERA] Afghanistan: Taliban to rely on Chinese funds, spokesperson says
国内のいろいろな部族を抑えて統治できるか、タリバンの中の強硬派が混乱させないか、また、タリバンを支持するという他のイスラム過激派の動きも問題になるだろう。さらに、それに乗じてアフガニスタン内部の分断・分裂を狙う様々な工作もあるだろう。いかに国際社会を味方につけるかが鍵になる、ということを歴史から学んでいることだろうことと思うが、問題が山積みだ。
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