あの日、言えなかった「ごめんなさい」を。
「だって、トラウマになってるんだもん!」
母が言った言葉に、
またそれか! とうんざりした。
もう、10年近く前のことなのに。
私は、永遠に許されず、死ぬまで責められ続けるのか。
もう、嫌になって言った。
「私、一生言われ続けるんだね。許されなくて、私もトラウマになればいいんだね!」
すると、母が(ずっと言いたかった事を、言ってやる!)というような顔で叫んだ。
「だって……まだ、
あんたに、ちゃんと謝ってもらってない!」
それは、10年近く前。
祖母が老人ホームに移った時、一人暮らしをしていた祖母の家にあった50年分の荷物をどうするか、という話になった。
うちに運んだものもあるが、当然全てのモノは入りきらず、半年かけて捨てたり、売ったりした。
一人っ子の母にとって、その家が故郷であり、思い出の全てだったのかもしれない。
【家族のモノを勝手に売る】行為は、
断捨離の最大のタブーになるのだが、私は自分の家がゴミ屋敷のようになるのは嫌だし、捨てるより良いだろう、使ってないのだからと売ってしまった。
それが、結果として母の不信感を生み、何も捨てたくない、触らないでほしいという感情を強めてしまった。
あの時、ちゃんと向き合って、
「ごめんなさい」と言えなかった。
それは、家族だから素直になれないのもあるが、喜んでほしくて頑張っているのに!認めて貰えない。むしろ、すごく怒られて否定された!と、感じてしまったからだ。
今日。
母が「謝って!」と言った時、
今なら謝れるかもしれないと思った。
体を起こして、母の方を向き、
「ごめんなさい」と言った。
母は、「なんで捨てたの?何が悪かったか言ってみて」と言うので、当時の事を思い出して伝えた。
母は少し泣きそうな顔で、
「私はね、小学生の時、友達に貴重なハンカチを盗まれて、悲しかった。お母さんにも、夫にも大事なもの勝手に捨てられて、あんたにも!」
「だから、謝って!」と、もう一度言った。
小学生の話が出た時、そんなに遡る?と思ったが、母の中で、全部出し切ろうとしているんだと思った。
その上で、もう、許そうとしているんだと感じた。
だから、
もう一度、「ごめんなさい」と言う事ができた。
母は、握手の手を伸ばし、「これからは、言わないようにする。少しずつ捨てるのもやってみる」と言った。
大人でも、タイミングがある。
時間が経たないと、
言えない言葉がある。
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