君が僕から溢れた
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昨日の夜。深夜。なぜか泣いてしまった。
多分君のことを思って。
今までの僕の辛かった人生や日々の生活のようなものを思って泣いたわけではない。そういうのでは(そういえば今思うと)泣いたことがないな。
君のことを思って泣いたのだろうか。たぶん泣いた時、君のことが頭の中にあったと思う、いや、君しかいなかった。正確には君のことが好きすぎるという感情、そしてその感情が僕が抱えることのできる容量を超えてしまったのだと思う。
その時、君の歌、君の歌声を聴いていた、そして本人が歌っている方も聴いていた。
そしたら、なぜか、体の奥の方から、心の奥の方から、よくわからない、得体の知れない、今までに経験したことのない、いや、あるかもしれないが、あったとしても、何年も感じたことのない感情が込み上がってきた。
そして、その感情は涙となって、僕の目から大量に溢れ出てきた。制御できなかった。我慢できなかった。身体に従うしかなかった。
僕は、こんなに泣いたのは久しぶりかもしれない。こんなに泣いたのは本当に子供の時以来な気がする。そして、誰かを思って泣くことは本当にこれが初めてだ。
今まで人で泣くということはなかった。あったとしてもそれはかなり前のことすぎて、ないに等しいと言ってもいいだろう。
その人のことが好きで、そして好きすぎてその好きという感情が一定の基準を超えてしまい、泣いてしまうというのは本当に昨日が初めてだった。僕からしたら、好きすぎて、泣くというのはありえないような話だった。
というか、人のことを思って泣くなんて普通のことなのではないか。いや、普通という言い方がそもそも間違っているかもしれないが、僕は本当に今まで何をしてきたのだと思ってしまってならない。
そもそも、恋をすること自体が、本当に久しぶりのことすぎて、よく分からない。恋というものが。
多分、恋をしたのは中学の時が最後だったのではないかなと思う。それから高校、大学と一度も人を好きになったりしていない。なので恋を最後にしたのが、大体15歳と仮定して、今僕は23歳なので、8年ぶりに恋をしているということになる。しかもここまでちゃんと恋をしたことはなくて、そう考えるとこれが初恋と言ってもいいのではないかとすら思ってしまう。
初恋か。君が初恋の相手。でも、なんかそれはそれでいいなと思ってしまう。そっか、僕は2歳年下の男の子に今、恋をしているのか。そして、彼が本当の初恋の相手なのかもしれない。そうやって、どこか他人事のように考えてしまう。
だから、恋をするのが久しぶりすぎて、初めてのことが多すぎて、よく分からないことが多すぎて、つらいのかもしれない。
しかも、恋愛初心者にはかなり厳しいし難しい、遠距離恋愛そして片想いなのだから。
君というとても魅力的な人に出会えたという意味では運がいいとも言えるが、別の意味では運が悪いのかもしれない。
一回も会えてないのに、ここまで彼のことを思い続けている。そして、これほど虚しくて、切なくて、つらいことはない。と同時に僕は、彼の存在があることによって、毎日を人間らしく生きることができているのかもしれない。
本当に僕は君に助けられている。救ってもらっている。だから、今度は僕が救いたい、君を。これを書いているのはそう言った気持ちの表れなのかもしれない。
泣いていたあの瞬間の感覚って、あえて、文字にするとどうなのだろう。もちろん、そんなことする必要はないけれど、どうなのだろう。
何か考えていたかといえば、何も考えていなかったし、考えていたとしたら、君のことか、もしくは君のことが好きという事実(しかもそれは異常なもの)が頭を占めていたかもしれない。
なんか、今思い出しても、変な言い方かもしれないが、気持ちよかった。別の言い方をすれば、心地良かった。
もちろん、その涙の中にはつらさのようなものはあったけれども、いわゆる生きるのが辛くてとか、なにか酷いことをされてとか、そういう暴力的なつらさとは一味も二味も違った。
そのつらさは悲哀とかではないし、それは好きすぎてつらいというもので、うん、なんと言ったらいいかわからないけれど、まあとりあえず、いま振り返ってみてそれだけその子のことが好きということがわかって安心したというか、嬉しかったな、というのが率直な気持ちだ。
君が好きすぎて、そして、その好きという気持ちが大きすぎるが故に涙したというのは、僕はこう表現したくなる。
"君が僕の瞳から溢れた"と。
もはや、涙が溢れたのではなくて、君という存在が涙という形態をとって現出したのだと。
だから、僕の顔は君という存在としての涙でいっぱいだった。僕は涙で顔がグシャグシャになってしまって、すぐに側にあるハンドタオルを目元にあてた。それでも、次から次へと涙が溢れ出していった。
これは何回でも書くけれども、こんなにも人を好きになったのも、そして、その人のことを思ってここまで泣いたのも僕は人生で初めてかもしれない。
いや、なにを言っている。かもしれないとか曖昧な表現を使うな。初めてだ。
そして、さらにこう付け加えたい。僕は本当に人に恵まれている。それも本当に本当に魅力的な人たちに。
そして、僕はこう思う。
僕は、君みたいな今までに会ってきた人の中で、一番魅力的とも言えるような人に今後一生出会えないだろうと。
だからこそ、君を大事にしたいし、君を大事に想いたいし、君を大事に好きになりたい。
そして、君を手放したくない。失いたくない。だって僕がこの世に生を授かってから、初めて巡り会えた運命の人なのだから。
絶対に僕と会うまでは生きていてほしいし、元気でいてほしい。もちろん、僕と会ってからも元気でいてほしいし、なんなら、僕はさらに君を元気に、そして幸せにする自信が、不確かで根拠のない自信がある。
だから、大事に、本当に大事にしようと思った。心に誓った。やさしく、優しく扱おうと思った。
手に乗せた豆腐を崩れないように包丁で切るときのように。大事に。優しくね。
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