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記事一覧
花、送れ。【2000字のホラー】
いい?合言葉を決めておくわね。
何かあった時のために。
高齢者施設での虐待のニュースを観ていた母が、
突然そんなことを言い出した。
「本当のことを口に出してはいけない状況だけれど、助けてほしい時とか。
ほら、映画とかであるじゃない、
犯人に脅されて家族に無理矢理
電話させられる場面。
『ハァイ、こちらは元気でやってるわよ。
ちょっとお金が必要だから持ってきてくれない?』とか気丈に言ったりして。
ヒトハトどもの夢の跡。【ショートショート】
金のドレスやスパンコールのタキシード。
伝書鳩パーティーに参加する人達の服装が眩い。
三百人はいるだろうか。
だが人々のざわめきは無い。
なぜなら皆、
唇を絹糸で縫いつけているからだ。
会話を楽しむには
肩に止まる伝書鳩に手紙を託す。
メモ紙にさっと書き込み、
それを鳩の脚に結わえて相手に飛ばすのだ。
皆ひっきりなしに鳩を飛ばすものだから、
部屋の中は羽音で喧しい。
手元のワイングラスに羽根が浮か
彼女は胸に鳩を飼う。【ショートショート】
彼女はブラウスの中に二羽の鳩を飼っていた。
ベージュ色の柔らかいブラウス越しの
ふたつの膨らみ。
上から二番目のボタンまで外している胸元が
少しはだけて、
鳩の白い羽根の先が窺いていた。
彼女の体温に抱かれ、
鳩は体を丸めて眠っているようだ。
時折喉の奥で
ぽるるぅ、とくぐもった声で鳴いている。
彼女が長い脚を組みかえながら
そうよねえ、と相槌を打つ時。
つるつるしたカフェテーブルの上の
アイス
クリスマス⭐︎カラス【ショートショート】
カラスは13番目の月の使者なのでした。
12月から13月へと受け継がれる儀式は真夜中に行われたので、漆黒のカラスは誰にも見えなかったのです。そんなわけで神様は使者はいないものと思い、世界から13月を消してしまいました。
目抜き通りの大きなクリスマスツリーを眺めるカラスの瞳に、イルミネーションの光がぺかぺか映ります。その時カラスは、この光があれば真夜中でも自分の姿が見えることに気づきました。
カラ
最後の願い。【ショートショート】
この心臓はもうすぐ動きを止めるだろう。
吸って吐いて。
吸って吐いて。
呼吸をするたびに肺の吹子は悲鳴を上げて、
心臓を鞭打つ。
もっと。もっと。
これ以上何を頑張ればいいの。
体に繋がれた管の中を
命が行ったり来たり綱渡りする。
薄く目を開けると、
目の前に神様の両手が見えた。
わたしを迎えに来たらしい。
神様は光に包まれた手を差し伸べて
こう言った。
「あなたの最後の願いは、なあに」
耳物語 2.【ショートショート】
生まれたての朝の光が
ベッドの上に差し込む頃、
僕は彼女の耳の形を指でそっとなぞっていた。
立ち上がる外側のふちのカーブは、
夜明けの静かな湾。
耳たぶにあるぷつりとしたピアスホールは、
僕をこの場所にとどめる錨だった。
♢
美しい彫刻のような彼女の耳に見入っていると、
唐突に耳の穴の中から
するすると小さな梯子が伸びてきた。
1センチくらい突き出たところで止まると、
小人が梯子を昇ってきたの
耳物語 1. 【ショートショート】
生まれたての朝の光が
ベッドの上に差し込む頃、
僕は彼女の耳の形を指でそっとなぞっていた。
立ち上がる外側のふちのカーブは、
夜明けの静かな湾。
耳たぶにあるぷつりとしたピアスホールは、
僕をこの場所にとどめる錨だった。
♢
神の彫刻みたいな耳の
透明なうぶ毛の連なりを無心で撫でていると、
彼女の暗い耳の穴の中で
何かがざわざわと波打っているのが見えた。
何だろう。
もっとよく見てみてみようと
my little demon.【ショートショート】
内緒の話だけれど、僕は小鬼を飼っている。
雨の午後、
欅の木の下で泣いている小鬼を見つけたのだ。
膝を抱えた鬼の一本ツノはびしょ濡れで
震えていた。
まだ子供らしい。
仕方なく僕はタオルで鬼をくるんで
家に連れ帰った。
鬼を飼うのは初めてだったので、
何を食べさせるか悩んだ。
少しずつ試してわかったのは、
好物は胡桃。
胡桃をあげると、
茹でたてのたけのこみたいなツノを
ふるふる振って喜んだ。
初めての鬼になった日。【ショートショート】
「ママが病院に運ばれたよ。
おじさんが病院まで連れて行ってあげるから
一緒に行こう」
「ママが?ケガしたの?」
「そうだよ。キミに会いたがってる」
「ママは朝ご飯食べる時は元気だったのに」
「そういうことって急なんだよ」
「おじさんは誰」
「ママの友だちだよ」
「わたし、おじさんのこと知らない」
「そうだろうね。
キミが幼稚園に行っている間だけ、
ママとおじさんはお食事をしたり
遊