ソマティックエクスペリエンス紹介&体験談
今回は近年注目を集めている新しいトラウマ療法「ソマティックエクスペリエンス(以下SE)」について、私の体験も交えて書いていこうと思います。
ポリヴェーガル理論
本題に入る前に、SEを理解する上で欠かせない「ポリヴェーガル理論」について簡単にご紹介します。
これはアメリカの神経生理学者であるステファン・ポージェス博士が提唱した身体心理理論で、自律神経系に関するものが主軸となっています。
従来の理論では自律神経系を「交感神経系」と「副交感神経系」の二つに分けて考えていました。
一方ポリヴェーガル理論では、副交感神経系を「背側迷走神経複合体」及び「腹側迷走神経複合体」の二つに分けて考えます。
つまり自律神経系を「交感神経系」・「背側迷走神経複合体」・「腹側迷走神経複合体」の三つに分類しているという事です。
危機時の各神経系の役割
自律神経系は危機に際し、それぞれ別の役割を担います。
以下順番に見ていきます。
背側迷走神経複合体
背側迷走神経複合体は一番原始的な神経系で、横隔膜より下の内臓を支配し、危機の際に「凍りつき反応」を起こします。
「凍りつき反応」とは、重大な危機の際に生体が無意識的に呼吸や心拍数を落として「仮死状態」を作り出し、苦痛を感じない様にしつつ生存の可能性を高めるものです。
あまりピンと来ないかもしれませんが、野生動物は普通にこれをやっており、YouTubeなどでも観る事ができます。
また、人間も性暴力などの深刻な危機的状況に遭遇した時に「身体が固まってしまい動けなかった」「声が出なかった」「頭が真っ白になってしまった」といった事が当事者からよく聞かれます。
それも「凍りつき反応」であると考えられています。
交感神経系
交感神経系は背側迷走神経複合体の次に発達した神経系で、危機の際に「闘争・逃走反応」を引き起こします。
腹側迷走神経複合体
腹側迷走神経複合体は一番最後に発達した神経系で、横隔膜より上の内臓や首・顔面を支配し、「社会的交流」を司ります。
人間の危機対応メカニズム
人間は危機の際、進化の順番と逆に「腹側迷走神経複合体→交感神経系→背側迷走神経複合体」の順で対応すると言われています。
つまりまず相手とコミニュケーションを図り、それがダメだったら闘うか逃げるかをし、それもダメだったら凍りつき反応を起こす、という事です。
SEとは
SEはアメリカの心理学者・神経生理学者であるピーター・ラヴィーン博士によって開発された治療法で、トラウマを「神経系に残された未処理のエネルギー」であると考え、それを解放させる事により治癒へと導くものです。
野生動物はなぜトラウマに苦しまないのか
例えばチーターに襲われたインパラは全力疾走して逃げますが、捕食されそうになると突然「凍りつき反応」を起こして仮死状態になります。
この仮死状態にある時に全力疾走をしていた時と同じエネルギーが神経系に残っているとSEでは考えます。
実際、仮死状態から目覚めたインパラはしばらく身体を震わせる事によってこのエネルギーを処理します。
そうする事によって野生動物はトラウマに苦しまなくて済む訳です。
人間の場合
これに対し人間は大脳新皮質が発達しているため、被害体験を「恥」ととらえ、それを抑圧してしまいがちです。
そのため動物の様なエネルギーの解放が行われず、未処理のまま神経系に残ってしまうと考えられています。
これがトラウマの正体であるとピーター(急にフレンドリー)は考えている訳です。
そしてSEでは人間の認知にアプローチする従来の心理療法とは逆に、身体感覚を重視して主にそこへアプローチします。
体験談
私はSEを約1年半、2週間に1回、教育分析も兼ねて受けましたが、正直なところあまり効果は感じませんでした。
セッションの内容は「身体感覚を言語化する」というフォーカシング的な作業が中心で、状況に応じて他の心理療法も使う、という感じでした。
また一般的なカウンセリングとは違い、タッチング(クライアントの許可を得た上で身体に軽く触れるもの)を多用していたのが印象的でした。
「頭で考えた事よりも身体の感覚を大事にする」という習慣が身についた事は非常に良かったと思います。
しかし残念ながら、トラウマが処理されたという感覚は私にはありませんでした。
担当したセラピストが言うには、私の様に虐待されて育った場合、幼い頃から繰り返しトラウマを受けている為神経系が複雑な構造になっており、SEでの治療は難しいそうです。
(※もちろん人によると思いますし、セラピストによっても変わると思います)
逆に特に大きなトラウマを経験せずに成長し、大人になってから事件・事故等に遭遇した場合は、SEが非常に効果的であるケースが多いそうです。
今何かしらのトラウマ症状に苦しんでいる人は試してみてもいいのではないでしょうか。
今回は以上となります。
お読み頂きありがとうございました。
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