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御相伴衆~Escorts 第一章 第二回 数馬編②「凄まじきものは宮仕え」

「おい、入るぞ」
「お休みですか?・・あああ、もう、そんなに、仲良くなられたんですね」

 強い調子で、揺り起こされる。ああ、あのまま、慈朗と眠っちまったんだ。

「ふふふ、へえ、目を開けてください。あぁ、本当だ。黒い瞳」
「はーん、属国のが、新参者で入ってきたって、第二皇妃様から伺ったんだが、お前、芸人なんだってな」
「慈朗、起きてください。この子の躾、僕たちも、仰せ使ってますからね。だらしないのはダメですよ。君は今、二の妃様の、一のお気に入りだから、僕らも甘んじて、敢えて、口出しはしませんが・・・」

 学生服の二人だ。・・・ああ、さっきのお姫様付きの奴らだ。

「慈朗、起きて。今日は、どこを咬まれたんですか?教えて。薬、持ってきましたから」
「・・・あ・・・、はい」
「おい、お前、名前は?」
「数馬だ」
「どう書く?」
「数に馬」
「じゃあ、お前は『馬』だな。おい、『馬』、慈朗を抑えろ」
「あ、・・・やめて・・・」

 丁寧語で、喋ってるのが、素の王室出身の奴、柚葉ゆずはって言う奴だ。そして、高圧的な態度で、乱暴な・・・今、慈朗を押し倒した。こいつが、桐藤きりとか。慈朗が寝る前に教えてくれた奴らだ。

「ちょっと、待てよ、やめろって」
「おや?・・・君、口の聞き方は、どうしたの?まだ、教わっていないのかな?」
「あれえ?・・・頭のおかしいのが、一人でもいると、俺たち『御相伴衆エスコーツ』に傷がつく。柚葉、そっちはいい」
「はん・・・わかったよ。桐藤、でも、あんまり、さいなんじゃダメだよ。この彼、お馬さんの配置、未だ、決まってないからね」
「慈朗、お前の下ができてよかったなあ。立て」
「いいですよ。今日は、ちゃんと、服を着てきても。そんな顔しないで。可愛いのが、君のお役目ですよね。綺麗にしてらっしゃい」

 エスコーツって、なんだ?
 まあ、つまりは、序列がある、って言いたいんだな。色んな国で、色んな人種を見てきたけど、親爺たちが、スメラギに足を踏み入れなかった理由が解ったよ。国そのものの組織だけじゃない、ヒエラルキーというか、カーストというか、そんなのが、どこにでも、存在してるんだな。・・・慈朗は、お妃様付きだけど、最下層だから、こいつらにも虐められてる、ってことなのか。綺麗な顔して、心根が腐った奴らだ。でも、桐藤って、こいつも、生粋のスメラギ人じゃないな。

「不思議そうな顔して、人の顔、まじまじ、見ないでください。恥ずかしいですよ。僕の国も、小さな東の、君の島国に、泣かされてきた歴史がありますからね」

 柚葉。どうやら、本当らしいな。こいつの青い瞳と青髪から、素国王室系。どうして、他国でこんなこと、させられてる?品があるけど、こいつも、なんか、歪んでそうだ。

 そして、桐藤。こいつ、混血だな。スメラギ臭プンプンさせながら、西の感じも受ける、不思議な雰囲気の奴だ。なんか、この顔、知ってる。似てる人を知ってる。あああ、どこかの国の・・・女の人だ。芸人の仲間かな・・・?

「どうやら、俺たちの根踏み、してるらしいな。名前に似合わず、馬鹿じゃない、ってとこか?まあ、東国の馬の分際で、この皇宮の奥まで来られたんだからな、相当なタマだってことだろ?」

ドンッ

 そうか。最下層の新参者は、こんな小さい集団のカーストでの制裁を受けるのか。さっきの慈朗のように、今度は、俺がベッドに押し倒された。桐藤が、馬乗りになって、俺を見降ろす。

「なんだよ、その目は。俺も、比較的、目が鋭い方なんだけど、お前、負けてないな。外では、自由勝手に、どんなことでも、許されてきたかもしれないが、ここでは、そうはいかない。序列があるんだ」
「ダメだよ。桐藤。傷つけたら。お妃様のご機嫌を損ねるんじゃないかな、あ、慈朗。来たね。いいじゃない。今日も可愛いね。シルクのブラウスだね」
「・・・」
「俺じゃ、力余って、怪我させそうだから、代われ、慈朗」
「え、・・・でも、僕・・・」
「・・・どうしたの?やっと、最下層から、抜け出せるよ。こっち側に来られるチャンスなのに」
「ほら、馬に乗れって、本当に、馬なんだから、こいつ。早くしろよ」
「慈朗、いい子だから、桐藤が怒り出さないうちに、言うこと、聞かないとね。お馬さん、酷い目に遭わされちゃうかも。せっかくの君のペット君が・・・」
「そ、そんな、・・・」
「だって、もう、仲良くしたんでしょ・・・ふふふ」
「まあ、いいけど。こいつ、属国の奴だから、僕たちが自由にしてもいいんだから。手や足の1本折れても、誰も気にしないから・・・ほら、どうすんの、慈朗」
「・・・」
「僕の力じゃ、こいつの顔、破裂しちまうからダメだけど、お前ならいい。平手打ちでやれ」
「そんな、・・・」

 慈朗は、仕方なく、俺に馬乗りになったまではいいが、俺を叩くなんてことはできそうもない。それは、わかるから。まあ、叩かれるぐらい、どうってことないから、やればいいんだ。悔しそうに真っ赤な顔して、涙目になっている。

「あああ、桐藤、この子できないよ。僕、思うんだけど、得意なこと、させてあげれば?」
「・・・そんな、楽しそうなのは、無意味じゃないかな・・。あ、成程ね、その手が・・・」

 すると、桐藤は、部屋を走り出ていった。

「あーあ、派手なのは、勘弁なんですけど・・・、桐藤、思いつくと、すぐ、動いちゃうからね。きっと、女官たち、集めてきますよ」
「あああ、それは、やめてください」
「何、恥ずかしがってるの?君は、可愛くて、綺麗なんだから、大丈夫。これで、慈朗のファンがつけば、いいじゃない。味方になってくれるよ。大好きなカメラ、新しいの、買って貰えるかもよ」

 何だ、何だ?・・・って、まあ、相場というか、予測はついた。見世物になるんだな。俺たち。

 大道芸や芝居で、色々なことやってきた。命懸けのやつ、体力勝負のやつ、客を泣かせたり、笑わせたり、木戸銭をもらって、・・・まあ、たまには、お偉いさんの前で演じて、その姿のまま、夜伽に呼ばれて、巫女舞紛いのことをして・・・。芝居だとすれば、俺はいいけど、慈朗、こいつは違う。普通の奴みたいだから。俺が特殊な仕事なだけで。

 そのうち、女たちの黄色い声が近づいてきた。団体を引き連れたコンダクターのように、桐藤が、女官たちを率いてきた。

 男日照りの女たちの好機の目に晒される。きっと、そんな感じだ・・・、慈朗が震え出した。

「ほーら、熱い視線に応えなきゃね♡」
「ちょっと、待て」
「おやおや、綺麗な東国のお馬さん、誰に、口を聞いているのかな?」

 その時、一人の女官が、桐藤に、何か渡した。黒い棒のような、そういう道具なのかもしれないが。桐藤がそれを受け取ると、黄色い歓声が上がった。女たちは、期待に満ちた視線を、俺たちに注いでいる。

「へえ、お姉さま方、これが見たいのですね?わかりました。・・・さて、これを受けるのは、ウマ、お前じゃない。柚葉、慈朗抑えて」
「はいはい。ほら、ぐずぐずしてるから、矛先が、君に来ちゃったよ」
「や、・・・やめて」

 慈朗が、半泣きで、懇願すると、キャアキャアと、歓声が盛り上がる。どうやら、慈朗は、本人の意図に無関係だが、人気があるらしい・・・じゃなくて、まあ、こんな捉え方する、俺もおかしいんだろう。舞台から、観客のリアクション見るのが癖というか、・・・それにしても、弱いもの虐めが、皆、好きなんだな。歪んでるんだ、皇宮すめらみやって。

「上手にやってよね。桐藤。僕に当てたら、ダメだからね」

 桐藤が、女官から手渡されたものは、伸縮する鞭のような道具だった。桐藤は、その伸び縮みを確認するように、派手に、それを振り回し・・・

 そうか!!
 観客の集中を、どうやって奪えばいいか、俺だって、心得ているからさ。

「待てよ!」

 俺は、派手に立ち上がり、女装の上衣の袷を引きちぎり、一気に脱いで見せた。黄色い声が、一気に、俺に向けられたのを感じた。

 驚く桐藤は、動きを留める。俺は、周囲の女たちに視線を這わせ、結い髪を解き、髪飾りを、観客に投げる。そう、その時も、位の高そうな女目がけて。瞬時にできるアドリブの力だ。伊達に役者、やってきてねえ。舐め回すように、女たちを見る。どうだ、こんな趣向もいいだろう。キャアキャアと、気持ち良い程の黄色い声だ。

「ちょっ、ちょっとお、見えないわ」
「何?あの子、今日、新しく来た子」
「やだあ、黒い瞳。綺麗な子ね。東国人、初めて見たわ」
「動き速い、桐藤様と、同じぐらいね」

「お姉様方、お初に、お目もじ申し上げます。俺は、東国出身の数馬と申します。たまには、このような派手な趣向もよろしいかと思い、ご準備させて頂きました。さあ、腕比べ。こちらの桐藤様と俺、一騎打ちにて、勝負致します。ご覧あれ」

 キャアキャアの黄色い声は、ますます、高鳴る。

「どうされました?桐藤様、その鞭を奮って、俺を打ってみては?」
「くっ・・・お前」
「俺は丸腰だぜ、しかも、上半身はこの通りだ。俺の方が、遥かに不利な条件だ」
「臨む所だ、行くぞ!!」

 桐藤が鞭を打つと、俺はギリギリを交わす。鞭の癖が解ってきたので、動きを呼んで、交わし続ける。

「桐藤様、頑張って」
「あっ、惜しい」
「早く、東国の奴隷など、打ちとって」
「ああん、危ない」
「逃げて・・・あ、つい・・・♡」
「すごいわ、桐藤様と互角じゃない」
「逃げて・・・、東国の♡」
「わあ、素敵、カッコいい、お二人とも」
「え?何よ、あんた・・・ダメよ。桐藤様を応援しないと・・・」
「でも、でも、私、あちらの方が・・・」
「私も、あの黒い瞳の・・・なんて仰ったかしら・・・?」
「数馬とか言ってたわ。でも、ダメです。名前呼んだら、きっとお仕置きされます」
「頑張って、逃げて、黒い目の・・・」

 「な、・・・なんだと?」

  不思議と、女官たちの視線とリアクションが、俺寄りになっているの、気づいて、うろたえ始めたか?桐藤。

  その時、廊下の方を、誰かが、パタパタと走ってくる様子が見て取れた。まだ、いるのか、これでも、2、30人程の女官が、集まっているのに。

 「桐藤様、柚葉様、女美架めみか姫様が・・・」
「皆の者、静まりなさい・・・お二人も・・・」

 先程の大騒ぎが嘘のように静まり、女官たちは、跪いた。桐藤は、鞭を傍の女官に隠させ、服装を整えた。柚葉も、慈朗を放し、同様に振る舞う。慈朗は、そのまま、跪き、叩頭のように、頭を床につけた。

「何の騒ぎなの?・・・ずるい。楽しいことしてるなら、呼んでくれればいいのに。ねえ、桐藤、柚葉」

 桐藤は、柚葉に、目で合図をした。俺も、慌てて、跪いた。

「これは、女美架めみか姫様、新しい者が、今日から、入りました故、皆の者に、ご紹介を。彼は役者ですので、派手な立ち回りなど、得意としており、余興がてら、女官の皆様に、ご披露させておりました」
「そうなのね、柚葉。桐藤も、動いていたのでしょ?」
「はい、即興ですが、立ち回りのお相手を致しました」
「先程、廊下を通った子よね。お洋服、破けてる。そんなお芝居なの?」
「数馬、ご挨拶がてら、ご説明を。こちらは、第二皇妃美蘭様の末娘、女美架姫様です」

 さっき、来る途中に擦れ違った女の子、お姫様だったのか。

「はい、俺は、東国から参りました。旅芸人の数馬と申します。よろしくお願い申し上げます。これは、戦いのいで立ちの一つでして、女装した東国の剣士が、その正体を現した時の姿です」
「・・・初めて見たわ。とても、強そうですね」
「数馬、もういいので、衣服を改めよ。ああ、慈朗、君のを、貸してあげて」
「はい・・・」

 近くのドレッサーから、慈朗は、俺に白いシャツを取り出し、肩にかけてくれた。

「さて、余興も終わりです。皆さん、務めに戻られるように、さあ、早く」

 年配の女官が手を叩きながら、周囲に促した。彼女は、その後、桐藤に目配せをし、彼はそれに頷いた。その後、女官たちは、三々五々、持ち場に戻っていった。多分、女官長とかいうやつだろうか。

「柚葉様、姫様、そろそろ、お勉強の時間かと」
「ああ、あかつき、お戻りになっても、大丈夫ですよ。後は、僕たちで、女美架姫様のお相手を致しますから」
「わかりました。では、よろしいですね。女美架姫様、あとは、お兄様方の言うことを聞いて、お勉強の続きをなさってくださいませ」
「わかったわ、暁」

 柚葉とその暁という女官も、目配せをした。

 へえ、桐藤は女官長、柚葉は姫様付き女官を・・・まあ、抑えてるんだろうな。互いに、手練手管で、拮抗するバランスシートが見え隠れする感じで・・・きっと、この騒ぎも不問となり、お咎めなし。・・にしても、姫様だよな・・・、ここでの毒気を感じられない、唯一の人物に見えるんだけど・・・。

 そんな、素直な感じで小柄な、そのお姫様と、ここで目が合った。

                             ~つづく~


みとぎやの小説・数馬編② 御相伴衆~Escorts 第一章 第二回

なんか、ヤな感じですが、その実、御相伴衆の4人が出てきました。
イラストの4人が揃いました。

向かって、左から、桐藤、慈朗、数馬、柚葉

 これから、少しずつ、イラストもカラーになっていくと思います。
 デジタルが封印されている状態なので、ちょっと、遅筆になりますが、頑張らせて頂きますので、ご期待ください。

 スタートは、このような人間関係ですが、その内、色々な結びつき、或いは、隠された本来の人間関係が出てきます。
 ここでは、彼ら達には、それぞれにとって、過酷な役割が与えられます。また、それぞれの事情と、大人たちの関わりもあり、その中で、関係性が変わってきます。特殊な環境の中、時には対立し、結束し、様相は変わっていきます。各人の細かいご紹介なども、次回以降にさせて頂きますので、宜しく、お楽しみになさってください。

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