投球運動連鎖の要。膝関節伸展→骨盤回旋の順序
📖 文献情報 と 抄録和訳
プロ投手における関節およびセグメントのシークエンスと球速および投球腕の運動特性との関連性
Manzi, Joseph E., et al. "Joint and segment sequencing and its relationship to ball velocity and throwing arm kinetics in professional pitchers." Journal of Shoulder and Elbow Surgery 31.5 (2022): 1026-1034.
🔗 DOI, PubMed, Google Scholar
✅ 前提知識:適切な運動連鎖における関節角速度の順序の定義
- 踏み出し足膝伸展速度 →骨盤回転速度 →体幹回転速度 →肩関節内旋速度 →前腕回内速度 →ボールリリース
[背景・目的] 投球動作における時間的変動は、運動連鎖に大きな影響を与えることが証明されており、そのため、傷害のリスクに関係している。目的:最大関節速度および最大分節速度の時間的順序を変化させることが球速および上肢の運動学に及ぼす影響を明らかにすること。
[方法] プロ野球投手(n = 287)を対象に、投球中の3Dモーションキャプチャ(480Hz)を用いて評価を行った。投球は、時系列から外れた最初の最大関節速度またはセグメント速度によって、以下のグループのいずれかに分類された:膝伸展(DscK)、骨盤回転(DscP)、体幹回転(DscT)、肩回転(DscS)、前腕プロネーション(DscF)、プロパー(正しい時系列の投手用)、および全投手の総数(全投手用).10個の正規化された投球腕の運動変数を群間で比較した。最大速度のタイミングとボール速度について、回帰分析を行った。
[結果] 投球回数が多いのはDscK群(64.5%)であった。DscK群はProper群に比べ、踏み出し足膝伸展最大速度が有意に遅かった(253°/s vs 316°/s, P = 0.017)。Proper群では,Total Population群と比較して球速が有意に速かった(39.0 ± 1.9 m/s vs. 38.3 ± 2.1 m/s,P = 0.013).DscP群はProper群と比較して,最大骨盤回転速度が有意に遅かった(596°/s vs. 698°/s, P < 0.001).プロパー群では、母集団と比較して運動学的な有意差はなかった。踏み出し足膝伸展速度が最大になるのが1標準偏差遅れるごとに,ボール速度は0.38m/s増加した(B = 3.5, β = 0.18, P < 0.001).骨盤回転速度が最大になるタイミングが1標準偏差遅れるごとに,骨盤回転速度は22.5°/s(B = 1107.0, β = 0.23, P < .001),球速は0.48 m/s(B = 23.4, β = 0.23, P < .001)それぞれ増加した.
[結論] 膝伸展と骨盤回転の速度タイミングの順序が不一致の投手は、対応するセグメント/関節速度が有意に遅かった。逆に、適切なシーケンスを持つ投手は、投球腕のキネティクスにほとんど差がなく、球速が最も速かった。球速を最大化するために、プロの投手は、特に膝と骨盤に着目し、下位から上位の順で最大速度を達成することを考慮すべきである。
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投球動作における運動連鎖とは、何だろう。
並進運動から回転運動への変換とエネルギーの転移
今回の研究が明らかにした膝伸展→骨盤回旋の順序は、このうち特に前半の「並進運動から回転運動への変換」にとって要となる機構だ。
まず、投球動作においてワインドアップから踏み出し足接地まではほぼ「並進運動」である。
踏み出し足接地から一気に回転運動に切り替わる。
この切り替わりを担当するのが、膝関節伸展と骨盤回旋だ。
吉福は、この並進→回転時の力学的モデルを示している。
すなわち、並進しようとする骨盤の片側がブレーキ・あるいは逆行するような衝突力が加わることで骨盤回旋が生じる。
このモデルにおける衝撃力を引き起こすものこそ、大腿骨近位部であり、その部分を固定あるいは逆行させるものこそ、踏み出し足の膝関節伸展である。
Whiteleyは、投球動作において膝関節伸展がしっかり起こり踏み出し足が強固に固定されている状態を「Firming up」と呼び、逆に膝関節伸展が適切に起こらないことを「Soften」と呼んだ(📕Whiteley, 2007 >>> PMC.)。
このモデルで考えると、しっかりとした膝関節伸展により踏み出し足が固定されなければ、妥当な骨盤回旋は生じにくい。
すなわち、今回の研究における最も重大な要は「膝関節伸展角速度」だ。
骨盤回旋は、その結果引き起こされてくる現象の1つかもしれない。
投球動作における膝関節伸展の戦略とタイミングを学習することは、肝心だ。
その介入方法にもいくつものポイントがあるが・・・、冗長になってしまう。
またの機会に、共有したいと思う。
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