118歳 (1分小説)
それは、予期せぬ出来事だった。
「あなたさまが、今年、118歳になられる石田芳吉さんですよね?」
市の職員が、いきなり石田家にやって来たのだ。
「……」
「住民票によると、芳吉さんは、1901年、明治34年に誕生。総理大臣だった、故・佐藤栄作さんと、同じ年に生まれたということですが」
「あ、そう」
職員から頂いたまんじゅうを食べると、庶民的で素朴な味がした。
「失礼ですが、ご本人様ですよね?」
石田家の人々が、私の代わりに答える。
「もちろん」
アドリブとはいえ、よく息が合っている。
「お気を悪くさせて、すみませんでした。確認できる書類がないもので」
【その夜】
「まさか、市の職員が抜き打ち調査に来るだなんて、思いもしなかったものですから。どうも、失礼いたしました」
石田家の方々は、私に深々と頭を下げた。
「いえ、こちらこそ。色々と、ありがとうございました。大変、楽しい日々でした」
石田家の前に止められた、迎えの車へと急ぐ。これ以上、長居をして、騒動になってはいけない。
車に乗り込むと、待機していた運転手が言った。
「このまま、石田芳吉さんとして、生きていかれる道もありますよ」
そうだな。でも。
「私は、ただ、一般の方たちの人生を、少し体験してみたかっただけです」
運転手が、納得したようにうなずいた。
車が、ゆっくりと動きだした。
それは、2019年、昭和94年の夏の出来事だった。
※もちろん、フィクションです。不謹慎に映ったら、すみません。