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伝統 (1分小説)
「アメリカの寿司屋で、アボカドのネタが出てきた時、これは寿司ではない、と思ったもんだよ」
一番弟子が、私に賛同した。
「日本文化を冒とくしていますよね」
そこへ、二番弟子が加わった。
「でも逆に、日本人が、外国人へ向けて忖度している部分もありませんか。例えば、青い柔道着とか」
「勝敗が分かりやすいように、いつからか、青に変わったんだよな」
私は、抹茶を立て、茶わんを一番弟子の前に置いた。
「私は、伝統を汚すつもりはないし、迎合するつもりもない。ただ、自分の代で、歴史を終わらせるわけにはいかないだけだ」
二人だけになってしまった弟子たち。彼らの命も、茶道も守り抜かなければならない。
「分かっております、家元」
「そのとおりです」
一番弟子が、口元のマスクを取った。
そして、ストローをくわえ、両手で茶わんを持ち、抹茶を吸った。