東京タワー (1分小説)
夕暮れ時。
東京タワーの眼下に広がる街並みは、ビルやマンション、車。
オレの目には、どれも、ミニチュアのおもちゃのように小さく見えた。
「国道が渋滞してるね。あの下水工事が原因かな」
オレは、はるか向こうの工事現場を指差した。
「工事?ああ、確かにやってますね」
いきなり、汗だく中年サラリーマンに声を掛けられたギャルは、完全にビビってしまっている。
「近すぎると問題の原因に気づかないけど、ちょっと離れてみると、分かることってあるよな」
オレは、できるだけ神経を刺激しないように、優しく声を掛け続けた。
「キミも、彼氏や家族から距離を置いて、何か考えてみたいことでもあったのかな?」
女性は何も答えず、赤い鉄骨から身を乗り出した。
「待て、早まるな!」
オレは、鉄骨から鉄骨に飛び移り、女性の手をしっかりと握った。
「高所パフォーマーの、実況の邪魔しないでよ!」
宙に浮いた彼女が叫んだ。
渋滞の車内から、いくつもの笑い声と拍手が聞こえた気がした。