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学校に行かないという選択。「千鳥石 火山灰ガラスクラブ。その3。」
「ちょっと昔、100年くらい前のこと。札幌は澄川に住むある相撲とりが火山灰をガラスの原料にして商売にしたとさ。シコ名は千鳥石。できたガラスはビールの瓶。でも、どうして澄川にガラスの原料があったの?? それは、はるか昔の4万年前、まだマンモスが歩いていた頃の巨大火山噴火にさかのぼる。。。
果たして2022年の澄川でガラスを作ることはできるのか? 千鳥石火山灰ガラスクラブ」
その1とその2はこちら。
2回目のワークショップで、〈ふいご作り〉の宿題を持ち帰った長男。家の中で、「・・・ふいご・・・ふいご作らないと。」「カッコイイふいご作りたい。」とすっかり〈ふいご〉に取り憑かれている様子だった。
まず、自分でふいごについてネットで調べ始める。そして、試しに木片とビニールを貼り付けてイメージを膨らませているようだった。
「う~ん・・・脇がビニールだと、カッコ悪い・・・」
謎のこだわり。でも、そういうこだわりが大事だったもするよね、と母は思う。「なんでもいい」時もあるかもしれないけれど、実は、なんでも良くないことって、結構あるのではないだろうか。
いくつか自分で〈ふいご〉らしきものを作り、工学部出身の鍼灸師である夫にアドバイスを乞う。空気を送り出すパイプになるものはないか、持ち手はどうしたら付けられるか。
夫が外玄関でごそごそと何かを探しているな、と思ったら翌日、玄関にふいご用のパイプらしきものが置いてあった。夫に尋ねると、長男の壊れた捕虫網の持ち手部分をカットしたものだった。なんとも丁度よい感じだ。
脇の部分は、皮にしたかったらしいが、時間切れで、丈夫なビニールを貼り付けることになった。一番窯に近い部分がガムテープだったので、「熱で大丈夫かな、」と夫も長男も心配していたが、まず、これで完成としたようだった。
ワークショップの当日の予定は、前日からスタッフの皆さん、アーティストの皆さんが泊まり込みで窯に火を入れ、温度を上げるとのことだった。窯の温度を上げるには、レンガ自体を時間をかけて温める必要があるのだそうだ。
当日は、窯の様子を見学したいようであれば、希望者は朝から参加出来るとお知らせをいただいていた。長男は、「朝から行きたい!」というので、お弁当箱にいっぱいのお稲荷さんを持たせ、夫が仕事先に向かう途中でアートスタジオに降ろしてくれることになった。
私は、後から合流することになり、家事を済ませ、夫が帰宅するのを待って、アートスタジオに出掛けた。
私が行った時には、既に、火山灰とソーダ灰を様々な割合で配合し、窯に入れて溶解している最中だった。
長男を見付けて聞くと、「今、溶かしてるんだけど、時間がかかるみたい。」とのこと。「ふいごは使えたの?」と尋ねると「うん!いい感じだったよ。でもね、やっぱり、先の窯に近づく部分が布ガムテープだったから、燃えちゃうねって、アルミテープ貼ってくれた。」その後も、〈ふいご〉は、七輪の火起こしにも活躍したようだった。良かった良かった。
私がアートスタジオに到着するまでに行われたレクチャーについては、アートスタジオの記事から抜粋させていただいた。
窯が温まったところで、上杉さんからガラス原料の配合についてレクチャーがありました。今回、融点を下げるために火山灰に2~4割のソーダ灰(炭酸ナトリウム)を混ぜて原料とします。
さらに、上杉さんが持って来てくれた着色用の金属。これらを原料に混ぜることでガラスに色をつけることができます。
若草色は酸化クロム、水色は酸化第二銅、瑠璃色は酸化コバルト、スモーク色は酸化ニッケル。
上杉さんの説明によると、透明なガラスというのはそもそも無いそうで、透明に見えるように「補色」を加えているのだそうです。ガラスは光を通すので、光の三原色の補色を足すことで透明に見えるんですね。なるほど〜。
14時頃から、窯に火山灰を入れ溶解しているとのこと。途中で窯の蓋を開けて中を見てみるが、まだ溶解しきっていない。あまり頻繁に蓋を開けてしまうと、中の温度が下がり溶解は進まない。15時頃には窯内の温度は900度を超える。
「次は、16時に開けるよ!」と声がかかり、それまで子どもたちは、窯の熱で、マシュマロを焼いたり、薩摩芋で焼き芋をしたり、たまたまスタッフのおやつかごに入っていたさばの味噌煮缶を温め、白ごはん買出し部隊が結成され、さばの味噌煮ご飯を食べたりしていた。キャンプみたいで面白い。長男は、薩摩芋を美味しくいただいたと満足そうに報告してくれた。
「煙突の熱で焦げた木片で、壁に落書きしたんだよね~。」と長男。「でもさ、アーティストの人たちは、一緒に落書きしてたくらいなのに、子どもたちの方が、〈それって、ダメなんじゃない?〉とか言うんだよ。面白いよね。」と言っていた。後からアートスタジオの写真を見たら、長男は木炭で壁にドラえもんを描いていた。そして、画像のキャプションに、〈排気の熱で出来た木炭でデッサンが始まりました。〉と書かれていて、なんだか笑ってしまった。
大人が枠に捕らわれないことで、子どもたちのあそびも、まなびも広がる。これをただの「落書き」として注意したり止めたりして終えさせてしまうか、「木炭デッサン」として、共に楽しむかで、子どもたちの未来は、変わるだろう。今すぐでなくても、いつか何処かできっと違ってくる。
「16時だよ~!窯、開けるよ~!」の声で子どもたちが集まってくる。
ガラス作家の上杉さんが、窯を開け、中から火山灰の入った容器を慎重に取り出す。
子どもたちは、一人ずつ、革手袋をはめ、トングで容器の中のガラスに触る。まだ原材料はかなり硬かったが、少しだけガラス質ものが取り出される。
ワークショップの終了予定時刻がやってきた。「このままじゃ気になるよねぇ~?!残れる人は残って見ていきたいよねぇ~?!」とアーティストの深澤さん。長男は、「残っていい?ガラスがどうなるか、最後まで見ていきたい。」と言った。そりゃ、そうだよね。気になるよね。
そこから2時間。18時頃になると、ガラスの溶解がかなり進み、トングで触ると柔らかくなり、水飴細工のようになっていた。親指大のガラスを取り出すことができ、砂の中に入れて冷ます。完全に冷めてから翌日以降に洗うとよいとのことだった。
帰りの支度をして帰ろうとすると、「ガラス冷めたよ!」とガラス作家の上杉さんが、ガラスを見せてくださった。
「火山灰からガラスを作ったっていうのは、博物館で飾れるくらい珍しいものだと思う。」とおっしゃっていた。
出来上がったガラスは、ワークショップに参加し始めた時に最終的に出来上がるであろうと勝手に想像していたシーグラスのようなガラスではなかった。
自分たちで採取した火山灰、作った窯で溶解したガラス。
私たちの知っているガラスというものが、どれだけ手をかけられ、製品として暮らしに使えるようにしてあるものなのか、ということを改めて考えるきっかけになった。
そして、このワークショップに参加し、「時間内に完成しなかったこと」に私は意味を感じた。
ガラスの溶解には、時間がかかる。準備してくださった時間を除いても、加熱に26時間、炭を35キロ使用したとのことだった。
現代は、「なんでもスイッチひとつで動く時代」「ネット注文すれば、翌日にでも欲しい物が手に入る時代」だ。
「はい、次は1時間後に窯を開けるよ~」と声をかけられること。そしてその時間を子どもたちは、思い思いに過ごす。それが私にはとても素敵な時間だと思えた。
時間がかかること。
手間がかかること。
それを味わうこと。
これこそが、今回のワークショップの醍醐味だった気がする。
子どもたちに、素敵な会員証が配られた。
その裏にはこんなメッセージが書かれていた。
千鳥石火山灰ガラスクラブの証
ガラスについて知ることは、
モノはどのように生まれたのかを知ること。
人はどのように生きてきたのかを知ること。
火・風・水・地・電気からできるものには、
まだまだ無限の可能性が詰まっています。
大切に想う心。思いやりと感謝の気持ちを忘れないこと。
気持ちはカタチに記憶され、未来へつながっていきます。
アーティストの皆さん、スタッフの皆さん、素敵な時間を共有させていただき、ありがとうございました。
子どもたちに経験をさせてあげたい、と思ってくださった様々な事を、子どもたちは、身体と心でたくさん感じていたことと思います。
この点は、きっと、いつか、何処かで線となる。
千鳥石火山灰ガラスクラブワークショップ・終
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画像は天神山アートスタジオのレポートからお借りしました。ありがとうございました!
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