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『砂の器』と木次線 出版までの道のり(4)

 まだまだ暑い日が続きますが、いかがお過ごしでしょうか。この夏は思いがけない「大社旋風」で、島根県は大いに盛り上がりました。ご存知の通り、出雲市にある県立の大社高校野球部が甲子園に出場。ほぼ県内出身の選手ばかりの無名チームが名だたる強豪校、常連校を破ってベスト8まで勝ち進み、日本中に感動を与えてくれました。アルプススタンドでの大応援も話題になりましたね。
 さて、拙著【『砂の器』と木次線】を出版するまでのプロセスをご紹介するシリーズは今回が最終回です。2023年9月から12月に出版にこぎつけるまでの最後の3か月を振り返ります。いわば仕上げの段階です。


出版までラスト3か月(23年秋~冬)

作業開始から発売までのスケジュール

本づくりの作業 

 前回は2023年9月に原稿(第1稿)を書き終えたところまで述べました。当然のことですが、原稿をそのまま印刷しただけでは本(書籍)にはなりません。表紙やカバーも必要ですし、文字の書体や大きさ、1ページあたりの行数をどうするのか、写真やイラストをどう配置するのかなど、デザイン、レイアウトの作業も必要になります。
 本づくりの実際の作業は出版社(松江市のハーベスト出版)が行いますが、著者と編集者が打ち合わせをして、意見やアイデアを出し合いながら方針を決めていきます。

掲載する写真の選定・収集

 本書は『砂の器』という映画のロケを題材にしていることもあり、文章だけではどうしても内容が伝わりにくく、写真や図表といったビジュアル素材が必要になりました。  
 写真については、関係者の方々が所蔵されているロケ時の写真や昔の木次線の写真、映画の場面そのものなど、掲載したいものをリストアップしたところ、全部で40数点になりました。 
 関係者の方がお持ちの写真については、インタビュー取材で伺った際にスマホのカメラで仮撮影(接写)していました。本来であればスキャナーを持ち込んで取り込みたいところですが、写真が古いアルバムに貼りつけられていて取り出すのが困難なケースも多く、作業が煩雑になるので諦めました。 

古い写真を取り込むにはGoogleフォトスキャンを使うと便利!

 代わりに重宝したのは「Googleフォトスキャン」というスマホのアプリです。改めて所有者の方々にお願いしてスマホのカメラで撮影させていただいたのですが、元の写真に光が反射しないように注意して撮影した後、このアプリで画像の歪みを補正すると、完璧ではないですが元の写真と見た目がほとんど変わらない画像が作成できます。
 下のサイトに使い方や長所、短所などがまとめられています。

 昔の木次線の写真に関しては、沿線の自治体などで作る木次線利活用推進協議会がかなりの数の写真を収集し、ネットで公開していますので、同協議会にお願いしてお借りしました。

 また、映画そのものの画像については、松竹に申請して使用料をお支払いし、写真を提供していただきました。予算がありませんので、3点のみに絞りました。

校正作業に7週間

ゲラ刷りでミスをチェック

 「ゲラ刷り」という言葉をお聞きになったことがあると思います。ゲラとは「活字の組み版を入れる浅い容器」を意味する英語のgalleyが転じた言葉だそうで、要は「試し刷り」のことです。
 本のページは、本文、見出し、写真、図表、キャプション、ページ番号などで構成されていますが、これらを実際の本の体裁にまとめ、紙に刷り出したものがゲラです。
 そして、このゲラを細かくチェックして間違い等を修正する作業が校正です。元の原稿はパソコンのワープロソフト(Microsoft Word)で書いている訳ですが、パソコンの中では気がつかなかったミスが、ゲラにすることで見えてくるものです。誤字脱字、表記の不揃いといった外形的なミスはもちろん、読みにくい言い回しなど表現上の問題、さらには内容の事実関係の誤りなど修正箇所はいくらでも出てきます。
 出版社が依頼したプロの校正者にもチェックしてもらいましたが、やはり内容に関するものは著者でなければ気づかないことが多いので、著者による校正が大事になってきます。編集者からゲラを受け取ったら、最初から最後まで目を皿のようにして読み、修正が必要な箇所には赤ペンで直しを入れて編集者に返します。この段階では「これで完璧」と思うのですが、数日後、修正を反映した新しいゲラが出来てきて、また改めてチェックすると、前回気づかなかったミスが見つかります。何しろ300ページ以上ある本なので、モグラ叩きではないですが、やってもやっても終わらない感じでほとほと疲れました。まさにアナログな作業ですが、校正を徹底してやることで本の品質を高めることができるともいえます。
 スケジュールとしては、12月15日の発売から逆算すると、印刷と製本に約2週間かかるということで、11月24日が「校了」(校正作業の完了)と決められていました。最初のゲラ(第1稿)を受け取ったのが10月6日でしたので、7週間にわたって校正を繰り返したことになります。最終的には第5稿まで行ったと思います。

イラストを依頼

 本のカバーと各章の扉のイラストは、東京在住のイラストレーター、岡本和泉さんに依頼しました。担当編集者の井上さんが、ネットで『七人の侍 ロケ地の謎を探る』という本を見つけたのですが、その本のイラストを手がけていたのが岡本さんでした。早速、井上さんが連絡を取ったところ、岡本さんも映画の『砂の器』が大好きだということで、二つ返事で引き受けて下さいました。  

 東京の岡本さんとはZoomや電話、メールで何度もやりとりし、こちらのイメージをお伝えして、現地の写真など参考となる画像をお送りしました。作業スケジュールがタイトだったにもかかわらず、素敵なイラストを仕上げていただきました。
 カバーのイラストは映画のいくつかの場面のイメージをつないだ絵巻風になっていますが、今西刑事が東京の喫茶店で溶けかかったアイスクリームを食べながら地図を広げて亀嵩の地名を発見する場面は、岡本さんのお気に入りでどうしても描きたかったようです。
 岡本さんのサイトでも、本書のイラストが紹介されています。

ロケ地マップは編集者のアイデア

 本書の巻頭グラビアページには、木次線沿線の『砂の器』ロケ地マップを収録しました。これも担当編集者の井上さんのアイデアです。

『砂の器』ロケ地マップ

 井上さんは20代で、映画『砂の器』をリアルタイムでは知らない世代なのですが、今回の出版にあたっては、ほんとうに一所懸命ご尽力いただきました。 
 著者の全く個人的な思いつきでスタートした企画ですが、幸い多くの皆さんのお力によって、何とか書籍の形となり出版することができました。末筆ながら、ご協力いただいた皆さんに改めて感謝申し上げます。(終)


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