「あいにくあんたのためじゃない」ほんとそうよ。
柚木麻子さん「あいにくあんたのためじゃない」新潮社
2024年3月21日発売。
6つの短編はそれぞれ独立したお話。それぞれにラビリンスに迷い込んだようなめまいを感じるような仕掛けがある。6つのラビリンスは一つとして類似がない。手練手管で登場人物や読者を絡め取るが、なぜだか読後感はすがすがしい。
最初の一編「めんや 評論家おことわり」には勧善懲悪の面持ちがあり、すっきりした後味が残るお話。
とあるラーメンライターの独白なのだが、当初はこの男性の語り手に共感を持つのだ。
なぜだろう。人たらしだからかな。
ハンドルネーム「ラーメン武士」を名乗った佐橋はラーメンの知識に関しては一線を画すブロガーだったようだ。
そのため書籍も数冊世に送り出し、TVでのレギュラー番組も持つ人気者だったらしい。
その勢いに陰りが見え始めたのは、とある人気店から締め出しを食らったころだった。
佐橋をはじめラーメン評論家を名乗るインフルエンサーたちが仁義や流儀や作法を勝手に確立させていることを拒否してきたのだ。
佐橋の取材方法に無理があったのかな、どうしてここまで嫌われているんだろうか?
読者は佐橋と同一の疑問を持つはずだ。
そこからの怒涛の展開は読んでいただきたいところ。
個人が経営するラーメン店にこんなに翻弄されるのか。
仕込みと調合具合が芸術作品並みなのだ。
*
私が好きなもう一編は「トリアージ2020」。
主人公の女性梨子はどうやら妊婦さん。お友達のお母様がひょっこり庭に現れ、悪阻に苦しむ梨子が簡単に調理して食べられる食材を置いていく。
どうして作ったものではないのか。それは2020年の盛夏だから。
不安な時期に不安な世相とウイルスが混じり合う。清涼な風(と食材)をお友達のお母様が運んでくる。
さてこのお友達と梨子は面識がない。Twitterで相互フォローしているだけ。「めんや」の時は諸悪の根源のようなブロガーが登場したが、今回はWEBでのつながりが”母子同士”のつながりを深めていくのだ。
*
柚木麻子さんの小説はともかく食べ物が美味しそう。
人情系のお料理小説などひとつもないにもかかわらず。
男を殺害して逮捕される「Butter」(新潮文庫)や、ストーカーなのか⁉️と震える「ナイルパーチの女子会」(文春文庫)でも、調理の過程や料理の味わいなどがうまく物語の流れに乗る。
読者が怖くて振り向いてしまうような心持ちにさせながらも、話の中の食べ物を食べたくなる稀有な作家だと思う。
新潮社さんの特設サイトあります。
https://www.shinchosha.co.jp/special/aitame/
第171回直木三十五賞候補作品。
#あいにくあんたのためじゃない
#柚木麻子 #新潮社
#直木賞 #第171回直木三十五賞
#わたしの本棚
#Butter #ナイルパーチの女子会
#読書 #読書記録
#suisuibooks
https://suisuibooks.club